IV 層序

 多摩ニュータウン地域における土層の基本層序は、主に縄文時代に相当するローム層までの黒色土が細分されてきたが、特に昭和55年以降からは立川ローム層中に包含されているより深層の旧石器時代の石器群についても、それらの編年をローム層の基本層序によって組み立てる関係から、隣接する武蔵野台地や相模野台地との対比を行なうべく断面観察の必要にせまられていた。

 多摩ニュータウン地域のローム層については、昭和56年のNo.774・775遺跡のハードローム層から検出されている石器群の変遷(舘野 1982)、昭和56年のNo.769遺跡における広域火山灰である姶良テフラ層(AT)の位置(阿部 1983)、昭和57〜58年調査におけるNo.57遺跡の姶良テフラ層以下の細分(舘野 1988a)、昭和59年調査のNo.402遺跡の粘板岩・チャートを主体とする石器群の位置付けなど列挙することができ、それらの所見に基づいて現在の多摩ニュータウンの基本層序が組み立てられている(舘野 1988b)。

 したがって、本報告では立川ローム層についてはこの多摩ニュータウン基本層序に準じて表記することとし、その下位に堆積する武蔵野ローム層については便宜的ではあるが、上部から下部に向かって武蔵野のMを冠して1からの連番としてある。ここでM−11とした青灰色の砂層と、その上部の風化の進んだ礫を包含する土層はあるいは上総層群の一部に含めるべきなのかもしれない。いずれにしてもここでは仮の表記としておき、連続した層の統一表記については今後の課題としたい。

 なお、調査地点を含めて周辺では既に、IV層までの土層は確認できず、造成による削平されたものと推定され、したがってVS層からの観察とならざるを得ない。


第3図 層序(1)(1/60)

VS層褐色土層(7.5YR4/6 brown)

 ソフトローム第4図 層序(2)(1/60)

VH層褐色土層(7.5YR4/6 brown)

 全体的に粒子は緻密で、粘性は強い。極めて硬質で締まりは良く、可塑性は強い。粒径0.5〜1mmの赤褐色スコリアを15〜20%と粒径0.5〜10mmの黒色スコリアを7〜10%含む。特に黒色スコリアは下部に向かうに従い含有率が高く、粒子も大きくなる。粒径1mm以下の青灰色スコリアがわずかに見られる。

VI層 褐色土層(10YR4/6 brown)

 立川ローム層の第1黒色帯(BB1)で、やや黒味を帯びる。粒子は緻密で、粘性は強く、硬質である。可塑性はそれ程強くない。粒径0.5〜4mmの赤褐色スコリアを20%、粒径0.5〜10mmの黒色スコリアを15〜20%、粒径1mm以下の青灰色スコリア1〜2%含む。個々の含有物は層中に均質に分布する。

VII層 明褐色土層(7.5YR5/6 bright brown)

 広域火山灰である姶良・丹沢火山灰(AT層)を包含する。締まりは良く、硬質ではあるが、可塑性は強くはない。粒径0.5〜3mmの赤色スコリアを15%、粒径0.5〜5mmの黒色スコリアを20%と粒径1mm以下の青灰色スコリア1%弱含む。全体的にはやや色調の明るい部分と暗い部分が斑紋状に混在する。

VIII層 明褐色土層(7.5YR5/6 bright brown)

 色調はVII層に類似し、粒子は緻密で、粘性は強い。また、硬質で締まりは良く、緻密であるが、可塑性はそれ程強くない。粒径0.5〜3mmの赤色スコリアを15%、粒径0.5〜4mmの黒色スコリアを20%と粒径1mm前後の青灰色スコリアを1%ほど含む。黒色スコリアの分布にはやや粗密があり、層中での色調には相違が認められる。立川ローム層の第2黒色帯(BB2)の上部に相当するものと推定される。

IX層 褐色土層(10YR4/6 brown)

 立川ローム層の第2黒色帯(BB2)で、黒味を帯びる。硬質で締まりは良く、緻密である。可塑性はそれ程強くない。粒径0.5〜2mmの赤色スコリアを20%、粒径0.5〜4mmの黒色スコリアを20%と粒径1mm前後の青灰色スコリアを1〜2%ほど含む。本層は、VIII層に比較すると赤色スコリアと黒色スコリアの粒子は概して小さくなる傾向が認められるとともに、また、白色の微粒子を1%弱含む。

X層 褐色土層(10YR4/6 brown)

 粒子は緻密で、粘性は強く、硬質である。締まりは良く、可塑性は強い。粒径0.5〜3mm(1〜2mmが卓越)の赤褐色スコリアを20%強、粒径0.5〜4mmの黒色スコリアを7〜10%含む。また、粒径1mm前後の青灰色スコリアと白色の微粒子を1%弱含む。

XI層 褐色土層(7.5YR4/6〜10YR4/6 brown)

 粒子は緻密で、粘性は強い。全体的にはシルト化が進んだ部分が斑紋状に観察され、下部ほどシルト化の割合が高い。粒径0.5〜4mm(1〜2mmが卓越)の赤褐色スコリアを15%、粒径0.5〜3mmの黒色スコリアを3〜5%含む。また、白色の微粒子を1〜2%弱含み、青灰色スコリアはわずかに分布する。

M−1層 褐色土層(10YR4/4〜4/6 brown)

