私の「コンピュータ」履歴書 No.9

メインフレームを一人で使う


大学の4年になって研究室に配属になった私は、1つ目の研究課題をなんとかこなし、夏休みになりました。研究室で夏休みを2ヶ月も取っているのは、我々4年生だけで、教官やら事務官やら技官やらの人たちはもちろん、院生でも夏休みは1週間ほどしかありませんでした。なぜ4年生だけ長い夏休みがあるか、というと、研究室で遊んでいないで大学院の受験勉強をしなさい、ということらしいです。
理学部というのは大学院進学率の非常に高い学部で、私が行っていた大学の理学部でも、大学院進学率が半分を超えていました。お勉強が大好きな私(←嘘)も、成り行き上、大学院志望ということになってしまっていました。でも、何せ研究室ではコンピュータと力仕事ばかりやっていて、物理学のことなど全くやっていなかった私は、古典力学やら電磁気学の基本的なことすら忘れてしまっている状態。
しかし、そこは一夜漬けの得意な私。なんとか誤魔化して、どうにかこうにか同じ大学の大学院に進学することが出来ました。しかし、いつもこんなことばかりやっているような気がする。

なんとか大学院進学も決まって、また研究室に戻ってきました。
秋から始める、2つ目の研究テーマが与えられましたが、それは、ある測定器の性能改善というものでした。
はじめのうちは、コンピュータとは全く縁の無い、機械工作やら配線やら、そんなものばかりやっていて、たまにはコンピュータを使いたいなあ、などと思いながらやっていたことを憶えています。
半田ごてで火傷したり、ボール盤で手に穴を空けそうになったり、可燃性ガスを部屋に充満させて爆発させそうになったり、うん万ボルトの電圧で火花を散らしたり、そんなことばかりやっていました……いやまあ、そんなのも嫌いなわけじゃ無いのですけどね。でも、どう見ても危険な作業ばっかりだなあ。
コンピュータに触れるようになったのは、その測定器がある程度まともにデータを吐き出し始めてからです。こいつが吐き出したデータは、パソコンが拾いフロッピーに書き出します。このあたりの仕組みは、研究室の技官の人が作ったので、私は全く関与させてもらえませんでした。
当時のパソコンは、ハードディスクなどもちろん付いていなくて、データは8インチのフロッピーに直接書き出すようになっていました。こいつをメインフレームの端末で読ませて、ファイル転送でメインフレームに送り、磁気テープに書きこむ、という作業を私が担当することに。

私の配属された研究室は、かなり裕福だったようで、研究室専用のメインフレームを持っていました。研究室自体にコンピュータ室があって、そこに設置されていましたから、当時としてはかなり恵まれた環境だったと思います。
当時の大学には、大型計算機センターのような施設があって、各研究室はそこにあるメインフレームを(他の研究室と一緒に)使う、というのが一般的でした。今のように、安くて高性能のコンピュータがあるわけじゃないですから、1台のコンピュータを皆で利用しましょう、ということです。
ところが皆で使う、ということはそれだけ、利用方法に制約が発生する、ということでもあるわけです。コンピュータ資源大量に使用する無茶な処理をさせたいんだけれど、そうすると他のユーザに迷惑がかかる、なんてことも多いわけです。だからそういう無茶な処理は夜間の空いている時間帯にやりたい、などとセンターに言っても、「その時間はオペレータがいないからダメ」と言われたり……。
その点、専用のコンピュータがあれば、自由に使うことが出来るわけで、何せオペレータが自分だったりするわけですから、時間を気にせず使うことが出来ます。
というわけで、私もかなりやりました、夜通しメインフレームを使ったデータ処理を。場合によっては研究室に誰もいなくなりますから、必然的にメインフレームを一人で使うことに。当時はメインフレームと言えどもディスク容量はかなり小さく(1研究室専用だから、もともと小さかった、全部で1GB程度だったと思う)、昼間のように何人かで使っている時には、ディスク自体も遠慮して使わざるを得なかったのですけど、一人で使う場合はふんだんに使うことが出来る。
例えばデータのソートを行う場合、データがメモリ上に乗らないほど大きい場合には、テンポラリファイルを作ってソートしますけど、ディスクの容量が小さかった昔は、大きなソートを行う場合、そのテンポラリファイルが大きすぎてディスクに置くことが出来ず、テープに置いたりしたものですが、これをやるとソートにとんでもなく時間がかかってしまいます。ですから、夜間を狙ってそういう処理をやったこともありました。

この大学4年の後半になって、やっと私はまともなOSに触れたことになります。NECのACOS6という、今ではかなりマイナーなOS……って、最近の状況は知りませんけど、まだありますよね、ACOS6? NECのメインフレーム用のOSというとACOS4の方がメジャー(と言っても高が知れているか?)ですけど、ACOS6って、結構面白いOSでしたね。UNIXのディレクトリのような、階層構造を持ったファイルシステムがあったり(メインフレームのOSにはこれが無いものも多い)、1ワード36ビットだったり、私は結構好きだったのですけどねえ。
この後、就職してIBMのMVS(今のOS/390)を使ったときに、ファイルシステムに階層構造が無い、というのを知って愕然としたものです(まあ、ファイル名の付け方で、それっぽくすることも出来なくは無いですが)。
余談はともかく、一人でまともなコンピュータを占有して使う、というのは10年数年前の当時としては、非常に気分のいいものではありました。

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