GBのアームチェアCinema見ist:海賊とよばれた男

海賊とよばれた男

海賊とよばれた男

監 督 山崎貴
出 演 岡田准一/吉岡秀隆/染谷将太/鈴木亮平/野間口徹/ピエール瀧/綾瀬はるか/小林薫/光石研/堤真一/近藤正臣/國村隼/黒木華/須田邦裕/小林隆
脚 本 山崎貴
音 楽 佐藤直紀
原 作 百田尚樹「海賊とよばれた男」
製 作 年 2016

原作は、“あの”百田尚樹。

言わずと知れた「永遠の0」の作者である。
「永遠の0」は何かと物議を醸した作品である。

はっきり言って、この作者には落胆を禁じ得ない。
ギャラを貰える文章とロハでプライベートの書き殴りの落差が酷すぎるのである。
もう、まるで別人が書いたかのように。
(気も小さい男なのだろう。たかが素人の私が以前「永遠の0」の感想を日記に書いた時には何度も足跡がついていた。今はmixiにはいないようだが…)

古今、表現者には性格思想その他問題を持つ人物は少なくない。
しかしながら、著された成果物とその作者の人品は無関係ではある。
誰が書いたか、ではなく、何を書き記したか、が問題なのである。

ましてや本作はフィクション小説と言いながら、その骨子はほぼ事実を記録した物である。
出光興産創業者の出光佐三と彼の興した出光興産をモデルにし、その会社が戦中戦後、我が国に残した足跡が描かれている。

そのプロットを、あの「三丁目の夕日」、そして本作と同じ原作者のベストセラー「永遠の0」を手がけた山崎貴率いるチームが、同じく「永遠の0」で鬼気迫る演技を見せた岡田准一を起用して撮ったと言うのだから、これは観ない訳にはいかない。

2時間越えの長い作品だが、だれることなくなかなか無難につないではある。
が…
壮大な一代記、いかにしてもダイジェスト、つまみ食い感は否めない。
スピード感は大急ぎと同意である。
主人公が何故、そこまで部下達に慕われたか、と言う大切な部分が今ひとつ伝わってこない。
『石油は国の血液である』と言うセリフがあったが、その重要なキーワードが作品だけでは何故重要なのかも伝わってこない。
この国が過去に戦争を引き起こし、ずたずたにされた、それが一つには“石油”が原因だった、等と言うことは学校では教えないのだから。
この内容を伝えるのには2部作でも良かった位である。
結果的に先妻との愛情物語にも見えるが、そんな作劇をしたいのならなおさらである。

熱い男達の胸滾る物語。
それは心躍る魅力的な映画なのだが、些か暑苦しい印象もあった。
特に、フィクションながら事実から構築したストーリーを黙々と重ね、敢えて抑制を効かせて淡々と見せた「この世界の片隅に」を観てしまった後では…

いや、岡田准一、良い役者だとは思うし、山崎貴のチームが作り出す映像は第一級の素晴らしさだし、客観的にはかなり良く出来た面白い作品ではあるのだが、やはり急ぎ好き、惜しいなぁ、の感が強い。良作なのに…勿体ない。

モデルとなった出光興産は、現在メジャーの一社シェルとの経営統合に関して、創業家と揉めていると報じられている。
やはり『メジャーに魂は渡さん!』と、そう言う気概を忘れないで欲しいと、初めてマイカーを手に入れたときから、ガソリンを給油するとき、よほどのことがない限り、アポロマークのスタンドを探す出光石油ファンは思うのであった。



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