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武士の家計簿

武士の家計簿

監 督 森田芳光
出 演 堺雅人/仲間由紀恵/草笛光子/西村雅彦/松坂慶子/中村雅俊
脚 本 柏田道夫
音 楽 大島ミチル
主題歌 Manami「遠い記憶」
原 作 磯田道史/武士の家計簿-「加賀藩御算用者」の幕末維新(新潮新書))
製 作 年 2010



『サムライ・シネマキャンペーン』と題し、『十三人の刺客』『桜田門外ノ変』『雷桜』『最後の忠臣蔵』と併せて、2010年公開の時代劇映画5作共同キャンペーンのうちの一作。

キャッチコピーは「刀でなく、そろばんで、家族を守った侍がいた。」。

上映時間 129分と言う比較的長めの作品である。

予告編やTVコマーシャルではコメディ風の場面を切り取って垂れ流していたが…
あれをイメージして劇場の椅子に座ると…多分、面食らうだろう。

本作は、『武士の家計簿』茨城大学准教授磯田道史が著した、元はこの人が自らの授業の読本に使うつもりだった歴史資料を原作とする。


武士の家計簿 映画も、あくまで歴史に埋もれるはずであった一介の下級武士とその家族達の生活を描いたモノである。

当然のごとく、ドラマチックな展開があるわけもなく、そもそも、原作著者が発見した古文書、一人の武士が記録した微にいり細にわたる自家の出納帳を研究した書物である。
小説ではない。物語性がある書物でもない。

同じ下級武士を主人公にした最近の映画では、浅田次郎原作による「憑神」があった。
あちらは当代の名ストーリーテラーの作品が原作なので波瀾万丈、もう娯楽映画の見本のような作品だったが…


学術研究用「史料」を映像化した作品なので、あくまで静かに始まり、静かに終わる物語となり、起承転結や手に汗握る活劇的シーンがある訳もない。

剣はからっきしでも算盤と算術だけで家族を守った下級武士の人生が穏やかに淡々と描かれる。

資料としては貴重ではあるが、歴史的に何かを成した訳でもない、無骨で実直なただの一人の下級武士とその家族の物語。故にドラマチックになる訳も、又ない。

予告編やTVコマーシャルは「客を劇場に呼ぶ」のが目的なので、あれは仕方のない作りだろう。
しかし、「騙された」と思う人はいるだろうなぁ…

武士の家計簿 江戸時代末期の武士の生活は、生きて行くだけでも出費はかさみ、贅沢を廃して質素に暮らしても収入を上回る支出があったと言うことは薄々知ってはいた。
上級武士でそれなりの収入があればまだしも、下級武士では体面を保つだけでも一生負債を背負って尚足らず、子孫に負の財産を受け継いでいたと。

算用方と呼ばれる下級武士たち。
帳簿付けという作業は、当時の武士の感覚から言えば、賤しい金勘定だっただろう。
パンフレットに寄れば、だがその賤しい業務が下級武士にとっての「一番の出世の道」だったようだ。

いままであまり日の当る事のない武家社会の一面を描いているのでとにかく地味である。
派手なアクションや戦闘シーン、VFX/CGなども一切無し。
それどころか、幕末物なのに抜き身の刀すら出てこない。
江戸時代末期、加賀藩の「御算用者」(ごさんようもの)=経理担当下級武士の誠実な勤め人としての生活が淡々と語られる。
泣くような場面やワクワクどきどきのストーリーはそこにはない。
ないが…日本映画の一つのあり方を見たような気がする佳作である。

出演者が豪華である。みんな上手い役者なのでそれだけでも安心感に溢れている。



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