愚行連鎖 大放出!

GB楽器博物館

特売に弱いのは女性のみ為らず

いえ、私が悪いんです、全て…

BBSで既報のフルアコースティック:アーチド・トップ・ギターである。
あまりに安かったのでつい…
Aria FA-71
Aria FA-71 Electric Guitar
(FA: Full Acoustic Series)

発売元:ARIA:荒井貿易のWebによると…

ジャズギターとして定番であるだけでなく、今やあらゆるジャンルで、サウンドにひねりを加えるのに大活躍。いまプロが最も注目するフルアコをこのクオリティ、プライスで実現。
ギタリストなら誰もが一度は、そのナチュラルでウォームなサウンドの虜になってしまうフルアコースティックギター。
FAは、フルアコースティックギターの可能性をあらゆるプレイヤーに解放するためにプライスバリューを念頭に入れつつ、フルアコースティックギターの名に恥じない、ハンドクラフトによるアーチドトップそしてブレイシングが施されており、ウッドベースのブリッジを通して弦振動が確実にボディ鳴りへと導かれ、リッチ&メローなボディ鳴りがプレイヤーとオーディエンスを魅了します。

Specifications

Body: Spruce Top, Maple Side & Back
Neck: Maple, Set-neck, 14゜Pitched Head
Fingerboard: Rosewood
Frets: 22F
Scale: 648mm(25-1/2")
Pickups: FH-1F Humbucking
Controls: Volume,Tone
Tailpiece: Rosewood , Adjustable
Hardware: Gold
Finish: BS, ALN

と言う事である。(ハンドクラフト??ホントかよ?)


Aria FA-71 韓国製である。
他にノン・カッタウェイ、ノン・ピックアップのモデルや2ピックアップのモデルもあるようだが、このシンプルなシングル・ピックアップに一目惚れ。
ピックアップはネックの根元に固定され、ボリューム・ポッドもピックガード取り付け。フローティング・マウントと呼ばれる、ボディには接触しない取り付け方法である。ボディ本体にあるエレクトリック由来の穴は側面右下のアウトプット・ジャックのみ。
このことから、オリジナルでは元々ノン・エレクトリック設計のモデルにピックアップを後付けしたのではないかと想像できる仕様である。
フレットもGibson風の太い物で、アンプを通すと、思った通りの“鼻に掛かったような”甘い音がした。


Aria FA-71 値段が値段だけに、アーチド・トップのお腹の膨らみが些かグラマーさに欠けるような気がしないでもないが…(早い話がペチャパイなのだ)

f穴アーチド・トップ・ギターと言えばGibson。
このギターも元ネタはGibsonのL-5系(カッタウェイは型番末に“C”が付く)と言う系統の楽器と思われる。
しかし、なんでこんなに重たいのだろう…


Aria FA-71 Ariaオリジナル形状のヘッドストック。
なんだか異様にデカいイメージがないでもない。
嘘か誠か、GibsonはコピーモデルのGibson型ヘッドの仕様にかなりうるさいという話を聞いたことがある。
このオリジナル形状もGibsonとのトラブルを避けるための新規デザインなのだろうか。
トラスロッドカバーも、敢えてなのか、Gibson型ではない。
とはいえ、このヘッド形状以外は、そっくりそのまんまGibsonなのではある。
(このタイプにこの形のポジションマークの組み合わせがあるのかどうかは、私は知らないが…)
ヘッドプレートそのものはパール風インレイを射出成型で透明樹脂に封入したような感じで、コストダウンとしては上手い製法だと思う。



Aria FA-71 写真では見えなくなってしまったが、ヘッド裏にはクリアの下にしっかりと印刷されたシリアルと、“誇らしげ”にすら見える“Made in Korea”の金文字がある。(消せない…)
国産:国内ブランドも廉価版クラスは殆どが韓国か中国で生産されているらしいが、風聞では最近の韓国楽器業界は非常に活気があり、かなり高水準のギターを極めて安価に韓国内に送り出しているらしい。
細部を言い出すときりがないが、この楽器も全合板とは言え、総合的にはかなり評価すべき出来上がりを見せていると思う。

