GBのアームチェアCinema見ist:少年時代

少年時代

少年時代

監  督 篠田正浩
音  楽 池辺晋一郎
主  演 藤田哲也/堀岡裕二
助  演 岩下志摩/細川俊之/河原崎長一郎
製 作 年 1990
シナリオ 山田太一
原  作 柏原兵三:長い道(中央公論社)
原  作 藤子不二雄(A):少年時代(中央公論社)
企画・製作 藤子不二雄(A)
主 題 歌 井上陽水


90.08.14
カミさんの実家に滞在中、全国に先駆けて先行上映され、御当地で話題の映画「少年時代」を見てきた。
原作は柏原兵三 「長い道」(中公文庫版)および、同作品を元にして書かれた藤子不二雄(A)「少年時代」(中公マンガ愛蔵版)監督は篠田正浩、脚本は山田太一。主題歌は井上陽水。

毎年この時期になると戦時中を舞台にした映画が封切られ話題となるが、この映画もその時代を描いたものである。

昭和19年戦況逼迫の中、東京の小学校5年生の主人公が富山県に縁故疎開することになった。
主人公は今で言うキャリア組の役人の息子で体は小さいが頭脳明晰な育ちの良い美少年である。
転校先の小学校は一人の餓鬼大将によって支配されていた。
しかし、その小さな集団の中にも確執はあった。
友情と反目、裏切りと悲しみ。権力と策略…
戦乱の渦巻いたこの時代、子供達の中にも小さな戦場が有ったのだ。
しかし、その戦いは映写幕にエンドマークが映った後に何故かとても懐かしいすがすがしさを感じさせる物でもあった。
(かつて見た“わんぱく戦争”のラストを思わせるものでもあったが…)
オールロケで昭和19年を再現したこの映画は美しい越中の自然を通してなにか忘れかけていた物を思い出させてくれる、そんな映像ではあった。

監督、篠田正浩は「瀬戸内少年野球団」以来この自分が少年だった頃を見事に映像化している。

やはり物を作り出す人間にとって「少年の日」を忘れない心が創作のおおきな原動力になるのであろうか。

しかし、はっきり言ってあんまりヒットしそうな映画ではないな。残念ながら…



公開当時、「ヒットしそうな映画ではない」という感想を持ったが、邦画としてはそこそこ行ったようではある。
何より、井上陽水の歌う主題歌「少年時代」は既にエバー・グリーンの範疇に入っていると言っても良いだろう。
このような佳作が評価され、愛されてゆくなら、邦画もなかなかどうして、捨てた物ではないと思う。(2003.9.加筆)



終盤部分。
富山県の親戚の家へ疎開していた少年が、戦争が終わって帰京するシーン。
級友の少年達が駅のホームで、はなむけに歌を歌う。
駅長が飛んできて、
「軍歌はイカン!軍歌は!」
(進駐軍に知れたら大変なことになる…。昨日まで子供達に日の丸を振らせ、歌う軍歌を目を細めて聴いていた駅長が…)
それまで殆どセリフらしいセリフの無かった主人公少年の叔父が駅長を一喝。
「知らんのよ!軍歌しか知らんのよ!他に唄なんか!
 かわまんから歌え!、知っている唄を」
もの凄く印象に残っているシーンである。

歌すらも自由に歌えなかった時代。
一晩明けたら大人達が正反対の価値観を子ども達に押しつけた時代。

この一シーンだけで、この映画は名画たりうると思う。

歌である。たかが。されど、歌なのだ。

蛇足的説明をするのであれば…
物語中盤で、大橋巨泉扮するハイカラ趣味の写真屋のおやじが自分のスタジオの蓄音機でジャズを聴きながら写真を撮っていると、鉄兜を背負った国防婦人姿の奥さんが飛び込んできて…
「音、外に漏れてる!また憲兵に引っ張られる…」
と言うシーンが伏線としてある。

そう言う、どうにもならない時代が、つい数十年前に、あった。

自分の好きな音楽すら自由に聴くことが出来ない、子供達に偏った情報を強要し、情勢が変わったら掌を返して昨日までと正反対のことを教える…そんな身勝手な大人にはなりたくないし、そんな世の中を作ってはイケナイのだと…

今、幸せな時代である。
歌が歌える。好きな歌が。
そんな時代を、次の世代から奪っては、絶対にいけないのだと思う。(2005.7.加筆)

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