わかれ


なんどか想像しても
どういうことなのか湧いてくるものがなかった
しかし そんな日がやはり訪れた
友人は黙って去っては行ったが
友人の気持ちはすでによくわかっていた
まわりに気を使う そんな強さを弱った身体でも大事にしていた
だからそれでよかったし
ほかに話すことはもう蛇足に近かった
でも やはり行ってしまったのだと
どこかでうなづけないものは残った
それは残った者の宿題のような感じだった
それは死のもっている浅はかさを寄せつけない圧倒的な静かさだ
それを前にすれば どんな涙も追憶も軽薄に思えるものだ

友人は行ってしまったが 残った肉体の抜け殻は文字どうりそうで
だからこそ ほっとするものを感じさせた
奇妙に聞こえるかもしれないがほんとうに残った身体ということなのだ
もう そこにはいない
友人は どこかへ 立ち去った
どこであるかは平凡な感覚では確かめることはできないし
それは せっかく死が隠しておこうとする次元なのだ
それを知るためには わたしたちはもっと真実を生きなくてはならないのだろう
日々の 甘えに馴染んだ心では知りえることはなにもない


人が去るときに見せてくれる贈り物は
生を本当に楽しみなさいということだ
不平を言っている暇はないぐらいに楽しみなさい
いつか月日がたって
あなたの不平も時間の浪費だったことに気づくときさえ
後悔している暇もないくらいに楽しみなさい
友人が友人の母から別れの時に聞いたように
友人もそう言っているような気がした


祭壇に飾られた友人の若い頃の写真は元気だったころの幸福を伝えていた
それは 天国で微笑んでいるように
静かに やすらかに 美しかった



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