愚行連鎖 資料の頁:5

GB楽器博物館

ギターについて 5(Martin OM28Vのこと)

いつかは“Martin”。そして…

Martin OM28V
Martin OM28V

憧れのMartinである。
通常、Martinと言えば、大きなボディでフラットピッキングのイメージのD-18、きらびやかな音と豪華な装飾のD-45がイメージなのだろうが、私の中ではやはり、型番に“0”が付いた小型のモデル、それも比較的装飾がシンプルなType-28以下のモデルなのである。
中でも材質、シンプルながら知る人ぞ知る凝った作りの(特にオールド、またはそのレプリカは)Type-28はMartinのリファレンスと言っても過言でないかも知れない。

OM・28V(Vintage Series) Guitar
Top: Spruce/Forward Shifted Scalloped X-bracing
Back & Sides: Rosewood
Neck: Mahogany/Adjustable Rod
Fingerboard/Blidge: Ebony
Scale: 25.4" scale length(645.2mm)
Neck Width at Nut: 1.374"(44.5mm)

OMと言う型番は“Orchestra Model”の略で、ドレッドノートよりも古い歴史を持つスタイルなのである。


OM(Orchestra Model)について

OMは、1920年代当時、ディキシーの衰退と共に職を失いつつあったバンジョープレーヤ達の一人、ペリィ・ベクテルがマーチン社を訪れたことから誕生した。
バンジョー弾き達は新しい音楽に対応するために、楽器をギターに持ち替え、持ち前のハイテクニックを駆使するために「音が大きく、音域が広い」楽器を求めたのであった。
マーチン社はその要求に応え、当時同社で最も大きなボディを持っていた“000”シリーズ(ドレッドノートはまだ存在していなかった)のModel-28タイプに、それまでは12フレットでボディと接合するのが一般的であったネックを、新たな意匠である14フレットジョイントのロングネックにすげ換えたギターをプロトタイプとして作った。
これが14フレットジョイント・アコースティック・ギターの始まりである。
その後、音楽的嗜好の変化により12フレットジョイントのモデルの人気が衰退し、1933年以降、それまで12フレットジョイントであった“000”モデルは全て14フレットジョイントとなり、OMと統合されてゆくのである。
(現在は12フレットジョイントの“000”もGE等の型番で製造されている)
そんな歴史的背景を持つOMは、今となっては当たり前、と言うより、現在のアコースティック・ギターの標準的仕様である14フレットジョイントの礎となったモデルなのである。
このOM28VはVintageの名が示すように、当時の楽器を一部を除いて再現した仕様なのだ。
(当時はバンジョー用のペグが使われていたが、実は当時のバンジョーチューナーはギター弦の張力に耐えられる代物ではなかったらしい)


Martin OM28V 端折って言うと、OMは000のボディに後のドレッドノートサイズのネックをすげた物である。
000は24.9" scale length(632.5mm)と言うショートスケールであるが、OMは現在のドレッドノートスケール25.4" scale length(645.2mm)なのだ。
小型のピックガードはOMのみの独特な形状で、このサイズが可愛らしい。
フラット・トップ・ギターに水滴型のピックガードという、今ではお馴染みのこのスタイルもOMから始まったものである。
タイプ名の28は仕様を表し、おおむね表スプルース、裏・側板ローズウッドで、控えめなバインディングが施されたモデルである。



Herring Bone 現行型の28は通常の縞模様のバインディングであるが、古いタイプ(このType-28Vも含め)はドイツ寄せ木細工のヘリンボーン(herring bone:鰊の骨/杉綾)と呼ばれる細工が成されている。
このOM28Vの型番“V”は“Vintage Series”の意味であり、1929頃のOM28の復刻仕様だと言うことである。
OMは1931頃から独特のバンジョーペグと小型のピックガードを持った姿を捨て、000のラインナップに吸収され、近年の型番復活までカタログから名称が消えてしまった。
初期の物も、その後の復活仕様も生産台数は少なく、Martinの中でも極めて稀少なモデルと言える。


Martin OM28V Maritn社にはもっとシンプルなモデルや絢爛豪華なものあるが、Martinのタイプは価格の高低が問題なのではなく、その楽器の持つキャラクターと弾き手の好みの問題なのである。
この楽器は写真では分かりづらいが、表板にベアクロウと呼ばれる節目の跡が出ている。
好みの別れるところであるが、私は愛嬌があって良いと思う。
(左右対称にでなかったのが惜しいな)

