GBのアームチェアCinema見ist:憑神

憑神

憑神

監  督 降旗康男
撮影監督 木村大作
音  楽 めいなCo.(主題歌:米米CLUB)
主  演 妻夫木聡
助  演 西田敏之/赤井英和/森迫永依/佐藤隆太
製 作 年 2007
シナリオ 降旗康男/小久保利己/土屋保文
原  作 浅田次郎


後述のように、原作を先に読んでいた。
劇場で何度か予告編見たんだけどね…予告編はドタバタ喜劇風だった。
確かに、途中そう言う場面、原作にもあるんだけど…
(浅田次郎だからね、当然と言えば当然…)

ただのコメディになっちゃってるとしたら、映画は駄作だなぁ。

妻夫木クンは嫌いではないけど、別所彦四郎にはちょい若すぎるような気もするけど、ちょっと面白そうだな。
…等と思っていたら、

夫婦50割引 いえね、封切り初日だった土曜日の晩にね、カミさんが「明日映画行きたいっ」てのよ。
(何しろ、“夫婦50割”っすからぁ…)

実は、文庫本もカミさんが貸してくれた訳ね。

ううむ…素晴らしい戦略ではあるな。


まぁ、良いか…
一寸気になっていた映画だし。
朝一番で行って前売り指定席が買えたら、と言うことで…

憑神 上手い具合に良い席の指定が取れて観てきた。

なかなか良かった。
これはお奨め出来る。

映像が文章を凌駕した例ってのは数える程しかない。
だから、原作は大抵、映画見てから読むのだが…

まぁ、エンディングの解釈は一寸私とは違うかなとは思うが…
降旗康男、名匠ですなぁ!

映画は尺というモノがあるので、どうしても原作を端折らないとならないのだが…
それでも原作の言わんとするところは充分に伝わっていると思う。

「漢の心意気」
クライマックスで泣きましたぜ、私。

ちなみに、故 鈴木ヒロミツが出演している。多分、これは遺作。合掌。



原作

憑神 憑神(文庫)
浅田次郎(著)

文庫: 357ページ
出版社: 新潮社 (2007/04)
ISBN-10: 410101924X
ISBN-13: 978-4101019246

いや…
相変わらず、上手いっ!
浅田節炸裂。

古臭いけれど、馬鹿で格好良い男を描かせたら、この人の右に出るモノはいないな、多分。

時は幕末。世情は疲弊し、政情は腐敗する。
主人公は文武両道に秀でた聡明な男であるが…馬鹿だ。
主人公を助ける友人にして家来の男は、馬鹿だけれど聡明だ。

例によって冒頭から少々ドタバタ気味のお話しが進むのだが…
後半、物語はその様相を変える。

時代が使いこなせなかった、愚直な男が、自らの道を発見する物語。
真面目に生きることの可笑しさ・哀しさ・美しさを描いた物語。

「限りある命を惜しむのではなく、限りある命だからこそ輝かすことができる」 貧乏神 疫病神 死神と対峙しなければいけないハメに陥った主人公が、最後には自分の生き方、その人生を輝くものとするために花道を進んで行く。

晴れがましい舞台に柝(ひょうしぎ)がちょーんと木霊するがの如き結びの数ページを読んでいて、体の芯から何かわき上がってくる感覚と同時に不覚にも涙が出た。

いや、千両役者だねぇ。

貧乏神、疫病神、死神までもこんなにヒト臭く、人情溢れた存在に描いてしまう浅田次郎、やっぱり凄いね。

大団円、とは決して言えない結末だが、不思議な爽快感に溢れている。

幕末同様価値観が揺らぎ、自分の存在意義さえ危うくなりそうな現代。この主人公のように自分の信念、矜持だけは失わないように生きて行きたいと、そんな感想を持った。

本作は小説新潮に2004年9月号から2005年5月号にかけて連載され、2005年9月に新潮社より単行本化された。映画は、2007年6月23日封切り。


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