利息制限法引き直し計算 メモ

貸金業者が利息制限法に引き直し計算した計算書と、弁護士などが利息制限法に引き直し計算した計算書とでは、同じ利息制限法に基づいているといっても異なるケースがほとんどである。業者によっても計算方法が異なっている。

以下、現在わかっている範囲(経験上)でまとめてみたい。

1、利息、初日参入か、不参入か

民法上は、初日不参入。

判例では、お金を受取った時から、利用できるのであるから、受取った初日についても、原則、利息は付くというものがある。

追加融資を受けた場合、その追加融資について、初日利息参入するかどうか、という問題もある。

貸金業者の計算書は、利息初日参入が多い。ただし、繰返し追加貸付をしている場合(借入返済を繰返している場合)、初日算入は計算が複雑となるため不算入も多いか。

2、損害金について

平成1261日以降、利息制限法改正あり。制限利息×1・46(約定損害金がそれより低い場合は、約定損害金で計算)。

業者が提出してくる取引明細には、約定返済日より遅れた場合は、その遅れた日数に付き、残債務全額について遅延損害金を付けているものがある。また、遅れた日以降はすべて損害金として計算されているものもある。

しかし、遅滞後も、そのまま約定金利(遅延損害金ではない)で取引を続けている場合は、元本の利用を許し、期限の利益は失われていないとみることができ(または、期限の利益の再度付与)、損害金はつかず、通常の利息(利息制限法の15%20%)で計算するという考え方が成り立つ。

損害金は、期限の利益を喪失した時(通常、最後の返済以後、遅滞に陥った時から)から、付ける。という考え方。

期限の利益が失われていないとすれば、すくなくとも、残債務全額について損害金が発生するのはおかしく、遅れている日数分、遅れている返済金についてのみ遅延損害金が発生すると考えられる。

期限の利益の再度付与という考え方でいけば、滞納すれば、いったんは、期限の利益を失い、残債務全額につき、損害金が発生するが、その後、通常の取引を続けた場合、期限の利益が復活し(再度付与)、通常に戻るということになる(期限の利益を失っている間は、損害金発生?。遅滞の程度、遅滞後の取引状況により、再度付与の効果として、または再度付与の一内容として、期限の利益を失っている間の損害金も免除(放棄)したと考えられる余地あり)。

東京高裁平成13125日判決(判決要旨)

「金銭消費貸借契約証書上、利息の支払が1回でも期限に遅れると当然に期限の利益を喪失する旨記載されていても、利息の支払の遅滞があった後も債権者が遅延損害金の請求をしたり、残元金の返済を求めるなどしなかった場合は、期限の利益の喪失に当たる事由があってもこれを宥恕していたものと認められるから、このような場合は、債権者があらためて期限の利益を喪失させる旨の意思表示をしない限り遅延損害金は発生しないとみるのが相当である。」

昭和633月民事裁判資料第17793頁(協議問題)

「サラ金訴訟において、支払方法につき元利均等36回の分割払いの約定があり、このうち3回目の支払が3日遅れたとの理由で、以後の支払が毎月きちんと履行されているのに、「約定の支払を1回でも怠ったときは期限の利益を失う」旨の遅滞約款に基づいて最初の遅滞日以降の遅延損害金を年36分で請求することは契約上当然の効力として認容すべきか。」

(協議結果)「まず、3回目の支払分については、3日分の遅滞損害金が生じていることは疑いがないところであるが、本問のように、その後の支払が約定どおり行われており、債権者も3日分の遅延損害金を請求していないときには、この損害金債務を免除しているとみる余地が十分にあろう。次に期限の利益の喪失の点であるが、わずか1回分の支払について3日の遅滞がある場合に、当然に全体について期限の利益を喪失させることは、債務者に酷となる場合があろう。本件のように、わずか3日後に支払債権者が何らの留保もなく受領していたり、以後の支払について各回の支払分としての領収書を交付しているときには、債権者が既に発生した遅滞の効果を免責したものと推認したり、いったん期限の利益を喪失した後に、従来どおりの約定で支払うとの新たな黙示の合意が、当事者間に成立したと認定する余地が十分ある。また、場合によっては、信義則の適用ということも考えられよう。」

仙台地裁気仙沼支判昭和6223日(判例タイムズ645184頁)

(判決要旨)借受金債務につき、約定確定期限後も、利息の支払を前提に、期限の猶予があったとされた事例

(略)期限が到来した後においても、被告は原告に対し、元金全額と遅延損害金の請求をしたことはなく、むしろ利息の支払いを請求し、これを受領し続け、その受領に際しては、受領金額につき利息ないし通利などと記載した領収証ないし計算書などを交付している。すなわち、もし原告が弁済期限を徒過したならば、被告としては元本及び利率が徒過前の利率より高率となる遅延損害金の支払を請求できることになるが、被告は右期限後も元本の利用を原告に許容し、その返済を求めず、利息より高額である遅延損害金の支払を求めることもなく、利息相当額で受領し続けていたのである。期限を猶予するか否かは被告の自由に属し、期限が到来しても、なお貸し倒れの危険等がない限り、原告に対し元本の利用を認め、利息の支払いを受けていることの方が、あるいは被告にとって得策である場合もあろうかと推察されることからすれば、元本や遅延損害金の支払いを求めず、利息を受領していた被告の右行為については、(略)被告は、利息の支払を受ける以上、何ら期限の条項を適用する意思がなく、利息の支払いを前提に、期限の猶予をしたとみるのが相当である。