ブリッジ/サドルはオールドタイプの長い物であるが、材質はオールドとは異なり骨ではなく合成樹脂である。
日本語のカタログでは“ミカルタ”と表記しているがナイフグリップなどで使われる“マイカルタ”と同じ物であろう。
ちなみにナットもカタログには“コリアン”と書かれているが、骨ではなく合成樹脂製のようである。

Martin OM28V ポジションマーク。
これも渋い、Type-28オールド独特のスモール・スロッテッド・ダイヤモンドと呼ばれるシンプルな物で、5、7、9の三カ所だけにひっそりと付けられている。

Type-28ではネック指板のバインディングもなく、極めて質素である。
(そこが良いんだよね)

Martin OM28V ヘッドマークロゴもオールドタイプ。
これまた、このシンプルさが私好み。
ヘッドストックとネックはサテン仕上げ(艶消し)。

Gotoh製Martin ブランドのクローム仕上げペグ。
00028ECではナットの下に座金が入っているが、このOMはヘッドに直接ナット型のブッシュが打ち込まれている。
個人的にはオリジナルOMのバンジョーペグのデザイン、凄く好きなのだが…

Martin OM28V
Gotoh製Martin ブランドのペグと28以上に特有なダイヤモンドボリュート(ネックとヘッドの境目の三角形の瘤)。

Gotoh製ペグなら精度的には何の問題もないはずなのだが、Weverlyと比較してしまうとなんとも仕上げや質感が安っぽいと思ってしまうのは私だけだろうか?
ペグを回した感じもなんだかゴリゴリした印象で、今ひとつの感がある。
世界に誇る我らがGotoh(Made in Japan)が、OEMで何故に、こんなショボイものを出してしまうのだろう。
輸入元の黒澤楽器で聞いたらGotoh製Martin ブランドの方がWeverlyより若干高いのだそうだが…




Martin OM28V 背中部分。
ネック接合部にはアイボロイドの縞模様が綺麗に出ている。
裏板の接合部はジグザグ模様寄せ木。

さて、肝心の音と弾き心地であるが…
これはもう、触った者でないと形容がし難いのである。
(触ってしまうとビョーキになるから要注意)

新品なので音はまだ暴れているが、弾き込んで落ち着いてくるのが楽しみである。

Martin D-28徹底研究 マーティン・ギターの年別ラスト・シリアルナンバーとD-28製造台数 によると、近年のラストシリアルは
1999/ 724077
2000/ 780500
2001/ 845644
と言う事で、ウチのは“#813***”。実は2001年(恐らく上半期)生まれと言うことになる。

ともあれ、恐ろしいのはMartinギターは一台入手すると、オーナーの意志に関わらずに自然増殖してしまうと言う噂があることである。
自己破産だけは避けたい物である。



…と言うわけで

Weverly box おっと、この黄色い箱は何だ??

やはり、並べた他のギターのWeverlyと比べてしまうと、Gotoh Martinは、なんとも安っぽい。
なにより、ペグを回したときの抵抗感が妙に粗雑な印象なのだ。
OMは素敵だけど、これだけはイヤ!

気になり始めると、もう、我慢が出来ない…


Weverly & Gotoh Martin 左側がWeverly、右側がGotoh Martinである。
今回は渋く、アイボロイド・ノブにしてみた。OMにはこちらの方が似合うと思う。
(なにより、メタル・バタービーン・ノブよりも廉いのも魅力。更に今回は並行輸入物が手に入った。)

フォーカスのこの甘い写真ですら分かるように、もう、表面仕上げ、メッキの色・質感からしてWeverlyの勝ちなのである。
Gotoh Martinはクロームメッキだが、Weverlyはニッケルメッキであろう。(だんだん変色してくるのが堪らなく良い)


Weverly社は1918年創業。何でも元は工具屋さんだったそうである。(未確認)
よく言うと極めて大らかで、悪く言えばズボラでいい加減な印象があるアメリカ人であるが、こと本気になるとやる物である。これはWeverlyに限らず、アメリカ製の高額な趣味的製品にはしばしば見られる傾向とも言える。