 全体的にシルト化が進行しているが、土質は均質ではなく、シルト化の進んだ部分とロームがブロック状に散在している部分が見られる。特に、西側では下部の土層を巻き込んで堆積しているように見え、場所によって色調や硬度に大きな差が認められる。土層全体では、粒子は細密で粘性は強い。やや硬質で締まりは良く、可塑性は強い。粒径0.5〜2mmの赤褐色スコリアを3〜5%含む。黒色スコリアは僅かに散在している。

M−2層 褐色土層(10YR4/6 brown)

 本層の中位から下位にかけて、粒径1〜2mmの灰黄色パミスが合まれる。また、粒径1mm前後の赤褐色スコリア粒子は本層全体に疎らに散在している。全体的に硬質で、粘性は強い。本層は遺跡発見の切っ掛けとなった切り通し断面でも確認されていた層で、乾燥するとより灰色を帯ぴ、縦位のクラックが著しく発達する土層となる特徴が観察される。本層は、厚薄はあるものの、調査区域を大きく覆っていることが確認されている。

M−3層 褐色土層(10YR4/6 brown)

 粒径2〜3mmの灰黄色パミスが疎らに散り、赤褐色スコリア粒子は若干大きめになる。褐色土層と表記したものの、1・2層に比べて僅かではあるが黒味を帯びる。縦位の細かいクラックが著しく発達し、硬質で、粘性は強い。

M−4層 黄褐色土層(10YR5/6 yellowish brown)

 幾分灰色を帯び、粒径0.5〜2mmの黄橙色パミスが多量に包含されている。全体的に硬質で締まりは良いものの、可塑性は弱く、削るとサクサクと音をたてる程である。東側の斜面部では本層の下位に東京パミス層が位置する関係が明瞭に観察される。上層石器群の包含層は、遺跡発見となった断面採集の5点を含めて本層の上部と認められるが、敲石はM−3層下部から本層にかけての出土といえる。

M−5層 黄橙色土層(10YR7/8 yellow orange)

 東京軽石層で南北方向からの、つまり尾根筋に沿って遠望すると明らかに黄色い帯状の連続する特徴が観察されるが、東西方向の断面観察ではその有り様はそれとは異なり、本層が観察できない部分や階段状にずれながら斜面を下る状態がみてとれる。また、本層の調査区における平面的な分布状況は、東側の斜面部に連続しながら堆積しているものの、尾根の西側では僅かに、あるいは全く観察できない部分が存在し、尾根の頂部ではブロック状に断続している特徴が認められる。この言わば、西薄東厚である特徴は火砕流にともなって軽石層が堆積する時点のシュートプール現象なのか、あるいは堆積後の侵食によるものかの判断はつかないが、遺跡の所在する尾根周辺や深い谷をへだてた東側の工事中の切り通しなど観察したものの、この調査地点のように東京軽石屑が確認された場所はみられず、地層の乱れは著しい。

M−6層 黄褐色土層(10YR5/6 yellowish brown)

 灰色を帯び、粒径0.5〜5mmの黄橙色パミスが少量に包含されており、粒径の小さなものが多い。全体的に硬質で締まりは良いものの、可塑性は弱く、削るとサクサクと音をたてる程である。本層は調査区全体に認められるものではなく、E−5および4区の東側やD−4区の一部の狭い範囲で確認されており、この部分は傾斜面がその角度を増す部分であること、丘陵尾根に平行する地割れの発達が著しいことなどの原因による局所的な堆積層と考えられる。したがって本層が普遍的な層として成立するか否かは今後の課題とする他はないが、先述した東京軽石層の堆積状況の特徴と関係付けて理解することも必要かと考えられる。

M−7層 黄褐色土層(10YR5/6 yellowish brown)

 層相はM−6層とほとんど変わらないが、パミスの大きさ・包含量の差で区別した。灰色を帯び、粒径0.5〜5mmの黄橙色パミスが極少量に包含されている。全体的に硬質で締まりは良いものの、可塑性は弱く、削るとサクサクと音をたてる程である。本層は調査区全体に認められるもので、E−4区の一部には上下層に跨がる粘性の著しく進んだブロック状の層を挟みながらも安定的に観察される。本層の上部が下層石器群の包含層に相当する。

M−8層 黄褐色土層(10YR5/6 yellowish brown)

 全体的に硬質で締まりは良いものの、可塑性は弱く、パサパサした状態で粘性はない。

M−9層 暗褐色土層(10YR3/4 dark brown)

 やや灰色を帯び、極めて粘性があり、硬い。乾燥すると縦位のクラックが著しく発達し、より黒味を呈する。

M−10層 暗褐色土層(10YR3/4 dark brown)

 黒色を帯び、極めて粘性があり、硬い。本層には粒径0.5mm〜4cm前後の良く淘汰された砂岩やチャートの円柱が僅かに含まれ、下部には粒径2cm前後の風化の進んだ円礫が含まれる。乾燥すると縦位のクラックばかりではなく横位のクラックが加わり、より細かなクラックが特徴となる。本層と下部層との境界は特に斜面部にあっては黒茶褐色を呈する厚さ2cm程度のガリガリした褐鉄鉱層が発達する。

M−11層 浅黄色〜灰白色上層(5Y7/3〜5Y7/1 light yellow〜light gray)

 上総層群の上部に相当し、砂層である。


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