佐世保簡裁判昭和60924日(判例タイムズ57756頁)

(判決要旨)支払いを遅滞したときは期限の利益を失う旨の約定がある割賦返済約定の金銭消費貸借において、割賦支払いを遅滞した後も、貸主が元金全額と遅延損害金の請求をしたことはなく利息の支払いを請求し、これを受領していた事実から黙示の合意により期限の利益を再度付与したものと認められた事例

(判決理由抜粋)(分割弁済期日を)経過した後も、期限の利益を喪失したとして元金の一括返済と遅延損害金の請求をしたことはなく、むしろ、利息の支払いを請求し続けてこれを受領していることが認められ、(略)右事実によると、被告は、いったん喪失した期限の利益を黙示の合意により再度付与して、元金の利用を許容し遅延損害金の請求を一時放棄したものと認めるのが相当である。

3、利息制限法制限利率の適用

利息制限法制限利率は、当初借入額が基準であり、その後、利率は原則維持される。という考え方。

例えば、当初50万円借入れ、返済を続け、元本が10万円未満になっても、利息20%になるのではなく、18%が維持される。ただし、追加融資により、元本が増えた場合、低い金利が基準となる場合はある。例えば、元本80万円、利息18%。追加融資により元本100万円以上となった場合は、利息は、15%となる(その後、元本が減っても、その利息を維持)。返済を継続し、元本が減ったからといって、その利率を変えるのはおかしいので、この考え方が正しいと思う。

そうではないという考え方もある(一般的ではないが)。

4、閏年での計算

365日日割計算でするのか、年366日で計算するのか。

5、債務者側からみて有利な計算

1、初日は利息不参入。

2、閏年は、年366日で計算。

3、原則、取引途中の遅滞は、無視(遅延損害金はつけない)。

4、利息制限法制限利率は、元本が減っても当初の利率を維持。元本が増え、利息制限法制限利率が下がった場合はそれを適用。一度利率が下がれば、その後、それをずっと維持。元本が100万円以上になった場合、利率15%、その後、元本100万円未満になっても、10万円未満になっても、15%を維持。

(おおむね、これを逆にすれば債権者側(貸金業者側)有利といえる)

いろいろな引き直し計算ソフト(無料)を検討すると、1と2はそれぞれ、参入不参入、365366日、場合別けで計算できるようになっているものが多い。遅延損害金については、計算できないもの(自分で利率を変更して対応)もあり、計算できるものも146倍計算(平成126月より)対応のものはあまりなく、2倍計算となっている。4については、4のとおりになっているものがほとんどである。

6、過払い後、その過払い額(不当利得の額)に利息を付けて計算するケース

不当利得(過払い金)返還請求訴訟を提起するなど、相手に「請求」した後、遅延損害金を付けるのはもちろんだが、相手が貸金業者であれば、不当利得につき、悪意である(悪意の受益者)として、過払い金「請求」前でも、過払い額に利息を付して計算する場合がある。民法704条。年5分(もしくは年6分)。(ただし、貸金業者は、運用利益を得ており、利息分含めて不当利得であるとし、仮に善意の受益者であっても利息相当分は付するとする考え方もある。)

貸金業者は通常「悪意」なんだから(もしくは善意としても)、過払い金が生じた後、当然、利息を付けて計算するという場合と、そこまで、厳しく計算はしないという場合がある。(追加  最高裁で悪意の年5%利息が認められた判例あり)

参考(訴状一部の例) akuinojuekisha.htm (一連計算についての準備書面の一例、判例等省略した簡潔なもの) hanron1.htm

判例 itirenkeisankahi.htm

利息 risoku.htm

参考)東京三弁護士会統一基準(債務整理に関し)

@ 当初の取引からのすべての取引経過の開示

A 利息制限法にしたがった残元本の確定

B 遅延損害金や将来利息を付けない弁済案の提示

その他、クレジット会社の立替代金債権の確定にあたっても、利息制限法所定の制限利息を超えないこと など

参考)司法書士による任意整理の統一基準

1、取引経過の開示

当初の取引よりすべての取引経過の開示を求めること。取引経過の開示は、金融庁の事務ガイドラインにも明記されており監督官庁からも業者に対し徹底することが指導されている。もし取引経過の開示が不十分な場合、和解案が提案できないことを通知し、監督官庁(財務局、都道府県知事)等へ通知する。

2、残元本の確定

利息制限法の利率によって元本充当計算を行い債権額を確定すること。確定時は債務者の最終取引日を基準とする。

3、和解案の提示

和解案の提示にあたっては、それまでの遅延損害金、並びに将来利息は付けないこと。債務者は、すでにこれまでの支払が不可能となり、司法書士に任意整理を依頼してきたものである。担当司法書士としては、債務者の生活を点検し、無駄な出費を切り詰めて原資を確保し和解案を提案するものであり、この残元本にそれまでの遅延損害金、並びに将来利息を加算することは弁済計画を困難ならしめる。したがって、支払については、原則として遅延損害金並びに将来の利息を付けない。