愚行連鎖

■釣りの音楽

釣りの音楽…
と、一言に言っても、こと“釣り”をテーマにした音楽はすぐには頭に浮かんで来ない。
そもそも、釣りは個人競技(?)であり、静寂との対峙と言う印象があるからだろうか。

かつて、カーティスクリーク・バンドと言うグループがあって、それはそれなりに気持ちのいい音楽を演っていたのだが、音楽内容はおよそ釣りとは関連はなさそうではあった。
(このバンドは最終的にはモータースポーツにテーマを求めていたようであった。

少々お歳を召した方なら週末の夜、パイオニアのスポンサードのTV番組でオーディオのCFのバックで流れていた、哀調あふれるハーモニカをフィーチャーした音楽を覚えているかもしれない。)

釣師英米対比

カーティス・クリーク
名著(怪著?)フライフィッシング教書:シェリダン・アンダーソン/田渕義雄
冒頭に掲げられた宣言、“CURTIS CREEK MANIFESTO”
及び第1章の表題“カーティス・クリーク宣言書”から。
カーティス・クリークは、文字どおりには“カーティス(男の子の名前)の川”
ということ。そして、これはいつもこっそりと釣りに行く川ということ。
カーティス・クリーク、それは、冷たい流れにマスたちが泳ぐ、
喜びに満ちたどこまでもつづく川の広がり……、
誰にも教えない秘密の川、心の川。

ある日、前面に釣りをテーマに押し出したアルバムを見つけた時、釣師はためらい一つなく、手にとってそれをレジスターまで運んだ。

思い出の鱒釣り“Memory of Trout Fishing”/打田十紀夫
TREE HOUSE MUSIC(小学館)BP-CD-0001

アコースティックギターのソロによるイメージアルバムである。

現実に今まで釣りに行く日、あるいはフィールドでのひととき、あまり音楽を意識した事は無かった。
もちろん往路の車中ではカーオーディオからはお気に入りの音楽を流していはいた。
〜高揚した気分を更に盛り上げ、と深夜、もしくは早朝の睡魔を追い払うために、殆どはリズミックなJAZZやPOPSであり、帰路は熱い心を鎮め明日からの日常に戻るため、女声の歌物が多かった〜

個人的印象では白々と明けてゆく朝靄の川面は弦楽アンサンブルであり、イブニングライズは壮大なフルオーケストラの響き、といったステロタイプだったのだが、確かにフライフィッシングはその生まれと育ちからアコースティックギターのフィンガーピッキングソロもぴったりとイメージに合致する。

フライフィッシングはイギリスで発祥し、アメリカでその形態をより洗練、というよりも実戦的に進化させた。
アコースティックギター音楽もまたアメリカで発展したが、そのルーツはイギリスからの移民達が持ち込んだ民謡でもある。

このCDはたった1本の楽器の、たった6本の金属の針金と、一人の両手の指(右手の小指はあまり使わないので指は9本)で構成される、極めてシンプルな音楽である。
収録された曲目は7曲の演奏者オリジナルと5曲のトラッドミュージックである。
演奏者はアコースチックギターの世界では有名なテクニシカル・プレーヤーではあるが、全くアウトドアに縁が無く、フライフィッシングも勿論未経験だそうだ。

しかし、プロデュースの妙とでも言うか、見事にフィールドのイメージを具現しているように私は思う。
選曲も大変趣味が良く、釣りのお供だけでは無く、アコースティックギターの入門CDとしてもお薦め出来る。
こうしたCDが大手の小学館と言う出版社から出てくると言うことはフライフィッシングが市民権を得たからなのか、それとも単なるブームの延長で、遠からず熱病が治まるように消えてしまうのかは私には分からない。
しかし、いままでは通常のCDショップでは手に入れにくかったこの手の音楽が比較的一般的に入手し易くなったことは歓迎すべき事なのかもしれない。

この種の音楽がなにより素晴らしいのは、「聴くだけ」の音楽では無く、「自分で演奏」出来る、ことにある。
この「思い出の鱒釣り」も別売りで完全収録の譜面集が発売されているのでギターを弾く方は是非挑戦してみるといいだろう。
(但し、初心者にはかなり厳しい物があるかもしれない)

-追記-
かつては休みごとに(殆ど隔週)、我がカーティス・クリークに通い詰めた事もあった。
ブームなのか、一日歩き回っても出会う物は水辺の鳥たちと小動物だけだった川が高価なウェアと工芸品の様な釣り道具を携えた人々で溢れかえる様になってしまった。
とても静寂を楽しむ余裕など無い。
生活にも疲れ、あのフィールドに想いを馳せるものの、荷物を準備して車のイグニッションに火を入れる気持ちの余裕も又消失しつつある。
子供の様に、わくわくしながら釣り糸を点検し、気に入りのバッグに道具を詰めこむ、あの前夜の気持ちがなくなってしまった自分が悲しい…

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