Martin OM28V 流石にWeverlyもGotoh MartinもOLD Groverのレプリカだけあって、サイズもネジ位置も同一。
何の苦もなく、加工も必要とせず、ただ外して付け換えるだけ。
ブッシュの形状や質感も実に美しい。
アイボロイド・ノブもいい感じに縞模様が出ている。

想像したとおり、OMと言うギターのキャラクターにはメタル・バタービーン・ノブよりも地味なアイボロイド・ノブの方が雰囲気である。
本体のニッケルメッキと同様に、このアイボロイドも経年変化で変色し、だんだん良い味になってくることだろう。


Martin OM28V こちらは裏面。
Gotoh Martinの純正チューナーは+ネジで取付けられていたが、Weverlyはコダワリの−ネジ。
これだけのことでも印象はかなり違う。
特に純正品はユニクロメッキなのだろうか、錆びかけたトタン板の様な色の冴えないネジで、これが天下のMartin、世界のGotohなのかと、些か信じがたいものがある。

ともあれ、見た目も重要だが、定評あるWeverly。ガタもなく、なにより16:1と言う高いギア比の使い勝手が、手放せないものなのだ。
Gotoh Martin純正も精度などは水準以上なのだろうし、機能的にはまず文句はないのだが…
OEMのコストの壁だろうか、この質感だけはやはり頂けないのだ。
毎日手にするものであり、趣味嗜好の品物なので、機能のみ満たしていればよいと言うものではない。
やはり、使って、目にして、気持ちが良いのが一番なのだ。

Gotoh製Martin ブランドの方がWeverlyより若干高い

これは黒澤楽器の勘違い。Gotoh Martinは20,000.程度、Weverlyは
正規ルートで35,000.〜40,000.程度、並行物で20,000.位である。(2002.12.現在)

ちなみに、Gotohは(2002.12.現在)公式Web持っていないので、詳しくは分からないが、MartinにOEMしているのと同型のオープンバックを自社ブランドで発売しているようである。
価格は5〜6,000.らしいが、このオープンバックがMaritn OEMと同一の物なのか、構造が異なるのかは不明である。
上で紹介したショップのGotohのWebカタログにもこのタイプは記載がない。

GOTOH 後藤ガット(有) 群馬県伊勢崎市宮古町
Phone:0270-25-3608
Fax:0270-23-8532

密閉型(ロトマチック)やクラシックギター用3連ペグではあれほど優れた物をリーズナブルな価格で提供している我らがGotohが、メリケンの工具屋(失礼!)に技術的に敵わないとは、どうしても思えない。
頑張れ!Gotoh!!



チューナー交換は、見ため以上に楽器の音色に影響を与える。
特に、このクラスの楽器ではそれが顕著に出るようだ。
このチューナー交換後、特に低音弦に明らかに変化が見られる。
音が明確になっているのだ。たとえて言うなら、標準レンズオートフォーカスのカメラから手動フォーカス中望遠に持ち替えたような感じか?
これは材質の差だろうか、質量の差だろうか、それとも、しっかりとした作りから来る高い剛性が好影響を与えているのだろうか。
ギターの音は、良く“音の粒立ち”と言う言葉で表現されるが、まさに一つ一つの音がはっきりと浮かび上がってきた印象がある。
何度も書いているがチューナーは単なる弦巻器ではないのである。

こんな物を見つけた

Over size Bush オーバーサイズのブッシュである。
スタンダードのオープンギア・チューナーのストリングポスト径は1/4インチ、ペグホール11/32インチであるが、これは、ポスト径1/4インチ、ペグホール3/8インチ用のブッシュ。
SchallerやGroverのロトマチックからVintage Style Pegのオープンギア・チューナーに交換する場合、このブッシングがあればペグホールに埋木する必要がない。
ヘッドに埋木をするのは見た目も悪くなるが、音に対する影響も大だという。
コレを使えばヘッドを加工することなく交換が可能となる。
(元のワッシャー痕や裏面の取り付け痕は残ってしまうが…)


Gotohの逆襲?

