十二月の語らい


冬を迎えたその午後ホスピスにいる友人を訪ねた
半年前までは無邪気に奇蹟を夢みていたわたしたちも
その日は穏やかな夕暮れの静寂をうけいれて語らった

友人は
最後に落ち着き場所を恵まれた
幸運と恩恵に感謝していると微笑んで言った
その少し寒い部屋に悲しみの気配はあったが
それは
わたしたちを打ち負かすような
また苦しめるようなものではなかった
むしろ
夏からついには秋と冬を迎え
すべてが枯れゆき土へと還る自然の風景に似ていた


別れるとき
差し延ばされて取った友人のその手は
ひとりぼっちの淋しさのように冷たかった
思わず包み込んだわたしの手の温度が
言葉にし得なかった
大切な
なにかを伝えていく気がして
そのことに感謝したくなった

この世を去るということはだれしも避けがたいひとつの現実だが
友人の静かな顔にはそれも悪くないことなのだよと
教えてくれるような透明な光があった

帰路につくわたしの感情は少し涙ぐんだが
ともに語らってすごした過去をなつかしみ惜しむような
甘えた感傷はけっしてそぐわないことがよく解った
むしろ友人の勇気と穏やかさに助けられて感動があった


駅の近くの本屋で一冊の雑誌を読んだ
広告の写真にある女の裸の胸が眩しかった
その豊かな膨らみが性をあらわに刺激した
不謹慎という言葉が一瞬聞こえた
しかし そこには 
生の喧騒と美と眩さが押し寄せてくる安堵と温かさがあった

友人も その夏の熱意と喜びとに確かな時間を刻み充分に味わい
それから 静かな季節を迎えたのだと思った



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