B. 下層の石器群

ヘラ形石器(第12図1、図版11−1)【13】

共通番号13 この石器は長さ6.75cm、幅5.04cm、厚さ上40cm、重量45.71gを測る。本来は刃部側が極端に「八」の字状に開くほぼ左右対称形を呈していたものと思われるが、正面右位下端部の欠損により歪んだ形態となっている。

 石器の最大幅と最大厚はいずれも基部側の約1/3に寄った位置にあるが、先端から約1/3の位置にもかるい段を形成し、器体の中位の平面観はわずかではあるものの、内側に彎曲する形態の特徴が認められる。そして、この段を境目にして側縁の状態は先端側に向かって比較的に直線的であり、一方基部側は緩く彎曲する。

 石器を形作る周縁の二次加工は、背面・腹面ともに右側縁中位から下位を除く部分に施され、その規模は幅10mm、長さ6mmを最大とするものの、器体中央に及ぶ加工は認められず、多くの加工痕は周縁でとどまっており、小さくて浅いものである。この加工は恐らく着柄に関連するものと推察ざれ、左側縁辺は背面方向に、右側縁辺は腹面方向に向かう剥離がそれぞれ卓越する交互傾向が指摘できよう。そして、刃部側の二次加工はすべて背面側から腹面側に向かって行なわれていることは大きな特徴であろう。

 基部左側は約44°、右側は約100°で、先端の刃角は33°である。

 石器の先端部は、二次加工の剥離面の切り合っている稜線が若干鈍いことから使用痕とも考えられるが、石材の性質からそれ以上の言及はできない。

 素材の剥片の形状は、右方向に約40〜45°の傾斜軸を持つもので、背面左側の下位(剥片末端側)には淘汰された礫面が観察されることから、石核から初期の段階で剥離されたことが窺える。背面側の剥離角は110°で、腹面側の剥離角は111°である。また、背面を主に構成する3枚の主要な剥離面の打撃方向の位置関係は、この剥片の打面方向と左右に大きくずれないことから、打点の位置は近いであろうことも推測できよう。なお、右側縁の二次加工でバルブの殆どの部分が除去されていることから、打面の状態や打角は把握できない。剥片の末端部分は打面側と比較すると肥厚し、このふくよかな腹面を保持した剥片の厚い部分を基部、打面左位の薄い部分を先端に利用したことが看取される。この石器の中心軸は、打面に対して約30°の傾斜値を持ち、先の素材である剥片の傾斜軸値と照らし合わせると、さらに横位置に倒して製品とさせている特徴が窺える。

 石材は粒径1〜2mm程度の石英粒子を3%程度含む凝灰岩である。

 色調は表裏面いずれも明緑灰色(10GY7/1 light grenish gray)を呈している。

小剥離痕を有する剥片1(第12図2、図版11−2)【12】

共通番号12 この石器は長さ6.50cm、幅6.80cm、厚さ1.30cm、重量51.92g、先端角74°、基部角106°を測り、左右非対称形を呈している。石器の最大幅と最大厚はいずれも基部側の約1/3に寄った位置にあり、打瘤の大半は欠失しており、全体の形態はこのことからより矩形となる印象となっている。打面は無調整の良く淘汰された礫面で比較的に平坦であったことが窺える。この打面側の欠失部分の断面にはこの剥片の左側約90°方向からの明瞭な加撃痕跡が観察されるものの、打点が認められないことからすると、この剥離以前の段階での礫の稜線方向からの潜在剥離面が存在したのかもしれない。

 剥片の左側のやや突出する中位には背面側に向かい内曲する僅かの小剥離痕跡が、また内湾する剥片の右側中位には腹面側に向かい鋸歯状の僅かの小剥離痕跡がそれぞれ観察されるが、後者の規模の方がやや大きい。

 小剥離痕の観察される左側の縁辺角度は37°で、右側の縁辺角度は54〜60°である。

 背面側の打角は103°、腹面側は103°である。

 石材は流紋岩で、全体的に粒子は粗く、ザラザラした感じであるとともに、縞状の流理構造が著しい特徴となっている。

 色調は表裏面いずれも灰白色(10Y7/1 light gray)を呈している。

加工痕を有する剥片(第13図1、図版12−1)【11】

共通番号11 この石器は長さ2.45cm、幅5.38cm、厚さ1.89cm、重量26.93gを測り、左右非対称形を呈している。

 背面中央部から右側縁辺にかけて、アバタ状の褐色がかった磯表が残り、淘汰された表面の素材であったことが窺える。

 打面は腹面方向からの単剥離面で、打点は約15mmの間隔で2個観察される双錐体剥片である。

 加工痕は右側に位置する打点に接する部分のみにみられ、素材が分厚いためにあたかもブランチングのようにもみえるが、連続性がないことからここでは加工痕のある剥片に分類した。

 器体の左側上縁と打面に接する部分には、計測不能ではあるものの極めて微細な小剥離痕の密集があるが、これが使用痕と断定するには至っていない。

 背面側の打角は122°、腹面側は97°である。

 石材は良質な瑪瑙で、色調は表面の礫面付近では灰白色(5Y7/2 light gray)、表裏面の剥離面はいずれも灰白色(7.5Y8/1 light gray)を呈している。背面中央部から右側縁辺にかけて、アバタ状の褐色がかった磯表が残り、淘汰された表面の素材であったことが窺える。


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