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おめでたき日々

(2002年6月)


2002年6月23日

「文庫・新書で読む白樺派」に、『岩波文庫解説目録 2001 II』の情報を反映した。長与善郎『竹沢先生という人』、『木下利玄全歌集』、トルストイ『幼年時代』『少年時代』『イワン・イリッチの死』、木村荘八『新編東京繁昌記』を追加した。
●その一方、有島武郎『或る女(前後)』『惜みなく愛は奪う』『一房の葡萄』、里見とん^『文章の話』、『極楽とんぼ』、水尾比呂志編『柳宗悦民藝紀行』『新編 美の法門』『柳宗悦随筆集』を削除した。かなり減った感じがしてさびしい。

●以前岸田劉生の切り通しを訪ねた文章を書いたが、そこで書いた別の記念碑について補遺を追加した。Webの記事も、印刷物も頭から信じてはいけない。なにごとも自分の目で見、頭で考えるべきという教えか。

●有島記念館(北海道ニセコ町)では6月29日(土)から「武者小路実篤と北海道」展を開催する(2003年5月5日まで)。これはニセコ町の公式ホームページではなくて、町長の個人ホームページからの情報

●書店で「国文学 解釈と教材の研究」7月臨時増刊(学燈社)を見つけた。「発禁・近代文学誌」と題して、国会で審議中のメディア規制法を意識した内容になっている。わが白樺派はと言うと、志賀直哉の「濁った頭」がとりあげられている。性欲の力をテーマとした作品だが、初出「白樺」、単行本、全集と本文の変遷をたどった文章が載っていた。
●どうしてもこういう話題は興味本位な方向に流れがちだが、読みどころとしては白樺同人が互いに校正して、検閲にひっかからないように対応していたさまだろうか。漫然と書きたいことを書き、原稿を集めて発行していたのではなく、きちんと社会・読者と向き合っていろんなことを考えていたということがわかった。

●以下、やわらかい話題を4つ。

●実篤で検索していたら、「吉田戦車エハイクの世界」というのに行き当たった。タイトルの下にある「21世紀の武者小路実篤になるかもよ?」というのが検索されたようだ。
●「ほぼ日刊イトイ新聞」の中の1コーナーで、漫画家の吉田戦車が俳句(のようなもの)を筆で書いて絵を添えるという、「俳画というよりは『いろはがるた』のような感じ」のもの。作品はと言えば、「たのもしく笑う兄貴のすごい服」とかいうものだから、脱力娯楽系と銘じて見るべし。いやしかし、これが「実篤」と比較されてしまうのだから(以下略)。昔の吉田戦車作品は好きだったから、目くじら立ててということもないが。

うるまでるびの「今日の気分」というページに、ゴホフライというキャラクターが登場する。ハエのような生き物だが、憂鬱な表情をして耳を切った後のゴッホのように頭に包帯を巻いている。小さな絵だがほぼ日替わりで描かれているので、洒落のわかる方、心に余裕のある方にはおすすめする。
●私は昔からうるまでるびの活動を見ているし、このキャラクターも好きだ。彼らはゴッホが好きでこのようなカリカチュアライズをしているし、実際アムステルダムまで「ゴッホ・ゴーギャン展」を見にも行っている。この見学記じたいも彼らの味が出ていておもしろいのだが、「偉大なゴッホをハエと並べるなんて!」と頭から湯気を出さない方にのみ、おすすめする。

●原田宗典はライブで実篤の詩を朗読するなど、以前から実篤に興味があるのは知っていたが、公式サイトを久しぶりにのぞいてみたら「はらだしき村」として改装されていた。村役場や美術館、芝居小屋などの名前で情報が整理・掲載されているが、これらはお気づきのように「新しき村」に関連付けたネーミングである。原田氏じしんオープン記念の文章で「この二つの村名の響きが何となく似ているのは、私の武者小路に対する敬意のあらわれ、なのである。」と書いている(「村長宅」で読める)。
●だからと言って原田氏は原田氏であるし、実篤は実篤であるから、似ているのは名前の響きだけかもしれないが、縁ある兄弟の活動をちょっとだけ心にとめておきたい。

●5月19日の「おめでたき日々」でもWeb日記でとりあげられた実篤を紹介したが、「つぶやける乙姫」というWebページでも鎌倉文学館の実篤展の感想が書かれていた。「2002年06月02日(日) 武者小路実篤」がそれだが、詳しくは実物を読んでいただくとして、ラフではあるがさっぱりとした感想で好感が持てた。
●家族持ちの40歳にして絵筆を初めてとり、画家として生きていこうとしたのは「すげぇーーー」と思ったとあるのには教えられた。私などは後年の画家としての活動をまず思い浮かべるためここでつまづいたことがないのだが、常識的にはたしかにそうだろう。いかに専門馬鹿になっているか、蒙を啓かれた思いだ。

