GBのアームチェアCinema見ist:亡国のイージス

亡国のイージス

亡国のイージス:AEGIS

監  督 阪本順治
音  楽 トレヴァー・ジョーンズ
主  演 真田広之
助  演 寺尾聰/佐藤浩市/中井貴一
製 作 年 2005
シナリオ 長谷川康夫/飯田健三郎
原  作 福井晴敏(「亡国のイージス」講談社刊)


2005.7.30.
福井晴敏。この人の作品は些かイデオロギー臭が強く、それだけで敬遠する向きもあるかも知れない。
しかしながら、言わんとするところは決して偏向した物ではないのではないかとも思う。
小説は面白かったが、一般的に優れた文章を映像化したものは概ね文章には遠く及ばないことが多い。
この作品も、作者が意識したかどうかは別問題として、「原作を読んでいない観客」には決して親切とは言えない。
早い話が、観客は予備知識を持ったものとして、必要部分を端折って描いているのである。
しかしながら、真面目な作劇には好感が持てる。

これはアクション・エンターティメントの名を借りた平和呆け日本人への警鐘なのかも知れない。


発足50周年を迎える防衛庁、そして海上自衛隊、航空自衛隊の史上初となる全面協力を得た映像にはリアリティがある。

主人公の護衛艦専任伍長は、原作では腹が出た、少なくとも格好良いとは言えない中年男であり、それがストーリーに味を持たせていたのだが…
このキャスティングはいかがな物か、ちょっと格好良すぎないか?
…と思っていたのだが、いや、悪くない。
帰宅してからプログラムを読むと、敢えてこの俳優を選んだのだそうだ。
原作通りの中年太りの動きが鈍いキャラクターでは北朝鮮(劇中では流石に一切この国名を使っていないが…)の特殊工作員に一瞬で殺されてしまうだろう、と言うことであった。
うーむ…説得力有る。

その北朝鮮工作員、良い雰囲気だなぁ。もう、キャスティングばっちり。
しかし、この映画に出ちゃったおかげで韓国でホサれちゃった女優さんは…
思ったより可愛くなかった。

亡国のイージス 基本的にコレは「男映画」である。
映画版“ローレライ”でも感じたのだが… このポスター。若い二人の水中接吻シーンの物がである。
確かに、原作にはこの二人の意識に触れた部分はある、が、映画本編では原作を知っているかよほど想像力逞しくないとそう言う描写には気が付かないだろう。
あまりに女性客を意識しすぎたくだらないパブリシティーだな。

本編は、まさに「男心を刺激する」シーンが随所に。
泣くぞ!ワシは…
惚れた腫れたなんぞはどうでも良いのだ。


基本的に私はウヨクなのかも知れない。

但し、一般的な呼び名としての「右翼」の方々と同一なのだと思って頂いては少々困る。

こと、「防衛」という問題に関して言えば、
人を傷つけるのは嫌だが…
もし、自宅に暴漢が侵入してきたらどうするか、と考えて頂ければいいだろう。
憲法9条は逃げである。不完全だと思うのだ。
この映画で、寺尾聰扮する副長が国にたたきつける言葉が、一つの答えじゃないかと思ったりもする。

ここでも書いているが、確かに先の大戦で我が国が進攻した国々は神経質になるだろう。
が、訳ワカランチンの北はともかく、韓国からこんな批判を受ける筋合いはない、と私は思うのである。
ソンミちゃん可哀想なんだわ。

この映画は、相手に攻撃されない限り、こちらからは攻撃しない(できない!んだよ)。そんな自衛隊は、本当に国を守ることはできるのか?
(ご存じのように現代戦争では本気で攻撃されたら、最初の一撃で壊滅的致命的打撃を受けるわけだから)
更に、今の日本は本当に命を賭けて守るべき国に値するのか?と言うテーマなのだ。
原作者はこのあたりにかなりラジカルな主観を明確に持っているようだ。
でも、この映画は…
そこまでは踏み込めていないのではないかという印象もある。
ヒーロー・ストーリーとしての色彩の方が強いと感じた。

