民事再生法(個人版)概略
(イメージ)将来継続的な収入を得る見込みのある人で、破産の危険性がある人につき、原則 3年間、弁済できる分については、弁済し、残りについては、免除することとし、生活の再建を図るもの。
今後、生じる可処分所得(収入−税金・社会保険費・生活費)2年分を3年で弁済し、残り弁済できないものについては、免除してあげる(給与所得者等再生手続)。
調停ではむずかしい元本のカットも可能。
民事再生法の特則として、小規模個人再生と給与所得者等再生(個人債務者自らのみ申立可)があり、さらに民事再生法の特則として、住宅資金貸付債権に関する特則が定められています。
個人債務者再生手続の要件等
債務総額は3000万円以下。ただし、この3000万円には、住宅ローンや別除権の行使によって回収できる分は含みません。
(平成17年1月から、上限が5000万円に拡大、それに伴い基準債権総額が3000万円を超える場合の最低弁済額が規定されています。3000万円を超える場合はその10分の1が最低弁済額となります)
弁済期間は原則3年。ただし、特別な事情があるときは、5年まで延長できます。
最低弁済額が定められている。
最低弁済額が定められているため、最低でも毎月3万円程度支払っていける人でないと利用することが困難。
(一番低い最低弁済額が100万円なので、それを3年で分割弁済することを考えると、最低月3万円程度になります。ただし、特別な事情があれば5年まで延長可)
最低弁済額の基準
1、債務額(基準債権総額。抵当権の実行等のように、別除権の行使によって弁済が受けられる額などは除きます。住宅資金貸付債権に関する特則を利用する場合の住宅ローンも除かれます)の5分の1(100万円から最高300万円)
(基準債権総額が3000万円以下の場合。3000万円を超える場合は、基準債権総額の10分の1が最低弁済額)
2、清算価値保障(破産した時より得にならないようにする)
上記1で計算した額が、例えば、150万円であっても、財産が200万円分あれば、200万円が最低弁済額の基準となります。
3、可処分所得要件 可処分所得額の2年分(給与所得者等再生手続の場合)
小規模個人再生手続と給与所得者等再生手続がある。
「小規模個人再生」継続的に又は反復して収入を得る見込みのある者が利用
「給与所得者等再生」上記収入の変動幅が小さいと見込まれる者が利用(給与所得者等再生が利用できる者でも小規模個人再生を選択することは可能です)
小規模個人再生の場合、上記1と2のどちらか多い額が最低弁済額(あくまでも「最低」です)になる。
給与所得者等再生の場合、上記1と2と3のうち、一番多い額が最低弁済額になる。
給与所得者等再生手続をとった場合、再生計画案につき債権者の決議は不要になる。ただし、最低弁済額につき、可処分所得要件あり。
小規模個人再生手続の場合、債権者の決議が必要。再生計画案に同意しないとする債権者が債権者総数の半数に満たず、総債権額の2分の1を超えないことが要件。
積極的に反対しなければOKなのだが、政府系の金融機関などは、反対する(同意しない)ケースが多く(今後、状況は変わっていくと思われますが)、事前に綿密な交渉が必要になる場合もあります。
住宅資金貸付債権に関する特則を使い、住宅ローンの弁済を継続し、住宅を手放さずに、生活再建が可能。ただし、住宅ローンは、原則、遅延損害金も含め、全額弁済。
住宅ローン以外の抵当権(例えば、住宅資金貸付以外の消費者金融の担保)などが付いている場合は、住宅資金貸付債権に関する特則は使えません。
住宅資金貸付債権に関する特則を使い、弁済期間を延ばしたり、一定期間(当初3年など)元本の一部の支払を据置することも可能(ただし一定の要件があります)(リスケジュール)。全額弁済という点は変りません。原則、住宅ローン債権者と事前交渉が必要になります。
住宅資金貸付債権に関する特則を使わない場合は、住宅ローンも他の債権と同じ扱いになります。その住宅は手放し(競売等される)、残債務があれば、他の債権と同様、再生計画に基づき弁済していくことになります。
司法書士が関与し、書類作成をした場合でも、原則、再生委員が選任されますが、裁判所により、また事案によっては、司法書士が再生計画の作成、債権者との交渉などにつき、適切な援助、支援が可能であれば、再生委員が選任されない場合もあります。
手続費用については、各裁判所により異なりますが、おおむね20万円〜30万円程度は必要となります。
(つづく)
小規模個人再生は、給与所得者等再生と異なり、債権者の決議を要しますが、その決議は、積極的な賛成ではなく、一定の債権者が反対しないという消極的なもので足り、反対されるケースは少ないため、収入の変動が小さいサラリーマンであっても小規模個人再生を選択する場合が多い。
最低弁済額が定められているため、原則、最低でも月3万円の支払を3年間続けられるということが必要です。住宅ローン以外に債務がある人で、住宅資金貸付債権に関する特則を使い、住宅を手放さずにこの手続を利用する場合、住宅ローンの支払がそれにプラスされるため、(住宅ローンの滞納があり、)住宅ローンの支払でぎりぎりという人は、その利用が非常に困難となります。
ケースによっては、住宅にしがみつく(住宅ローンにしばられる)のではなく、住宅を手放す決心をしなければ、解決できない場合もあります。