2002年6月9日

小学館版『武者小路実篤全集』の内容一覧を作成した。これでいちいち全集を引っ張り出さなくても中味がわかる。個人的な早見表のためにつくったが、実篤はこんな作品を書いていたんだという概観図にもなると思う。簡単な説明は一覧表のページに書いたので、そちらも参照されたい。

武者小路家の墓がある八王子市中央霊園のwebページに、実篤文学碑の紹介があった。「全国で唯一の文学碑」とあったが、その根拠がちょっとわからない。他にも全国各地にいくつか文学碑はある。「国文学」の実篤特集号によると、この霊園には実篤の頭像とモニュメントもあるそうだ。

●実篤のお墓の話が出たので書いておくと、よく紹介される武者小路家の墓(例:文学者掃苔録図書館)はこの東京都八王子市にあるが、これは分骨されたものである。主として祀られているのは、埼玉県の新しき村にある「大愛堂」という建物の中である。
●ここには実篤、安子夫人、新しき村の会員の人々の遺骨が納められている。一度行ったことがあるが、ごくふつうのお寺のお堂のような建物で、取り立てて寺社のように祭られているということはない。我々見学者は鉄扉の前で説明を聞き、その様子を少し下がったところから拝見したが、厳粛な気持ちで手を合わせて来た。
●一般に、荼毘に付された後は一時的にお堂に納められたり自宅に安置されたりもするが、いずれお墓に納骨されるものだと思う。実篤の場合はそれが今なお、新しき村のひとつの建物の中に納められたままなのである。実篤の遺志と思われるが、死してなお土に還らず「村」の一画にとどまり続けるという事実に、厳粛なものを感じるとともに、激しい意志とぬぐいされない違和感を感じざるをえない。
●そういった意味で私は平凡な日本人であり、死んだら田舎の土になりたいと思ったりするわけだが、このことひとつをとっても、実篤という一人の人間をわかったなどと、軽々に口にしてはいけないと思っている。

調布市立図書館の蔵書予約が、インターネット経由でできるようになった。ためしに「デジタル積ん読」にしていた何冊かを頼んでみたが、指定した近くの分館で受け取れた。これは便利だ。予約本の保管は1週間だが、週末に行けば予約が流れることもない。これを機にもう少し読書に力を入れないといけない。

2002年6月1日

●インターネットを検索していたら、「月刊京都」という雑誌のライブラリに行き当たった。実篤が「京の宿にて」という小文を寄せている(昭和25年6月)。全文と絵1枚を見ることができるので、リンクを張っておく。

●「おめでたき日々」2002年4月6日でご紹介したNHKハイビジョン「よみがえる作家の声」だが、高村光太郎「智恵子抄」は6月19日、武者小路実篤「愚者の夢」は7月10日の放映予定だそうだ。変更はあるかもしれないので、視聴予定の方はご注意を。

「文庫・新書で読む白樺派」に、「講談社文芸文庫解説目録」の情報を反映した。中川一政の『我思古人(われおもうこじん)』と『詩集 野の娘』が品切れとなっていたので削除し、 濱田庄司『無盡蔵』を追加した。

「朗読で聞く白樺派」に、志賀直哉「小僧の神様」朗読CDを追加。Webページを見る限りではカセットテープ版と同じ内容に見えるのだが、録音時間がCDの方が50分も長い理由がわからない。

メールニュースでも紹介したが、「芸術新潮」6月号に高村光雲展にちなんだ記事が載っている。こちらの写真もカラーだが力強く、作品の良さが伝わってくる。「サライ」の写真はダメだと以前書いたが、カラーかモノクロかという単純なことではなく、あくまでも写真の実力の違いのようだ。
●同号に「ルーシー・リー 都市生活者の器」という杉本秀太郎氏の文章が載っているが、彼女へのバーナード・リーチの関わりをまったく関係ないと断じている様は小気味良かった。「陶芸家」で「リーチと親交があった」とあれば、「民藝の影響」というパターン認識をしてしまいがちだが、リーの作品の持つ都会性をくみとり、民藝の気配などまったくないと判断する明晰さは見習いたいものだ。

●内容にはまったく興味がないが、単なる資料として簡単にご紹介する。角川文庫の新刊・神一行『閨族』の巻頭には、政治家の血縁関係の図が折り込まれている。これを見ると、永青文庫の細川護貞が近衛文麿の娘婿というのがわかる。いとこの甘露寺受長兄弟も池田勇人の関係で出ている。それだけ。

●以前、小田急美術館で開かれていた清宮質文展は清宮彬の子供ではないかと思うが詳細不明と書いたが、彼の作品を取り扱っているミウラ・アーツという画廊が略歴を紹介していた。それによると、1917年に清宮彬の長男として生まれ、美術教師等を経て画家となり、1991年に亡くなっているそうだ。同社のwebページで、作品の一部も小さい画像だが見ることができる。抽象的な木版画が多いようだ。

●本ページの4月分はバックナンバーへ移動した。


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