この映画は最強の護衛艦が【国家に叛乱を起こす】ストーリー。
そんな映画に、防衛庁、そして海上自衛隊、航空自衛隊の史上初だと言う「全面協力」を行った…

叛乱者側の論理に否定しがたい物があったのでは…と。

つまり、そう言う危なげな映画なのではある。

題名の“イージス”は「盾と鉾」に繋がるダブルニーミングなのではないかという気もするのだが…

最初の作品“川の深さは”からこの人の作品には同じセリフが何度もしつこい位出てくる。

「彼女を守る。それがおれの任務だ」(川の深さは)

本作でも
「…それが俺の任務だ、だからここにいる」
「そうか…俺はこの艦と、乗員達を守る。それが俺の任務だ…だからここにいる」
と繰り返される。

なすべき事をなす。
いま一番重要なことをなす。
そして、それは「自分できちんと考えて」決断する。
そう言う意識が必要なのではないかと。

映画「少年時代」

そんな世の中を作ってはイケナイのだと…

…と書いたことと、この“亡国のイージス”を評価していることに矛盾を感じる、と言うご意見があるかも知れない。
私的には矛盾はないのである。
先の大戦では、まさに
「守るに値しない国」が暴走し、国民、女子供を巻き添えにして心中しようとした最悪なシナリオだった。
この作品を通して、国とは、国を護るとは、と言うことをもう一度じっくり考えてみたいと思う。



はたかぜ
ちなみに小説“亡国のイージス”に登場する「いそかぜ」は、実在しない「はたかぜ」型の三番艦で、改装によりイージスシステムを搭載したという設定になっている。
写真は、はたかぜ型ミサイル護衛艦 DDG-171「はたかぜ」


オープンセット 実在の「はたかぜ」型では見た目の偉容がイージス艦らしくないので結局「こんごう」型DDGの「みょうこう」が使われたとのこと。

実際の護衛艦上での撮影の他にも、静岡県の相良町には巨大な原寸艦橋のオープンセットが組まれて撮影された。




「イージス」とはギリシャ神話に登場する最高神ゼウスが娘アテナに与えた、あらゆる邪悪を払う「無敵の盾」のこと。同時に、最新鋭の防空システムを搭載し、専守防衛の象徴ともいえる海上自衛隊の護衛艦をも指し示す。
だが、語るべき未来も見えず、守るべき国家の顔さえも失った「亡国の盾」に果たして意味などあるのか。この国に生きる者すべてに関わりながら、その誰もが真剣に考えることを避けてきたテーマを、第一級のエンターテイメントへ昇華させた福井晴敏の原作は、それゆえ日本推理作家協会賞・日本冒険小説協会大賞・大藪春彦賞の3賞を制覇、110万部を超えるベストセラーとなった。

●イージス護衛艦とは

最新鋭の防空システムを搭載した護衛艦で、実際に運用しているのは米国、スペイン、日本など。

みょうこう 数100km以上全方位をカバーする高性能レーダーで敵の攻撃機やミサイルなどを探知、識別し、情報をコンピュータ処理して、ミサイルや大砲など最適の武器を自動的に選択、10以上の同時多数の目標に対処可能で、優れた防空能力を有する護衛艦。攻撃よりむしろ防衛を目的とした艦で、文字通り[無敵の盾]と言える。海上自衛隊は横須賀、舞鶴に各1隻、佐世保に2隻、計4隻を配備している。

写真は、こんごう型イージス護衛艦 DDG-175「みょうこう」


護衛艦「こんごう」型 DDG "KONGOU" Class
 173「こんごう」
 174「きりしま」
 175「みょうこう」
 176「ちょうかい」

基準排水量 7,250t
主要寸法 161x21.0x12.0x6.2m(長さ、幅、深さ、喫水)
船型 平甲板型
主機械 ガスタービン4基2軸
馬 力 100,000PS
速 力 30kt
主要兵装
イージス装置一式
VLS装置一式
高性能20ミリ機関砲x2
SSM装置一式
127ミリ単装速射砲x1
三連装短魚雷発射管x2
電波探知妨害装置一式
対潜情報処理装置一式
定 員 300名

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