GOTOH SD700 やっとGOTOHの2002カタログを入手した。
以前から情報は得ていたが、MartinにOEMしている物とは格段に品質が違うと言う噂のあるオープンバックが掲載されている。
形はWaverlyと同様のOLD Grover Type。
レギュラーラインとX-seriesと言うラインアップらしい。
型番はSD700X、SD700で末尾に“MG”が付く物は弦固定システムあり。
特長は、
詳しいことはここまでしか解らず、価格も不明だが、写真を見る限りでは、外観で既に安っぽさが否めないMartin OEMの物とは一線を画している。
これは期待できそうではあるが、問題は価格である。



小さなマーチンについて

今で言うミニギターに近いコンセプトの“5”番台もある(かつては1〜4番台もあった。型番が小さいほどボディサイズも小さくなる。現在も作られているかどうかは未確認)が、一般的に「小さなマーチン」は型番に“0”が付いた物と言っても良いだろう。
基が数字なので型番の表記は“0(ゼロ)”であるが発音は「おー」とされる。
エリック・クラプトンで有名になった“000”は「とりぷるおー」である。
(私は昔耳聞きで覚えた「とりぷろ」と言う呼び名をよく使う)
型番の“0”は、“0”が増えるほどにボディサイズが大きくなるが、元々は“0”がオリジナルサイズであり、それ以上の物は当時の音楽的要求から発生したオーバーサイズと言う事が出来る。
サイズ“00”が現在の標準的クラシックギターに近いサイズとなる。

各サイズの呼び名

0:Concert
特に016には型番の後ろに“NY”と言う記号が付加されるが、1854年、マーチン社開業の時の所在地を冠して作られ、今でもカタログに記載され、ニューヨークモデル、またはニューヨーカーと呼ばれている。
これは016がマーチン社の最古のボディシェイプを持ったギターであり、創業者マーチンI世がギター制作者シュタウファーに弟子入して以来のフォルムであることに由来する。
00:Grand Concert
「だぶるおー」と読む。
000:Auditrium
auditorium
(1) (演劇・音楽会などのための) ホール, 公会堂.
(2) (教会・劇場などの) 聴衆席, 観客席.
0000:Grand Auditorium
1997年に発表された新しいモデル。
「ふぉーすおー」と読む。(「くわどら」と呼ぶこともある)
かつてモデルMと言われていたもの。

どれもコンサート用のイメージがあるネーミングで今ひとつ分かり難いのだが、ヘッドマークの“EST.1833”が示すように、常にその時の音楽シーンのニーズに応えてきたマーチンの姿勢がこのネーミングにも現れているような気がする。
OM:本ページ冒頭D(Dreadnought)については既に掲載済みの記事を参照のこと。

ちなみに、オーケストラモデル以前はボディサイズを全て数字で表していたので、0,00,000,0000、読み方は“おー”、“だぶろー”、“とりぷろー”…だが、表記は全部数字の“ぜろ”である。
但し、OMは“おーけすとら・もでる”の略なのでアルファベットの“おー”である。

0000=“M”の出自

手許の資料によると、David Brombergが使っていたF-9(アーチド・トップ)の表板張替えフラットトップ、45風コンバージョンがモデルとなった、とある。
遠目には“OM”や“000”と同じように見えるが、そのボディはかなり大きい。
Martinには似たタイプで“J”と言うモデルもあるが、この“J”は0000の深胴モデルで、0000=M≦JでJ=MDB(M-Type,Deep Body)と言う事になる。
“M”の出自がF穴アーチトップと言うことを考えればデカイのは当たり前。
遠くで見るとそんなに大きく見えないGibson L-5等も実際手に取ると巨大である。
そのL-5に対抗するためのモデルだった(年代的にそんな物だろう)Martin F-9も同様に大きかったのは当然だろう。
ノン・エレクトリックのF穴アーチトップは用途を考えればでかくないと役に立たない。

小さなMartin:Style5

Martin Size 5 Parlor or Terz Guitar
Mini Martin Limited Edition(1999)

Martin Style5
TERZ=通常のチューニングより短調三音度高いチューニング。(G.C.F.B♭.D.G)
レギュラーチューニングでも演奏可能。
販売店Webの説明より

注:これはGBの所蔵物ではありません。

写真は1999年の限定モデル。
このギターは既に“SOLD”となっているが、2002年物もNet上別の販売店で発見できた。
正規輸入はされていないようだが、本国ではレギュラーラインには載らないものの、Ltd.Editionとして時々作られているのだろう。
我が国ではまだ、このサイズのMartinが沢山売れる状況ではないと思われる。
000-28EC並の価格のミニギターは…そうは売れないだろう事は想像に難くない。


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