チューナーはGotoh製であるが、カタログには載っていないタイプ。OEM専用なのだろう。
金色メッキのボディにパール風白プラスチックのノブが付いている。
Gotoh製のロトマチックなので、手触りや精度には何の問題もないが、廉価OEM専用らしく、仕上げには少々寂しい物がある。
(それにしてもデカいヘッドだ…)


購入時はステンレスのラウンドワウンド弦(Light Gauge?)が張ってあったが、フル・アコと言えば弦はフラット・ワウンドを張るしかないのである。


とにもかくにも、間借りなりにも、これだけの仕様の楽器がWaverlyの弦巻き1Setより廉いのだから、つい出来心で手に入れてしまっても…
(いえ、単なる言い訳です)



…と言うわけで

Gotoh SG-38 久々にお茶の水を歩けば、GBも棒に当たる。
パーツショップで、Gotoh SG-38(旧型:左)のジャンク品を見つけてしまった。
前述しているが、FA-71のチューナーもGotoh製の恐らくSG-38のOEM仕様、モールドなどは全く同一だし、手触りや精度には何の問題もない。パール風プラノブもそこそこ味があるのだが…、いかにせよ、全体的仕上げはかなり貧相であると言うしかない。

Gotoh SG-38 OEM版ではパーティション・ライン(鋳型から抜いた継ぎ目)等も消されていないし、同じ金色メッキなのにかなり雰囲気が違う。(メッキ色が安っぽいのだ)
裏プレートもご覧の通り、OEM版では“Gotoh”の文字が印刷のシールである。(単品部品ではレリーフになっている)
何より、ノブとボディの間に入っているフリクション・ワッシャーがOEM版では一枚のプラスチックなのである。
単品部品版では一枚プラスチックは見たことがない。アルミワッシャーと薄いプラワッシャー、あるいはスプリングワッシャーの組み合わせである。プラの一枚物は、長く使っているとボディから滲み出すグリスに侵されて溶けて無くなってしまうのが始末に悪い。

Aria FA-71 Head 面倒なので最初はノブのみ交換しようと思ったのだが、なんと、同一型番でシャフト径が異なり、交換は不可能なのだ。ジャンク部品を買った店によると、同一型番でも年代によって相違があるのだそうだ。

と言うわけで、結局全交換。
白プラノブの味も捨てがたかったが、このGibson Typeの金ノブもシャープな印象でなかなか良い。




オマケ


注:これ以下のギターはGBの所蔵物ではありません。

1956 Blonde Gibson L-5C ネットで見つけた御本家様
“1956 Blonde Gibson L-5C”
流石に本家の金髪娘はグラマラスだ。

このシリーズはバリエーションが多く、本気で調べたりするとかなり大変なことになりそうである。




エレキギター小史

気になったので調べてみた。

そもそも、エレキギターの出自は…
1931年にエピフォンによって世に送り出された、ボディの表裏にアーチ状の膨らみを持ち、ボディサイドに“f”型のサウンドホールを持つ、アーチドトップギター出現まで遡る。
それまではジャズで使われていたアーチドトップギターもサウンドホールは通常のギターと同様ボディ中心の丸穴だったのだ。
表面真ん中の丸穴ではなく、サイド“f”穴のギターはは当時隆盛を極めたジャズバンドの音楽的要求によって出現した物だった。
高音域が伸びる従来の丸穴ギターではジャズのリズムセクションである、ピアノやベースと干渉し合ってしまうが、発生する音が一度ボディ内部を回って細い“f”穴から出るアーチドトップの場合は丁度頃合いの減衰が発生し、リズムセクションにとけ込む独特の音だったのである。

当然、この時代にはまだ電磁ピックアップは存在しないので、本来のフル・アコースティックギター、現在ピック・ギターと呼ばれる物であった。

1936 Gibson LH-150 電磁石式のギターピックアップの発明者に関しては諸説紛々であるが、どうやらGibson社でロイド・ロアーという技術者が作り出したという説が有力のようである。
時は1920年代。
最初に製品としてこのピックアップが使われたのは通常のギターではなく、ハワイアンで使われるラップスティール(膝に寝かせて載せて弾くスチール・ギター)で、GibsonのEH-150と言う型番であったらしい。
(“E”はElectric、“H”はHawaian)
発売は1936年1月で好評を博したという記録が残っている。
ハワイアン・ミュージック独特の雰囲気を醸すボリューム奏法もピックアップ付きのエレキ・スチール無しでは出現し得なかったのである。
写真:EH-150/1936