ゆとり弁済を利用していたなどで、毎月の弁済額が増え、さらにリストラによる解雇(一時的無職)、子供の進学などで、住宅ローンの支払が困難になっている人は、住宅ローン債権者の金融機関に相談し、リスケジュールの可能性を試みます。話合いによるリスケジュールが困難な場合、たとえ、「債務が住宅ローンしかない場合」についても、住宅ローンのリスケジュールのため住宅資金貸付債権に関する特則利用の申立が可能と言われています。ただし、最近は、金融機関も比較的柔軟にリスケジュールの話合いには応じてくれる場合が多く、その話合いすらできない時は、住宅資金貸付債権に関する特則利用も要件があるため無理なケースがあります。
住宅資金貸付債権に関する特則を使う場合、本当に住宅ローンが支払っていけるかどうかを慎重に検討する必要があります。収入が減っていたり、他の借金の原因が住宅ローンの支払のためであったりする場合、住宅資金貸付債権に関する特則を使うことができない場合があります。住宅にしがみつき、かなり無理をして住宅ローンを支払っていくのか、賃貸に移りある程度余裕のある生活をするのか(住宅を手放し破産等)、という選択を迫られるケースは多いと思います。
民事再生についてのコラム 民事再生のコラム(司法書士酒井)
(つづく)
資格制限のためどうしても破産はできないという方の場合、この個人債務者再生を選択する場合があります。生命保険の外交員、警備員(警備業法)、建築士事務所開設者(建築士の資格自体には制限はありません)、司法書士、弁護士、税理士、取締役など、破産手続を取ると復権するまで(免責が確定するまで)はその職業ができなくなりますので(一生できなくなる訳ではありません。復権するまで、通常、半年〜1年ぐらいの間です)、その職業をやりつつ生活を立て直す場合、この個人債務者再生を検討します。(破産の資格制限 sikakuseigenn.htm)
手続の流れ
1、申立
申立書・債権者一覧表・陳述書・家計収支表・財産目録・清算価値算出シート・可処分所得額算出シート(給与所得者等再生)
2、再生手続開始決定(官報公告)
3、債権届出期間
財産状況等報告書(124条、125条)・届出再生債権一覧表(規則120条)
注)財産状況等報告書については、大阪書式では、申立ての際、申立書添付の財産目録等を援用するとしており、開始決定までに変動があった場合のみ提出するようになっています。また、別途提出する場合でも、変動がなければ、申立ての際提出した財産目録の記載を引用したり、申立ての際提出した書類内容に変更・変動のない旨を記載した簡潔なものを提出することになります。
注)届出再生債権者一覧表は、必要のあるとき提出するもので、債権者から届出書の提出がない場合など、裁判所が求めない場合は、提出する必要はありません。
注)現在は、債権者から届出書の提出がある場合で債権額が変わる場合でも、再生計画案を提出する際、弁済計画表にその債権額を反映すれば足りるので、届出再生債権者一覧表の提出は求められていません。
注)上記のとおりですので、現在は、財産状況等報告書、届出再生債権一覧表については、提出する必要がないケースがほとんどです。
4、一般異義申述期間
5、再生計画案の提出 再生計画案1例 saiseikeikakuan.htm 再生計画案1例 saiseikeikakuan2.htm 再生計画案1例 saiseikeikakuan3.htm
再生計画案・弁済計画表・積立状況報告書及び積立の預金通帳写し
6、再生計画案を決議に付する・意見聴取(官報公告)
7、再生計画の認可(官報公告)
8、各債権者の振込先の調査
9、再生計画の認可確定
10、履行開始
具体例1(1例)
平成14年7月1日申立
平成14年8月1日審尋、同日午後5時、開始決定
平成14年8月29日まで、債権届出期間
平成14年9月4日まで、届出再生債権一覧表・財産状況等報告書(124条、125条) 提出期限
平成14年9月5日〜9月19日まで、異義申述期間
平成14年10月17日まで、再生計画案提出期限
平成14年12月5日まで、再生計画案の書面による決議(回答期間)
平成14年12月10日、再生計画認可決定
平成15年1月9日、官報掲載、官報公告日の翌日から2週間経過、確定(1月24日)
確定の翌月、平成15年2月から履行開始
(履行開始は、再生計画が認可された後、約2週間から1ヶ月後に官報公告(掲載)がなされ、それから2週間経過後確定し、その翌月からになるため、多くが再生計画認可の翌々月からになる)
具体例2(1例)
平成16年10月18日申立
審尋なし平成16年11月18日午後5時、開始決定
平成16年12月9日まで、債権届出期間
平成16年12月16日まで、届出再生債権一覧表・財産状況等報告書(124条、125条) 提出期限
平成16年12月16日〜平成17年1月4日まで、異義申述期間
平成17年1月21日まで、再生計画案提出期限
平成17年2月3日まで、再生計画案の書面による決議(回答期間)
平成17年2月4日、再生計画認可決定
平成17年3月1日、官報掲載、官報公告日の翌日から2週間経過、確定(3月16日)
確定の翌月、平成17年4月から履行開始
具体例3(1例)
平成18年9月29日申立
審尋なし平成18年10月4日午後5時、開始決定
平成18年10月25日まで、債権届出期間
平成18年11月1日まで、届出再生債権一覧表・財産状況等報告書(124条、125条) 提出期限
平成18年11月1日〜平成18年11月15日まで、異義申述期間
平成18年12月7日まで、再生計画案提出期限
平成18年12月28日まで、再生計画案の書面による決議(回答期間)
平成19年1月4日、再生計画認可決定
平成19年1月20日、官報掲載、官報公告日の翌日から2週間経過、確定(2月4日)
確定の翌月、平成19年3月から履行開始