GBのアームチェアCinema見ist:最後の忠臣蔵

最後の忠臣蔵

最後の忠臣蔵

監 督 杉田成道
出 演 役所広司/佐藤浩市/桜庭ななみ/片岡仁左衛門/安田成美
脚 本 田中陽造
音 楽 加古隆
原 作 池宮彰一郎/最後の忠臣蔵
製 作 年 2010



『サムライ・シネマキャンペーン』と題し、『十三人の刺客』『桜田門外ノ変』『雷桜』『武士の家計簿』と併せて、2010年公開の時代劇映画5作共同キャンペーンのうちの一作。

キャッチコピーは「生き尽くす。その使命を、その大切な人を、守るために。」。

2004年11月5日から2004年12月10日までNHKの「金曜時代劇」で同名のドラマが放送されているが、同一原作を元にするものの、視点が異なる。

NHKドラマは原作に比較的忠実に、元禄赤穂事件の生き残りである赤穂浪士・寺坂吉右衛門を主人公に据えていたが、本作は、原作ではそれほど明瞭に描かれなかった瀬尾孫左衛門にスポットを当てた作品。


最後の忠臣蔵 「忠臣蔵」なので、もちろん「討ち入り」シーンはある。
あるが、一応必要最低限挿入のさらっとしたモノである。
必要シーンではあるが、重要シーンではない。
迫力に溢れる吉右衛門と孫左衛門の剣戟もある。二人の関係を描く重要なシーンだが、物語全般を見渡せば、それも添え物でしかない。

「忠義」いや…そんな一言だけで済ましてはしまいたくない何かが、ここにはある。


最後の忠臣蔵 それが命を賭してまで成し遂げるモノかどうかは時代が判断することだろうが…
そこまでのストイックさが現代人に必要か、それ以前に実践出来るか、そんなことは別問題として…

 「ぶれない、ヒトとしての生き方。」

それに身震いする程の感動がある。

正直に言うと、観る前はそれほど期待してはいなかった。
ご多分に漏れず、普通の日本人なので「忠臣蔵」が大好き、それだけで劇場に赴いた。

本作は映像も出演者も美しく、気高く、気品溢れ、清々しくも哀しい物語。
身分は低くとも、武士としての矜持を持ち続ける。そして、その男に育てられ、隠れ里であっても「武家の娘」として凛と生きる。

これは今年最高の時代劇作品と断言しても良いだろう。
年の末に素晴らしい作品を観ることができ感無量である。

物語後半で客席のそこここから嗚咽が聞こえてきた。
悲しいとか、哀しいと言うので涙したのではない、多分どの観客も。
「最後の赤穂浪士」の忠義とその達成感に心打たれ感涙を禁じ得なかったのだ。

忠義ゆえに使命を秘して、16年にも渡って、生き恥をさらした一人の男に心打たれたのだ。
客席の照明が灯っても、暫し席を立てなかった。

最後の忠臣蔵 結末も、多分観客の心情的には不本意ながら、これ以上の結びは無かろうという説得力のあるモノであった。
主人公は長年の使命を終え、亡き主に預けていた命を返却される。
つまり、己の命を自分の意思で使うことが許され、無事に自分の赴くべき所へと向かうことが出来たのである。
多分、それは彼にとっては無上の幸福だったのではないだろうか?
本作は海外でも上映されるそうだが、その辺り、ガイジンに理解出来るだろうか?

随所で人形浄瑠璃「曾根崎心中」が挿入される。
海外上映の際のガイジン受けを狙ったのか?と思える頻繁さだが…
そうか…
ラストの主人公の去就はある意味「心中」=「情死」にも通じるのか?と言うのは穿ちすぎか?


最後の忠臣蔵 出演者は豪華で、どの俳優も本当によい仕事をしている。特に、キャスティングを見て若干の不安を感じていたおひいさま桜庭ななみが実に良かった。

又、音楽と映像が秀逸であることも特筆に値する。
スタッフの殆どの年齢が高い、と言うよりも高齢者集団が作った映画である。
年を食えば偉いと言うモノではないが、年の功は素晴らしい重みを持っていることを認識させる一本である。


日本人なら、これは観ておくべきである。



return目次へ戻る