大きな白いヨットの帆に朝日が真横から射している。
今朝も気持ちが良い一日になりそう。
あいかわらず駅から吐き出された人ごみが道を埋め尽くしている。
その密集が港へ向かってだんだん薄れてゆく。
まるで人と人の間にゆったりと見えない何かが少しずつ割り込んでゆくかのように。
そうして辿り着くのはカモメ珈琲亭。
なんと良い場所なんでしょう。
自分で選んだ場所に自分で感激するなんて。

カラカラーン
ドアのカウベルが鳴った。

いらっしゃいませ

大きな黒い鞄に紺のスーツ。
いかにも外回りの営業という身なり。
入り口のドア越しに人通りが見える席に座った。
メニューをさっと眺め、時計に視線を移してから少し間を置き、上目使いに
コーヒー

はい
remi はカウンターに向かった。
携帯電話を開く音が聞こえた。
メールのチェックでもしたのだろうか。すぐに閉じる音がした。

BGMを変えてみようかしら。
そうね、今日はユーミンで。まだ荒井の頃の曲がいいかな。

テーブルの振動に続いて再び携帯電話を開く音が聞こえた。
あわてて残ったコーヒーを飲み干すと伝票を持って席を立った。

ありがとうございました。
急に出て行ってしまった彼女から、やっと連絡が入ったのだろうか。
それとも母親から、おしかりの言葉だろうか。
いや、浴室の伝言を新しい彼女に見つかってしまったのかもしれない。

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