遺言について

法定相続分に従った分割をしたくない事情がある、遺産分割で争いが生じないようにしておきたい、相続人が各地に散らばっており、相続の際、印をもらうのに手間がかかりそうなので、それを回避したいなどの理由で、遺言書を作っておく場合が増えています。ワンポイント wan1.htm

遺言は民法で定められた方式でする必要があります。

遺言の種類

・自筆証書遺言

遺言者が自分自身で、遺言書の全文、日付、氏名を自署し、押印して作成するものです。もし、訂正するような場合、訂正方法が決っていますので注意が必要です。簡単に作成できますが、紛失や、死後発見されても隠匿や破棄される危険があります。相続開始後、遺言書の保管者や遺言書を発見した相続人は、遅滞なく家庭裁判所で検認手続をする必要があります。検認手続の際、遺言の内容が相続人に公表され、その後内容によっては遺言の作成について(遺言する際、意思能力がなかったとか、むりやり書かされた等)争いとなる可能性もあります。例文 yuigonrei.htm

・秘密証書遺言

遺言書の内容を秘密にし、偽造や変造を防ぐことができます。

手続

@遺言者が遺言書をつくり、署名押印する(自筆証書遺言と同じようにしたほうがよい)。A遺言者がこの遺言書を封筒に入れて、遺言書に使用したのと同じ印で封印する。B証人2人以上の立会を求め、この封書を持って公証人役場へ行き、公証人に提出し、それが自分の遺言書であることなどを申述する。C公証人が遺言者の申述と日付とを封筒に記載し、遺言者、証人とともに署名押印する。

遺言書は、公証人のところに保管されるわけではないので、紛失や破棄のおそれがあるのは自筆証書遺言と同様です。また、検認手続は自筆証書遺言同様必要になります。手続が複雑な割に、メリットが少ないので、あまり利用されていないようです。

・公正証書遺言

公証人が作成し、遺言書の原本は遺言の時から、公証人役場に20年間保存されるので、紛失、偽造、変造、破棄などの心配がありません。公証人が作成するため、遺言書の内容自体についてトラブルを生じる余地がなく、家庭裁判所での検認手続も不要となります。一番安全確実な方法ですが、証人2人が必要となり、費用が若干かかります。

手続

@証人2人以上の立会で、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で述べる(口述)。

A公証人がその口述を筆記して、これを遺言者及び証人に読み聞かせる(又は閲覧させる)。

B遺言者及び証人が、公証人の筆記の正確であることを承認し、各人がこれに署名押印する。遺言者が病気などのために署名できないときは、公証人がその理由を付記して遺言者の氏名を代書し、遺言者の署名にかえることができる。

C最後に公証人が、その証書が以上のような手続にしたがって作成されたものであることを付記して署名押印する。

原則、遺言者が公証人役場に出向いて嘱託しますが、病気などのため外出できない人については、公証人が遺言者の自宅や病院まで出張することができます。あらかじめ公証人役場へ電話して、準備する必要なことがらを聞き、遺言の日取りを打ち合わせてから公証人役場へ出向くのが一般的です。遺言内容を書面にしておいたほうがいいでしょう。

(聴覚・言語機能障害者が手話通訳等の通訳又は筆談により公正証書遺言をすることができるように民法の規定が改正され、平成1218日から施行されています(秘密証書遺言についても同様))。

準備する書類

1、遺言者の印鑑証明書(6ヶ月以内のもの)

2、遺産をもらう人が相続人であるときは、遺言者との続柄がわかる戸籍謄本。その他の場合は、住民票の写し。

3、遺産が不動産の場合は、その登記簿謄本及び固定資産の評価証明書(手数料計算に必要です)。

4、証人の住民票の写し等

その他必要とされるものがあるかもしれませんので、公証人役場へ問い合わせてください。

証人は、未成年者、禁治産者、準禁治産者、推定相続人、受遺者及びその配偶者・直系血族などはなれません。

費用

手数料は、目的となる遺産の価格と受遺者の数、遺言の枚数等によって変わってきます。

受遺者一人一人について、下記の表により計算し、合算します。公正証書の枚数は、4枚を超えると1枚につき250円づつ加算されます。不動産については、固定資産の評価証明書の金額をもとに計算しますが、その価格どおりではない場合があります。

公証人手数料(公証人手数料令 平成581日施行)

