愚行連鎖 アップライトベース

GB楽器博物館

エレクトリック・アップライトベース研究

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エレクトリック・アップライトベースを欲しがる人間はどんな発想と選択基準を持っているのだろうか?
価格的には、色々難しいことさえ言わなければ、エレクトリック・アップライトベースは上位製品では、本物(と言ってしまうと語弊があるが…)のコントラバスの中級品位には手が届くものすらある。
つまり、決してお廉くないのだが、この種の楽器を求める人間にとっては、超高級品でない限り、その価格は絶対的な選択基準にはならない。(場合が多い…数十万円のレベルであれば…すぐに出せるかどうかもまた別問題として…)

それなら、最初からコントラバスを買えば良いではないか!

Wood Bass と言う結論を導き出したくなるが、話はそう簡単なモノではないのだ。
コントラバスの音と、あの存在感のある外観には確かに惹かれて止まないモノがある。
しかし、まず特徴的外観から来る、そのサイズ…一般的なウサギ小屋には似つかわしくない。
運搬にも事欠く大きさである。
(かつて、学生の頃、四畳半でコントラバスと暮らしていた…それは、もう…)
次に、想像以上に大きな音圧…密集市街地で夜中に鳴らすにはかなりの勇気が要る。
そして、仲間と非クラシック系の音楽を楽しむ場合には逆にその出音の扱い…アマチュアでも必須となった電気拡声との相性が難しい…
等々、もう存在そのものが困難の固まりなのである。

でも、あの操作性と、少しでも似た音が欲しい、となれば帰着する結論は自ずと決まってくるのである。
操作性…フレットの呪縛から逃れるだけなら、横型ベース(エレクトリック・ベースギター)にも“フレットレス”と言う選択肢はある。
しかし、それはあくまでも“ベースギター”の音であり、コントラバスとは音も操作性も、演奏法すら全く異なる。
結論から言ってしまえば、エレクトリック・アップライトベースでさえ、コントラバスとは似て非なるモノで、代用品ではないと思うのだが…
この楽器、エレクトリック・アップライトベースを単なるコントラバスのエレキ化・省スペース化と考えるか、ベースギターとコントラバスの間から生まれた別の楽器であると捉えるかにその評価は変わってくる筈なのである。
これは楽器の構造(制作者の意図)にも関わるが、私としては「コントラバスの味を持った新しい楽器」として捉えていきたいと考えている。

コントラバスと国産アップライトベース寸法比較

コントラバスと国産アップライトベース寸法比較

完全に同一縮尺にはならなかったが、一般的サイズのコントラバスと国産アップライトベースを並べてみた。
実際に並べると、ほぼこんな印象になると思う。

左から
Scale(弦長):
Contrabass 1,040mm(楽器によってかなり異なり、定まった長さはない※)
STK Electric Upright Stud-B Custom 1,070mm
R & Bell Electric Upright Bass UB-S 1,040mm
Aria Solid Uplight Bass SWB-β 1,050mm
ATELIER Z Compact Uplight Bass Cub Elite 1,080mm(42,5")

実は現在の基準は1,060mmで、クラシックの国際コンクールでは弦長1,020mm以下の楽器は使用不可なのだそうだ。

Stud-B は完全にソリッドボディで、本体がネックそのもの、全く共鳴胴を持たない。
R & Bellは小さいながらも密閉式の共鳴胴を持つ。
Aria SWB-βとATELIER Z Cub Eliteはヴァイオリン族を模した“f”孔を持つ瓢箪型の共鳴胴を備えている。。

YAMAHA SLB200
輸入品については、その価格が一般サラリーマンの可処分範囲から外れるモノが多く、しかし、上に上げた国産との価格差分だけのアドバンテージを持つとは思いにくいので外した。裕福な方に別途考察をお願いしたいモノである。
YAMAHA製のサイレント・ベースもかなり評判がよいようだが…個人的にデザインや仕上げ処理のセンスが許し難いのでここには挙げなかった。試奏もしていない。
これはYAMAHA製のサイレント・ベースが悪いと言うわけではなく、あくまでも個人的な趣味の問題なので誤解の無きよう。造形や仕上げも“工業デザイン”としては優れているし、音を奏でる道具---楽器としてもかなり優れたモノであることは確かだと思う。
クリス・ミン・ドーキーのDVDを見た限りでは音色も私の好みではない…)