Flyingpan

「最初のエレキギター制作者は?」

ここでは実用的電気楽器の開発者ロイド・ロアーをその始祖として扱っているが、技術発展の波があった1920年代には、個人的制作者は他にもいたと思われる。
記録として「本当の最初」を考えるなら、特許の取得、あるいは組織的な生産が始まったものを最初と考えるのが自然だろう。
これを基準にするならば、「エレキギターの最初」はRickenbacker(リッケンバッカー社)の、George Beauchamp(ジョージ・ビューチャンプ)が1934年に出願した特許を挙げることになる。


図:George BeauchampのFlyingpanギター


ロイド・ロアーについて

Gibson F-5/1924 彼は技術者であるばかりでなく、作曲家、演奏家でもあった。
製品化はされなかったようだが、エピフォンに先駆け、1922年に“f”穴のL-5(ノン・エレクトリック)を試作しており、更にフラットマンドリンの代名詞とも言えるF-5の製作者であるという記録も残っている。
写真:F-5/1924


Gibson ES-150 大恐慌を乗り越え更に躍進を図ったGibsonは、エレクトリック・スティールの成功を受けて当時主力であったアーチトップギターにピックアップを搭載し、発表する。
これがGibson最初の(恐らく、マスプロ市販品として世界初の)エレクトリックギター、ES-150(“S”はSpanish)である。

エレキギターにとっての幸運は連続し、このES-150は当時頭角を現し始めた若きジャズギタリスト、チャーリー・クリスチャンの手に渡ることになる。

写真:ES-150/Gibson's first electric hollowbody in 1936.


Charly Cristian チャーリー・クリスチャン(1916-1942:1919生まれ説もあり)は一言で言えば天賦の才を持った人、夭折の天才だった。
彼は、この新しい楽器を制作者の意図を越える域まで使いこなし、当時、単なるリズムセクションの一部、サイド楽器としてしか見られていなかったギターを、己が短い人生を知っていたかのように一気にステージ中央にまで押し上げたのだった。
彼、チャーリー・クリスチャンの存在無しでは現在のエレキギターの隆盛はなかったと言っても過言ではないだろう。
後にこのES-150はチャーリー・クリスチャン・モデルと呼ばれることになるのである。
ES-150とチャーリー・クリスチャン以降、エレクトリックギターは音楽シーンに欠かせざる物となり、それまでのフルアコースティックギターも次々に電磁式ピックアップを搭載して行くことになった。
我が家のFA-71のモデルとなったL-5Cも、そんな生からエレクトリックへの過渡期デザインであることが容易に想像できる。

写真:Charly Cristian & Hi's ES-150


Fender Broadcaster 時代は下り、1950年、レオ・フェンダー率いるFender社が大音量でもハウリングを起こしにくいソリッドボディのギター、ブロードキャスター(後のテレキャスター)を発表したことを受けて、Gibsonでもソリッドボディの新機種レスポールを発表。これらが現在のエレキ・ギターの礎となり、エレキギターの新しい歴史もまた始まったのであった。

写真:Fender Broadcaster/1950



Fender Prototype 上の写真の'50型は現在の物と殆ど変わらない洗練されたスタイルだが、プロトタイプは少々形が異なる。
試作型は産みの苦しみすら感じさせる過渡的なデザインだが、シングル・カッタウェイの一枚板のボディ、ブリッジぎりぎりに寄せられたピックアップ、金属板のコントロールパネル、ボルトオンのメープルのネック…等々基本的なコンセプトは既に完成している。
写真はオリジナルではなく、1996年頃、Custum Shop Specialとして特注されたレプリカである。
オリジナルも現存し、“一番最初のフェンダー・ギター”として、カリフォルニアのFender Museumが所蔵している。
写真:Fender Prototype/1949 Reprica(1996)




参考資料:月刊JazzLife、他


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