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永遠の0

永遠の0

監督・VFX 山崎貴
出 演
岡田准一/三浦春馬/井上真央/吹石一恵/風吹ジュン/夏八木勲/橋爪功/濱田岳/山本學/三浦貴大/田中泯/新井浩文/染谷将太/平幹二朗
脚 本 山崎貴、林民夫
音 楽 佐藤直紀
主題歌 桑田佳祐/サザンオールスターズ「蛍」
制作プロダクション ROBOT
VFXプロダクション 白組
原 作 百田尚樹『永遠の0』(太田出版)
製作年 2013
製作国 日本


夏の終わり、名指しではなかったが、あの宮崎駿が明らかに本作と思われる物に対して批判を展開したのは記憶に新しい。
「今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記を基にして、零戦の物語をつくろうとしてるんです。
神話の捏造をまだ続けようとしている。『零戦で誇りを持とう』とかね。それが僕は頭にきてたんです。子供の頃からずーっと!」

「相変わらずバカがいっぱい出てきて、零戦がどうのこうのって幻影を撒き散らしたりね。戦艦大和もそうです。負けた戦争なのに」
名前は挙げていないが「映画化される零戦の物語」というのは、どこからどう見ても『永遠の0』以外のナニモノでもない。
「戦後アメリカの議会で、零戦が話題に出たっていうことが漏れきこえてきて、コンプレックスの塊だった連中の一部が、『零戦はすごかったんだ』って話をしはじめたんです。そして、いろんな人間が戦記ものを書くようになるんですけど、これはほとんどが嘘の塊です」

一方の百田は、
「先日、アニメ『風立ちぬ』の試写を観た。ラストで零戦が現れたとき、思わず声が出てしまった。そのあとの主人公のセリフに涙が出た。素晴らしいアニメだった」と同作を大絶賛した。
また百田は
「『永遠の0』はつくづく可哀想な作品と思う。文学好きからはラノベとバカにされ、軍事オタクからはパクリと言われ、右翼からは軍の上層部批判を怒られ、左翼からは戦争賛美と非難され、宮崎駿監督からは捏造となじられ、自虐思想の人たちからは、作者がネトウヨ認定される。まさに全方向から集中砲火」
「宮崎駿監督が『永遠の0』を批判したという記事がネットに載って、Twitterの中のアンチ百田たちがおおはしゃぎ。リツィートの嵐。そこまで嬉しいか(^-^;」
と…

どちらの意見が真っ当かは置いておくとして…
余り他人を叩かない方がスマートには見える。

確かに本作はその殆どの部分を実際の戦時中の記録を抜粋脚色で構築したフィクションともノンフィクションとも付かない作品ではある。
そして、本作を批判する意見も少なくはないようだ。
その多くの意見は「事実であった戦争を娯楽作品として描いている」事が問題だという。
「戦争をエンターテイメントにするのは許せない」

そう言うご意見が多々あるのは承知している。
でも、古今東西戦争を題材にした娯楽作品は数多の数有り、玉石混淆ではあるが玉の中にはまさに珠玉と呼べる作品があることも確か。

本作が珠玉かどうかは別として、売れれば勝ち。
で、この作品によって、日本人と戦争について考える人が増えれば勝ちであると同時に価値があると言えるだろう。

さて、本題。
冒頭で飛行機・艦船ヲタは、つい「良くできた特撮(VFX)」を見てしまい、ありゃ、航空母艦の航行シーンが一寸ちゃちい…等と…

ヲタは映画を楽しめない。

特に本作はあの「三丁目」チームの作品だから、ついその辺りを見てしまう。
即座に見方を変え、物語に没頭することとする。

600ページに及ぶ原作、三丁目の夕日監督はこれをどう料理したのか…

映画には尺という制限が存在し、長大な原作を映像化するには巻を分かつか内容を圧縮省略するしかない。
本作でも原作が描くエピソードのかなりの部分が切り捨てられている。

が、それでも2時間半余り、かなりの長編である。

結論から言えば…
エンディング直前まで「確かに“特撮”は素晴らしいが、監督としての山崎貴、まあ、こんなものか?」と。

終幕近く、原作とは全く異なる処理が施されていた。

夢か現か唐突と言うに近く挿入された最終シーンの導入部、一瞬脊椎に痺れが走った。

いや、只のアイドル出身イケメンさんとしか思っていなかった岡田准一…
こいつはただ者ではない。

最終シーン。あの岡田の表情を引き出した山崎監督、こいつもただ者ではない。

戦争がどうの、とか、特攻という行為がどうのとか…
そんなことではなく、一人の男の生き様を描いたファンタジーとしてこれは原作と比肩出来る作品になったかも知れない。
戦争物をファンタジーなどと言うと又お怒りの向きもあるかも知れないが…

これは「あの時代」を舞台にした壮絶なラブ・ストーリー・ファンタジーなのだから仕方がない。

そう、思想物ではなく、これはまさしく不思議な恋愛映画なのである。
原作のエピソードを削除してしまったので恋愛物としての存在感は少々殺がれてはいるのだが。

いみじくも一緒に見たカミさんは言った。
「戦争物を期待してみたらがっかりするかもね」

 岡田准一(33)主演の映画「永遠の0(ゼロ)」(山崎貴監督)が21日、公開され、興行収入見込み60億円の好スタートを切った。2014年正月映画とされる同作の記録は、来年分にカウントされるが、今年公開された実写作ではダントツの興収。原作の百田尚樹氏(57)も、この日を含めて「7回見た」と話すほど大絶賛している。
ングオベーションで舞台に迎えられた。

 興収60億円を見込める作品は、実写では今年初。それだけ「実写作品不振」の年だった。
2013年12月22日(朝日新聞DIGITAL)

う〜ん…
今年は例年になく映画館に行っていなかったのだが、そうか不作の年だったんだ。


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