Aria Solid Uplight Bass SWB-β

Aria SWB-β デザインも、もちろん、音的には決して悪くはないとは思うのだが…
作り、と言えば、このAria Solid Uplight Bass SWB-βも、実際に現物を手にすると、コストダウンのためとはいえ、あまりに無神経な作りや部品使いが目につく。
補助ボディの取り付けが、まるで町の荒物屋で一山幾らで売っていそうな白っ茶けたユニクロメッキの蝶ネジ剥き出しだったり、本体の各仕上げがあまりに安っぽかったり、とりあえず付けられたヘッドの渦巻きが楽器と言うより、まるで台所用品のような質感であったり…

特にこの赤丸部分など、見ただけで試奏する意欲さえそがれてしまう。
金物屋や自動車パーツ屋で売っている、あの鉄製穴あきステーそのものなのだ。

少なくとも楽器、所有することが喜びになるようなモノを作ってもらいたいと願ってやまない。
(Stud-Bのヘッドの弦止めはなんと電気結線用の圧着端子そのものである…これは値段が値段なだけに…諦めるしかない。…と言うよりも逆に、「面白いやり方発見したねー」とさえ思ってしまう。安価だと言うだけで汎用の万能ステーをそのまま使うのとは発想が違うと思う。ちなみに上位機種のStud-B Excelの方は高級感のある木材削り出し:部品価格7,000円になっている。)
SWB-βは価格からすると(木製楽器にもかかわらず)全体の印象があまりにプラスティッキーなのである…
(正直言って、楽器と言うよりもレゴを連想してしまった…)

苦言を呈しているが、実はこの“Aria Solid Uplight Bass SWB-β”、私の中ではかなりの高ポイントを占める楽器ではあった。
(事実、数年前に“最初のMartin”購入時に、“Martin”にするか“SWB”にするか迷った…)
Wood Bass “エレクトリック・アップライトベース”と言うモノを広く世に認知せしめたのも、このAriaの楽器の功績であろう。
発売元が大手であり、量産型故に、多くの楽器屋店頭で実際に目にし、手を触れることが可能。誰にでも入手し安いというのは重要なことである。
価格的にも、このシリーズが国産同系商品の水準を決定づけたようにも見える。プレーヤーが増えれば価格もまたリーズナブルになってゆくはずである。
性能は、実際に複数のプロ・ミュージシャンが使用していることからも、充分に必要要件を満たしているのだろう。
しかし、前述したように、少なくとも楽器は、所有することが喜びになるような作りでないと納得できない。
美しい楽器は、また美しい音色を発生するのである。
また、楽器に限らず、デザインが美しいモノ、仕上げが美しいモノは、まず例外なく、その品物の基本性能も水準以上になっていると思う。
(デザインのためのデザインではなく、生まれ出た形はモノの本質を表出する。また、最終的仕上げにきちんと気を遣えると言うことは、基本がしっかりしていると言うことなのである)



私は現在、Stud-B CustomとR & Bell UB-Sを使っているが、どちらも急の必要に迫られて殆ど衝動買いしたモノである。
両者とも、実際に使用してみて、道具としては価格的に充分に見合った性能と個性を持っている。
どちらも低価格帯の製品なので、細かいアラは幾らでもある。しかし、価格対性能を言うならば、非常に優れたモノだとは思う。

STK Electric Upright Stud-B Custom

Stud-B ヘッド 音質的には、完全なソリッドボディで全く共鳴胴を持たないStud-Bは、その構造からは意外な程に“ウッドベース”っぽいが、やはりかなりベースギター寄り。逆に言えば、ベースギターと同様のエフェクトも利用しやすいと言うことになる。
しかし、共鳴胴を持たないが故、演奏者に殆ど自然振動が伝わってこない。
実は、フレットを持たない楽器にとってはこれはかなりしんどいことなのである。
(音程を保つのが非常に大変になる)
極限ともいえる省スペースデザインは、それ故に使い勝手に犠牲を強いるが、移動時には逆に大きなアドバンテージとなる。トラベル・ベースとしては最良の選択かも知れない。

写真左:Stud-B弦止め(電気結線用の圧着端子!)
右:上位機種Stud-B Excelの木製削り出し弦止め

R & Bell Electric Upright Bass UB-S

UB-S テール 小さいながらも密閉式の共鳴胴を持つR & Bellは、その点かなり楽である。音質的にもかなりの努力が認められる雰囲気のある音が出る。使い勝手もかなり良い。
先鋭的なデザイン(恐らくコストとのせめぎ合いから導き出されたモノだろうが…)は好みの別れるところであるが、見慣れるとそれなりに格好良いと思う。無理に“ウッディなイメージ”を作ろうとしないで、逆に無機的な形を作り上げたのが成功だろうか。
基本は2本脚で、真ん中のブラケットを使うと一般的な1本脚として使えるのはアイディアなのだろうが、2本脚使用は実は非常に演奏しにくい。いっそのこと普通の1本脚スタイルにして軽量化を図った方が良いのではないだろうか。
まぁ、この価格にあまり多くの期待を寄せるのはかわいそうというモノである。
しかし、安価故に材も厚く小さな共鳴胴にはおのずと限界がある事も確か。


