問題

 

不当利得(過払い金)発生時に充当すべき債務がない場合

不当利得(過払い金)発生時に充当すべき債務がなく、後、借入をした場合(その後も借入返済を繰り返す)、その借入金に発生している過払い金を充当して一連で計算することができるかどうか

継続的に借入返済を繰り返し、一度完済した後、再度借入を始めた場合

一度完済し、再度借入する間に空白(なにも借金がない状態)がある場合

このように取引に分断がある場合、どうなるか

一連で計算できるのか(後の借入に充当できるのか)、それとも個別計算になるのか(充当できないのか)

個別計算となり充当できないとなった場合、前の取引の際、発生していた過払い金の消滅時効の問題も生じる

個別計算 → 貸金業者に有利

一連計算 → 貸金業者に不利

 

最高裁の判例より

 

過払い金は、後の借入金に当然に充当されるものではない

 

充当されるケース(一連計算できるケース)

基本契約がある場合(継続的な借入を想定した基本契約の存在)

1つの基本契約ではなく、別々の契約が結ばれていたとしても、1つの基本契約があるのと同様の(同視できるような)貸付が繰り返されている場合、前の貸付の際、後の貸付が想定できるような場合は、一連計算が可能(充当の合意が含まれている)

一連の取引と同視できるような事情があるのかどうか

単純な借り換えや契約の切り替え、契約条件を変更しただけ などの場合は、一連計算できる

 

事情

前の古い契約と後の新しい契約を検討

「貸付条件や返済条件の同一性」「契約に自動更新条項があるかどうか」

「同一支店での取引かどうか」「契約番号や会員番号の同一性」「使用カードの同一性」

「空白期間の長短」など

解約時の状況(前の取引がきちんと解約されているのかどうか)

「契約書が返還されているのかどうか」「解約が借主の意思でなされているのかどうか」

「解約時の担当者の説明内容」「再び取引ができるような説明があったかどうか」など

新しい取引の契約時の状況

「あらためて信用状態等の調査があったかどうか」「収入の分かる書類の提出などが求められたかどうか」

「第2の取引が貸金業者の勧誘によりなされたものかどうか」「新たに契約した理由」など

の事情をもとに総合的に判断されると思われる。

(しかし、これらの事情を個々の裁判で主張・立証していく作業は骨がおれる(最終的には陳述書の活用や当事者尋問か)。公平性や利息制限法の強行法規性から法律上当然充当にした方がすっきりする。がんばって完済し取引を終了させた方が不利になるというのはどうしてもしっくりこない)

 

1、基本契約が同じでない場合でも、第一の貸付の際にも第二の貸付が想定されていた場合など、基本契約が継続している場合と同視できるような場合、一連一体の取引として充当計算が可能

(H19.2.13判決)

2、基本契約が同じ場合は、全ての取引を継続した一連一体の取引として充当計算が可能

(H19.6.7判決)

3、契約の書換における充当の潜脱は認めない。書換や変更の場面では、同一の契約が継続していたとして一連一体の計算が可能

(H19.7.19判決)

4、取引中断があり、再契約により新たな取引が再開されても、期間的に接着し、前後の貸付と同様の方法と貸付条件で行われた場合には、充当の合意が含まれており、一連一体の取引として充当計算が可能

(H19.7.19判決)

 

追加)平成20年1月18日判決

基本契約が2つある場合の一連の判断基準

@ 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ

A 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間の長さ

B 第1の基本契約についての契約書の返還の有無

C 第1の基本契約についてのカードの失効手続の有無

D 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況

E 第2の基本契約が締結されるに至る経緯

F 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同

等の事情を考慮して判断する

 

基準の検討

@の基準

期間が長くなれば一連とされる傾向か。契約に自動更新条項があるなど、末永く取引をすることを前提としており、実際、取引が長い場合、一連とされる傾向が強まる。

Aの基準

3年ぐらい間隔が空けば、個別とされる傾向あり、3ヶ月ぐらいの間隔であれば一連とされる傾向あり。それでは1年ぐらいはどうなのか?よくわからない。他の基準との総合判断を要する。

Bの基準

契約書の返還がない場合は取引終了とみることができないから一連。きちんと解約されたのかどうか。

Cの基準

同じカードを使用している場合は一連とされる傾向が強まる。

Dの基準

貸金業者から「借り入れできますよ」、「借入枠がありますよ」など、借入勧誘があった場合で、それに応じて第2の契約をした場合などは一連とされる傾向か。

Eの基準

第2の契約をする際、あらためてきちんと与信審査があったかどうかなど。それがなければ一連とされる傾向か。

Fの基準

契約の同一性。同一契約でも利率や条件は変更されることは多いのであまり重要な基準にはならないと思う。ただ、借入限度額(極度額)が上がる、利率が下がるなどの契約条件の変更の場合は、前の取引実績をもとにしている場合が多く、そのような契約条件の変更の場合は、むしろ一連一体とされる傾向の方になると思われる。

 

要は、当事者間で完済後も引き続き取引(貸し借り)することが予定されていたのかどうかが問題となる。

 

ブログ http://d.hatena.ne.jp/tokucyan-siho/20080709

risoku.htm

 

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