マンション管理費等の滞納の問題(メモ)
事例1
区分所有者Aは、管理費等(管理費、修繕積立金)を滞納しており、管理会社が督促しても支払いません。
どうしたらよいでしょうか。
事例2
一人暮しの区分所有者Aは、管理費等を滞納したまま死亡しました。
現在、当該マンションに居住している人はいません。Aの相続人は全員、支払いのみならず相続をも拒否しています。
どのように対処したらよいでしょうか。
事例3
区分所有者Aは、管理費等を滞納したまま破産しました。
滞納している管理費等は支払ってもらえないのでしょうか。
事例4(判例)
区分所有者Aは、平成4年1月分から平成10年4月分までの管理費等を滞納し、その総額は173万円であった。
その後、平成10年3月21日、YはAより、その区分所有権を買い受け、同年5月1日、所有権移転登記を完了した。
平成12年12月、管理組合Xは、Yに対し、本件管理費等の支払義務は、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第8条によりYに承継されたものとして、その支払を求めた。
これに対し、Yは、本件管理費等の債権は、民法169条所定の債権(定期給付債権)に該当し、同条所定の5年の短期消滅時効により消滅する旨を主張して、支払期限から5年を経過した部分104万200円につき消滅時効を援用した。
事例 1
① 電話、手紙で催促。② 理事会から数人が出向き、催促(滞納者の状況を確認)。③ 理事長名で内容証明郵便を送付。④ ケースにより法的措置をとる。
滞納額が多くなってからでは解決が困難となる場合がありますので、督促は滞納が少ないうちに、話し合いながら、滞納解消の示談をすること。
話し合いは紳士的に行うこと。滞納者との関係がこじれると、滞納者の経済状況、生活状況の情報は聞けなくなります。
約束は必ず文書にすること。支払能力を早く見極めることも重要。
法的措置
支払督促・少額訴訟・訴訟
支払督促についてtokusokumemo.htm
メリット
① 相手方より異議の申立てがなされなければ確定判決と同じ効力を有し(強制執行できる債務名義になる)、時効の中断効もあります。
② 比較的、費用は安い。
③ 審査は早く、支払督促が確定するまで2ヶ月ぐらいで終わることもあります。
デメリット
① 相手方より異議の申立てがなされると、印紙を追加して訴訟手続に移行することになります。
② 債務者の住所地の簡易裁判所が支払督促の専属管轄なので、訴訟に移行した場合、その裁判所が管轄となります。遠隔地にいる相手方については注意が必要。
③ 相手方の態度から異議を申し立てる可能性が高い場合には、最初から訴え提起をした方がよい場合があります。異議の理由としては、話し合いをしたいといったことも含まれますので、異議の申立書が提出される可能性も高い。
④ 相手が素直に書類を受け取らないときには、「郵便に付する送達」などの手続をとるための上申書などを作成する必要がある。公示送達不可。
少額訴訟についてshougakusoshou.htm
要件等
(1) 金60万円以下の金銭の支払を求める事件を対象とすること。
(2) 原則として、最初の期日で審理を完了すること。そのため、当事者はその期日前又はその期日においてすべての言い分と証拠を提出しなければならないこと。
(3) 証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができること。
(4) 裁判所は、原告の言い分を認める場合でも、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決の言渡しの日から3年以内の支払猶予若しくは分割払いを定めたり、さらにこれと併せて訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除することがあること。
(5) 少額訴訟判決に不服がある場合には、地方裁判所に対して控訴することができない。判決書又は判決書に代わる調書の送達を受けた日から2週間以内に判決をした当該簡易裁判所に異議を申し立てることができること。
(6) ただし、判決による分割払い等の定めに対しては、不服を申し立てることができないこと。
(7) 異議を申し立てた後になされた判決に対しては、原則として不服を申し立てることができないこと。
(8) 同一年に同一簡易裁判所において少額訴訟手続を利用できる回数は10回までであること。
(9) 少額訴訟手続を選択するときは、同一年に同一簡易裁判所において少額訴訟手続を利用した回数を裁判所に届け出なければならないこと。
(10) 虚偽の届出をしたときは、10万円以下の過料に処せられること。
(11) 原告が少額訴訟手続を選択した場合であっても、被告の申述又は裁判所の決定により、通常手続に移行することがあること。
メリット
① 審理が原則1回で済み、直ちに判決が言渡される。
② 被告欠席の可能性が高く、欠席判決も多い。
③ 仮執行宣言が付される。
デメリット
① 請求額等について争いがあると、通常訴訟に移行される確率が高い。