写真:UB-Sテール、3本脚ブラケット
テールピースは2本付属する。

そして…

そうなってくると、次の楽器が欲しくなるのは病気持ち愚か者の常である。
さて、それでは、とサラリーマンの乏しい小遣いを睨んで対象範囲(価格帯)を想定すると…
YAMAHA SLB200Aria SWB-β等が考えられる。
しかし、どちらも前述の理由で、実際に貴重な小遣いを出費するだけの魅力を持ち得なかった。
(更にAria SWB-βは試奏すると、ネックの仕込み角度が浅く全体に平べったい感じで、コントラバスのイメージからは少々遠い…弾きにくいのよ…という現実的問題もあった。)

ATELIER Z Compact Uplight Bass Cub Elite

そうこうするうちに急浮上したのが、これ
ATELIER Zはエレキ・ベースギターでは定評のある工房。エレクトリック・アップライトベースも、完全ソリッドタイプはそれ以前から発売していた。
このメーカーからであれば品質には間違いないだろう。
カタログなどを子細に検討しても不安要因は発見できない。
予算計上、承認…直ちに発注。無謀(?)にも現物など見ていないのであった…(愚か者の次は博打打ちか?)


発注直前にCUB Elite+と言うマグネチック・ピックアップを増設したモデルも発表されたが…
美しいアーチトップに不細工ででかいピックアップユニットがどっかり乗っかっている。

それはないだろ…

ATELIER Z Compact Uplight Bass Cub Elite Plus

もちろん、オリジナルタイプのピエゾのみ装着型を発注したことは言うまでもない。

大メーカーではないので生産能力にも限界があるのだろう。かなりの人気で受注が増えていることも想像できる。
納品予定は未定。(早くとも10月以降になるだろうと言うことである)

エレクトリック・アップライトベースとしては、かなり大きな共鳴胴を持った楽器である。
エレクトリック・アップライトベースと言うよりも、携帯用コントラバスにピックアップを取り付けた、と言ったイメージなのかも知れない。
かなり期待が持てる。納品後のレポートにご期待あれ。

コントラバスとヴァイオリン

携帯用コントラバス---と書いたが、上の写真をご覧の通り、Cub Eliteの全体的な印象は、コントラバスとはかなり異なる。
プロポーションから言えば、背丈ばかり育ちすぎてしまったヴァイオリンとでも言ったらよいのだろうか?
なかなかスマートで美しいシルエットではあるが、遠い先祖のヴィオローネ族の遺伝子は薄まってしまったのだろうか?

さて、さて、どんな音が出るモノか、楽しみは未来に待っている。

写真:コントラバス(左)とヴァイオリンのスタイル比較



新事実…

偶然見つけたのだが、このATELIER Z CUB Eliteと言う楽器、実はATELIER Z製ではないらしい…ATELIER Zは単なる代理店だというのだ。
冷静に考えると、ATELIER Zはソリッド・ベースおよびギターでは有名だが、アーチトップを作っていたという話はあまり聞かない。
いくら優秀なソリッドボディ・ルシアーでも、全く異なるコンストラクション、全く異なるノウハウを持つアーチトップにはそう簡単に手は出せないのは事実ではないだろうか?
この楽器は、今年(2004)の初めまでは名古屋にあるQUEST INTERNATIONALと言う代理店(?)が輸入(?)していた、実は舶来(??製造国不明)楽器だったようである。(謎だらけ!)
確かに言われてみると、このデザインは一寸日本人離れしているといえないこともない。
原産地が、ヨーロッパだとするとかなり長目の弦長にも納得がゆく。

当時の名称はLandscape Super Electric Wood Bass“Swing Bass Custom”で、既に旧発売元のサイトからは日本語の情報は削除されているが、Googleのキャッシュに残っていた紹介文には…
ランドスケープから本格派アップライトベースが登場。ルックスだけでなく、ボディの鳴りをそのままピエゾピックアップでアウトプット。ステージでは堂々たる存在感を出すアップライトベースは他にはない。ギグバッグ付き\300,000.
と、あった。
いつ消えてしまうか判らないが、英文のページはまだ残っている。

>消えてしまったらこっち…
>こっそり拾ってきた日本語のページ

私のところに到着する期日は、未だ(2004.9.27.)に全く未定である。
謎は深まり、現物が届くのがますます楽しみである。
>続く


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