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人として生まれ あなたも


この世を知った日はいつだっただろう
いくつの夏や冬を経験してきたことだろう
季節の匂いを嗅ぎわけることを楽しみ
熱い胸の鼓動に顔を火照らせ もてあました一日を
カレンダーの数字を指でたどりながら
熟してゆく果実のように慎重に
ゆっくりと また時には急ぐ足で歩き
あなたもこの地上で愛するものを探していたのだろう

星空を見逃したころから退屈を知りはじめ
疲れた大人の表情をも覚えた いくどめかの春に
味方を失った ひとりぼっちのちいさな生き物のように
よそよそしくなった世界と心細さのなかであなたも
子供のステップを忘れ うつむき歩く日があり
背に重い荷物を感じて立ち止まった街角で
自分の吐息を聞く悲しみを知っていたかもしれない

人として生まれ あなたも
生きるために食べ 眠り 働き ときに愛し また裏切り
束の間の夢を夜の闇のなかで言葉にして涙したかもしれない
信ずるものがないことにいつか気づき
だが信ずるものがあったのかさえ果たしてその心では
輪郭のある記憶がない
その荒れた大地では 愚かな野望でさえ
希望を失う切なさよりは愛せるかもしれなかった

生きることは世界の悲しみを受け止める強さも必要なのだと
そのあなたが声にして宣言しようとも
目の前のあからさまな悲しみに言葉は無よりも力を失う
あなたが日々の不幸に 精一杯の価値を与えてはみても
愚かな心ではほんとうの悲しみには勝つことはできないのだ

そしていくつものあなたのシナリオは上演され続け
いくつかの出会いに 確かな また曖昧な結末も用意されていた
終わることのないと思えるほどの痛みと傷もあった
一生を慰めることのできるような贈り物もあった
そうして人として あなたは充分に立振る舞った

そんな今までの またこれからの あなたとの別れに
よそゆきの笑みは似合わないだろう
さようならを告げるのをためらってみても
時間の得意とする現実からは逃れることはできない
大人になるとは多くの悲しみさえも知りえるということ

いつか運命づけられた そのさようならの分かち合いに
前を行く ともだちの勇気と微笑みに感謝して
静けさへ旅立つ 喜びをも想う友人となろう
それが人として こころから贈ることのできるだろう
真実にあまり遠くないはずの
一冊のアルバムとして

わたしたちが忘却という能力にささやかに抵抗し
人に生まれた悲しみと喜びの
その無邪気すぎる短い歴史を思い
いく筋かの光のように残される
静止する記憶を出会いの証として
流れ行く河と そそぎゆく海を
その日 夢みよう
あなたの
透明の幸福と
かさなるように

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