② 相手方が行方不明のときには、使えない。相手が素直に書類を受け取らないときには、「郵便に付する送達」などの手続をとるための上申書などを作成する必要がある。
③ 控訴はできない。
訴訟の提起について
メリット
① 相手方が行方不明の場合でも手続が進められる。公示送達。
② 相手方の住所地を気にせずに、マンションの所在地を管轄する裁判所とすることができる。
デメリット
① 通常、費用と時間がかかる。
滞納者への制裁
1、ライフラインの停止
2、氏名の公表
慎重にする必要がある。逆に不法行為責任を追及される場合がある。
管理費等の確保のために認められた法的保護
先取特権(区分所有法7条)-順位・効力については共益費用の先取特権とみなす。
特定承継人の管理費支払義務(区分所有法8条)
事例 2
滞納管理費等は相続人が相続する。ただし、相続人全員に相続放棄された場合、相続人不存在となり、家庭裁判所での手続きが必要となる。
相続は死亡によって開始し、相続人は被相続人の権利義務を承継します。
死亡した人の遺した相続債務が相続財産を上回る場合にも当然に相続することになると、相続人には不都合な場合もあり、相続を承認、限定承認(相続財産の範囲で相続債務の責任を負うこと)するか、もしくは放棄するかを一定の期間(相続を知ったときから3ヶ月)、考慮できることにしました。この期間内に、相続人が限定承認や放棄の手続きを取らない場合には、承認したとみなされます。
相続を放棄するためには、家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
相続人全員が適法な相続放棄の手続きをした場合には、相続財産を管理する人がいなくなりますので、相続人不存在ということで、相続財産は法人となり、家庭裁判所において、相続財産管理人が選任され(家庭裁判所へ申立てが必要)、そして、相続債権者は相続財産に権利を行使することになります。
しかし、住宅ローンの債務が残っており、そのマンションに抵当権が付いている場合は、その抵当権者にマンションを競売してもらうのが一般的です。
管理組合も、滞納管理費等は一般債権者に優先する先取特権が認められているので、マンションを競売することができますが、抵当債権は先取特権に優先し、不動産価格が下落している状況では、競売価格が抵当債権を下回ることも多く(オーバーローン)、競売手続きが取消される場合もあります。
そこで、管理組合は抵当権者にマンションを競売してもらい、その配当手続きに加わって配当要求を行い、競売代金が抵当債権を上回った場合には、優先的に配当を受けて回収することにします。
また、競売代金が抵当債権を下回った場合にも、競売物件の調査報告書には、滞納管理費等のあることが明記されるので、マンションを競落した人は、滞納管理費等があることを知って、マンションを競落することになります。
管理費等は特定承継人(マンションを競落した人も特定承継人になります)に承継されるので(区分所有法第8条)、管理組合は競落人に対して滞納管理費等を請求することになります。
事例 3
破産宣告前のもの → 破産債権
破産宣告後のもの → 破産財団の管理に関する費用(財団債権)
オーバーローンで、同時廃止の場合、回収不可。
管理組合としては売却されたり競売されたりした後、新たに区分所有者となった人に請求せざるを得ないことが多い。
事例 4
消滅時効の問題。
定期給付付債権=利息、賃料、扶養料、年金、給料に係る債権等のように、一定の期間が経過するごとに発生する、一定のものの給付を目的とする個々の債権、すなわち基本権たる定期金債権から発生する支分権であって、発生に要する期間が1年以下であるもの。
消滅時効の期間は短期の5年。
趣旨
通常、債権者の日々の生活に重要なものであることから、行使を怠らないことが多く、長期にわたる不行使は、当該債権が債権者にとってさほど重要でないことを示す指標であるから、このような場合にはむしろ突然多額の支払いを請求されて困窮する債務者保護にも配慮すべき。
定期給付付債権は、通常債権額が少額であるため、債務者が弁済の証拠となる受領証を受取っても保存していることが少なく、証明の困難性。
裁判所での論点
下級審では、消滅時効の期間は10年とする。
具体的な金額は、毎年の総会承認によって確定し、総会の決議によって初めて生じるものであり、基本権たる債権の効果として生じるものではない。
実質的な根拠
管理費等は、毎年通常総会の決議によりその額が決定され、本件マンションの各区分所有者に各自の負担が周知徹底されるものであって、賃料、扶養料、給料等のように、その弁済がない場合に債権者に深刻な支障が生じるということにはならず、ある種の公共的な負担金に近い性質があると認められる。
証拠方法の保全が困難ということも考えにくい。
不当性。
最高裁判所
(最判平16年4月23日民集58巻4号959頁・判時1861号38頁)
5年の消滅時効を認めた。
形式面に徹して判示した。
たとえ管理費の具体的額が総会決議によって確定するものであったとしても、総会決議によって、管理組合に管理費等の請求権限が個別に発生すると考えることは困難。
(市民と法 No.30、2004年12月号)