愚行連鎖

GB Racer icon 飛行機大好き/Dr.1資料取材:博物館2

交通博物館

約束通り三男坊と交通博物館へ出かけた。
(恩着せがましいが、本当の目的は、もう一基のGnomeエンジンの取材だったりする…)

交通博物館

交通博物館は、1921年(大正10)に鉄道開業50年記念事業として鉄道博物館という名で開館し、そのころは展示も鉄道関係のみだった。
第二次大戦後まもなく交通博物館と名を改め、鉄道だけでなく、自動車、船舶、航空機など、交通全般にわたって、実物や模型などの展示をするよになった。
かつては国有鉄道直営だったが、1946年(昭和21)から(財)日本交通公社に運営委託され、さらに1971年(昭和46)2月からは(財)交通文化振興財団に運営が移管した。
現在は同法人が東日本旅客鉄道(株)からの委託を受け、運営を行っている。

同館Webより抜粋

…と言うように、ここは主として鉄道に力を入れている博物館であり、「鉄ちゃん(鉄道マニアをこう呼ぶ)の聖地としても知られているが、実は、その他の交通機関に関する収蔵物も価値が極めて高いのである。




アンリ・ファルマン 入り口からホールに進んで、最初に目に付くのが2台のSL。その真上に吊されているのが、日本で最初に飛んだ飛行機。
「アンリ・ファルマン:Henri Farman (1910)」である。

折角なので、すこし、我が国の「素晴らしきヒコーキ野郎」達の足跡を少しだけ辿ってみる。


アンリ・ファルマン こちらはそのエンジン部分。

星形エンジンが後部に取付けられ、プロペラはエンジンと機体の間にある、極めて興味深い構造である。
これは星形回転エンジンならではのマウント方式である。
(エンジンとプロペラが同時に回るのでなければ不可能)

プロペラは一般的な形ではなく、カヌーのオール、と言うかお杓文字形をしている。


アンリ・ファルマン こちらは前項でも書いたが、1910(明治43年)12月19日午前7時55分、徳川大尉アンリ・ファルマンの飛行の写真。
場所は代々木練兵場である。
この日は乃木大将他陸軍最高幹部達が立ち会う「公式飛行」の日で、これが我が国初の飛行とされている。
同機は高度70mで距離3,000mを4分間で飛んだ。


グラーデ 1909 グラーデ単葉機

全長:7.5m
全幅:10.5m
エンジン:グラーデ4気筒24馬力
重量330kg
最高速度57.6km/h


1910(明治43年)、徳川大尉に続いて日野熊蔵大尉グラーデにより飛行に成功。
日付は徳川大尉に遅れること4時間ほどの正午過ぎ。
日野大尉は、実際にはこの前日に予備飛行として高度2mを100m程飛んでいるので、事実は日野大尉が我が国最初の飛行機乗りと言うことになる。


奈良原式2号機 1911年初の国産:奈良原式2号機。

奈良原技師は1910年に飛行を試みたが浮揚せず。
翌1911年2号機により国産機初飛行に成功したという。


ブレリオ単葉機 1913年日本初の航空機事故を起こした機体、ブレリオ単葉機。
何事にも悲劇と不運はある物だが、あるのは当然とは言え、こういう“初”は…
これで名を残すのはナァ。


この時代の飛行機としては、幼い頃、ワクワクしながら見た東宝映画「青島要塞爆撃命令」に出てきた水上機型のモーリス・ファルマンに、いまだに非常に強い印象を持っている。
(をいをい、一桁年齢の頃から、ヲタクじみてたんだなぁ…)




それでは、目的の星形回転エンジンの取材である。
既に紹介済みであるが、これが、Le Rhone(ル・ローン)。「史上初の実用星型エンジン」フランスの「Gnome(ノーム)」の末裔である。

e Rhone(ル・ローン) 1910〜20年代
ル・ローンC型エンジン
Le Rhone Engine Type C France/Japan
大正時代の代表的なエンジンの一つ。設計はフランスで、同型のエンジンは早い時期に国産化された。

型式:空冷回転星形9気筒
出力:80馬力
製造年:1922(大正11年)
製造:東京瓦斯電気工業(株)

Dr.1のオベルウーゼルよりも年代が新しい割りに大分低出力である。
この辺り、当時の我彼の技術力の差、なのだろうか。


説明には、
「冷却効率を高めるため、回転式になっています。同型は1916年(大正5年)に、島津ローン式エンジンとして国産化されています。」
とある。

Gnomeの読み方について

航空機関連の資料・書物や博物館の紹介文では“Gnome”を「グノーム」と表記している例が多い。
私は拙文中では全て(チェック漏れがない限り…)「ノーム」と表記している。
人名なのだとしたら、本来の読み方を表記しないとならないのだが、このエンジンの名称の由来はまだ調べが付かない。