目的物の価額

手数料

100万円まで

5.000

200万円まで

7.000

500万円まで

11.000

1000万円まで

17.000

3000万円まで

23.000

5000万円まで

29.000

1億円まで

43.000

以下超過額5000万円までごとに、3億円まで13.000

10億円まで11.000円、10億円を超えるもの8.000円加算

遺言加算

上記手数料のほかに、目的価額が1億円までの遺言については 11.000円を加算します

役場外執務については、加算されたり、日当などの費用がかかります。

遺言の取消には、11.000円(目的物の価額の手数料の半額がこれを下回るときはその額)が必要になります。

謄本代 1 1000

 

検認手続

家庭裁判所が遺言の方式に関する一切の事実を調査して、遺言書の状態を確定し、その現状を明確にするものです。遺言書の保管者または相続人が遺言を発見した場合は、遅滞なく家庭裁判所へ遺言書を提出し、検認手続をしなければなりません。

検認の目的は、相続人に対し遺言の存在及び内容を知らせるということと、検認日現在における遺言書の内容を明確にするということです。

検認は、遺言書が有効かどうかの実体上の効果を判断するものではありません。外形上遺言と認められれば、その内容いかんにかかわらず、通常、検認手続はなされます。

公正証書遺言の場合、この検認手続は不要です。

遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立をします。その際、申立人・遺言者・相続人全員の戸籍謄本(遺言者については、原則、出生から死亡するまでの戸籍類すべて)が必要で、住民票の写しも必要とされる場合があります。

検認は、通常、相続人又はその代理人の立会のもとなされ、封印のある遺言書は、検認の立会の際、開封されます。封印のある遺言書は、家庭裁判所の検認手続において、相続人又はその代理人の立会がなければ開封することはできません。

登記手続との関係

不動産につき、相続人へ「相続させる」という遺言を作成した場合、相続を原因とする移転登記が可能になります。相続人へする場合は、「相続させる」とした方がいいと思います。

相続人以外への遺贈は、遺贈を原因として移転登記をすることになるので、遺言執行者を遺言書の中で、きっちときめておいた方が望ましい。遺言執行者は、受遺者自身でもかまわないし、問題がある場合は、信頼できる知人・弁護士・司法書士を指定する場合が多くみられます。

相続を原因としてする移転登記は、相続人の単独申請だが、遺贈を原因とする場合は、遺言執行者もしくは相続人全員との共同申請となります。遺贈を受ける人を遺言執行者としておけば、その受遺者が、遺言執行者を兼ねることになるので、実質、単独申請と同じということになります。

遺言執行者がいない場合、相続人全員が義務者となり、受遺者と共同で遺贈の登記申請をすることになります。その際、遺言書自体は添付書類とはなりません。参考 souzokuizou.htm

なお、遺言執行者が遺言で定められていないなど、遺言執行者がない場合で必要な時は、家庭裁判所へ遺言執行者選任の申立てをすることができます。

遺留分

遺留分とは、遺言によっても侵すことのできない相続人の取り分のことをいいます。遺留分は基本的には各相続人の法定相続分の2分の1になります。つまり全遺産の2分の1は法定相続人が受ける権利を持っているということになります。

ただし、相続人が親だけの場合や兄弟姉妹だけの場合は異なってきます。相続人が親だけの場合は、全遺産からみた遺留分の割合は3分の1になります。また兄弟姉妹には遺留分がないため相続人が兄弟姉妹のみの場合は、遺留分は0になります。

遺留分を侵害されている相続人は、遺留分の減殺請求をすることによって、その部分を取り戻すことができます。相続人の遺留分を侵害するような内容の遺言であっても、その侵害している部分がただちに無効になるわけではなく、後で、相続人からの遺留分減殺請求によって否定される可能性があるということになります。

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始したこと及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行わないと、時効によって消滅してしまいます。

遺言執行者には知合いを?

私の経験した事案で、きちんと公正証書遺言を作成していたにもかかわらず、遺言者死亡後、遺言の実行がされないまま、さらに相続が生じてしまい(受遺者死亡)、10年以上経ってから、遺言状が発見されたというものがあります。そして遺言に書かれた財産はすでになくなっており、相続人間で争いが生じてしまいました。遺言状発見前には、遺産分割協議がスムーズに進み、相続人間で争いはなかったにもかかわらず、遺言状発見によって争いが生じたというものです。その遺言状には遺言執行者(弁護士)が指定されており、その人は、証人にもなっていましたが、遺言者の死亡をまったく知りませんでした。遺言の存在は、相続人に知らせておく(もしくは死後に存在がわかるようにしておく)べきであり、もしくは遺言執行者には、すくなくとも年賀状のやりとりをするぐらいの間柄の人がなるのがいいと思われた事案です。

TOP index.htm(酒井司法書士事務所)