最近Linuxの世界では、WindowsマネージャーにGNOMEと言うアプリケーションがあり、これのカタカナ表記(読み方)について論争があったようだ。
LinuxではGNOMEと言う名称は“GNU Network Object Model Environment”の頭文字を取って命名された物で、開発者達も「ノーム」と発音してそうだ。しかし、関係者が名称の意味を強調すると言う意味から、こちらは「グノーム」と読む事を明言して落着したようだ。

私的には“Gnome”は伝承に登場する精霊のイメージが強く、慣れ親しんだ表記では、やはり発音は「ノーム」なのである。

ノームは地の精霊。
魔術(錬金術)では万物は四大元素(風・水・地・火)で構成され、自然物には様々な精霊が住むと考えられており、16世紀の錬金術師、パラケルスス(本名:フィリップス・アウレオールス・テオフラスト・ボムバストウス・フォン・ホーエンハイム)が、地の属性を持つ精霊に「ノーム(グノーム)」の名を与えたとされている。
ちなみに「ノーム」は男性形で、女性形は「ノーミード」、もしくは「ノーミーデス」と言うらしい。
名称の語源は不明だが、ギリシャ語の「グ・ノムス(大地に棲む者)」「グ・ノモス(大地の住み処)」から来ているとも、知恵を現す「グノーシス」が語源とも言われている。
グノーシス:gnosisは「叡智」で、「地の精霊」はグノーム:gnome。しかし英語ではgn-のgは発音しない(筈だよな。英語苦手だし…)ので、それぞれノーシス、ノームとなるのだと思う。
フランス語だと…全く論評不能である。

ちなみに、フランス人は森羅万象全てを男女で分類するそうで、優雅な物は女、野卑な物は男なんだそうな。
La Mer(スペル正しいかな?)海は優しい母だけどLe Monde(こっちも怪しい…)地球はガサツな男だってか?良く分からないナァ。
Le Rhone…エンジンはやはり騒がしくて野蛮なんだろうか?(ホントかよ)


ル・ローン ル・ローン。シリンダ部分である。

新事実発見!
このエンジンは、やはり1気筒当り2本の点火栓を持つ、「ツインプラグ」構造だったのだ!

(Dr.1のオベルウーゼルは1気筒当りプラグ1本の、ごく普通の構造)


ル・ローン この角度からも二つの点火栓が確認できる。
前項で
「当時、点火装置は極めて原始的なマグネトー点火式だったはずであり、複雑、かつ高度なツインプラグ方式を採用するとは少々考えにくい。」
等と、書いてしまったが、逆に、信頼性の低さを重複構造でカバーしていたのかも知れない。

このエンジンは、航空発祥記念館に展示された物よりも年代が新しいのか、ヘッド廻り、ロッカーアームのデザインがずっと洗練された印象がある。


ル・ローン シリンダヘッド部分、排気口側から。

このエンジンは内部構造もある程度復元されているようである。

排気口に剥き出しになったバルブが見えるだろうか。

ご覧のように全く排気経路という物がない。ピストン上死点で押された排気はバルブホールから直接大気放出されるのだ。
凄い、と言うか、乱暴な…と言うか…
やっぱり、こいつは粗野な「野郎」なのかも知れない。


ニューポール 甲式3型戦闘機(ニューポール24C1)

このエンジンは、フランス製の戦闘機のコピーモデル(写真)に搭載されていたようである。




オマケ

1920年代
イスパノ・スイザエンジン
Hispano-Suiza Engine France/Japan

性能的には大分見劣りするが、なんとなく“フィアット・フォルゴーレ”を彷彿とするのでご紹介。

イスパノ・スイザ 大正から昭和の初めにかけての代表的なエンジンの一つ。フランスの技術を元に国産化された。

型式:水冷V8
出力:300馬力
国産化初年:1921(大正10年)
製造:三菱内燃機製造(株)

当時のエンジンとしては優秀で、数多く製造され、主に軍用機に使用された。


10式艦上偵察機 このエンジンを搭載したという、10式艦上偵察機である。

この辺りから、航空機は飛躍的に進歩を遂げるのである。




本日の戦果

本日のお土産 冒頭に書いたように「交通博物館」は鉄道を主とした展示であり、売店の品揃えも鉄道物が殆どである。
鉄道模型(Nゲージ)にトチ狂っていたときは、ここで資料を結構買い漁さったが、今回は公式パンフレットのみ。
特別展示で除雪車の写真展があって、そのカラーパンフが貰えたのはラッキーであった。
そして、「交通博物館」と言えば秋葉原、秋葉原と言えば…
電気街を漁らないわけにはいかない。
今日は子連れだったので、ディープなエリアには足を踏み入れなかったが、そこそこ成果はあった。


これらのご紹介は明らかに当“愚行連鎖”別コーナー[PC]の頁の“怪しい部品”に分類すべき物…

…と、言うわけで、本日の戦利品は「WorksGBの道具達-37:まだまだ、怪しい部品」に移動。
続きはこちらで、お楽しみ下さい。

次はちゃんと「製作記」に戻る…予定。



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