夏休み企画 人間萬歳 〜実篤のこころ〜


 毎年夏休みに開かれている「実篤入門編」とでも言うべき展示(同名の戯曲を中心とした展示ではない)。他の展示では時代や活動に注目した展示が行われるが、「人間萬歳」は専門的にならず実篤の一生を追う形で、広く彼の業績を概観できるように配慮されている。
 習作時代、白樺時代、昭和前期、戦後、仙川時代とそれぞれの時代から原稿と初出誌が選ばれ、友人たちあるいは家族への手紙、実篤の描いた水彩、油彩、書、それに新しき村関係の資料と写真パネルとバランス良く配置されている。

 絵画については画とその写生の対象になった実物を画の前に配し、実篤がどうそれらを見て画にしたかがわかるようになっている。また解説シートを3種類つくっていて、技法や題材について興味を喚起するようになっている。今年初めての試みだと思うが「実篤に挑戦!」というコーナーを設け、B5大の画用紙を置いて館内や公園でスケッチをしてみようと呼びかけている。鉛筆と色鉛筆は受付で貸してくれるそうだ(館内園内美化のために、鉛筆・色鉛筆以外の使用は禁じられているのでご注意を)。

 志賀直哉との交友をたどるコーナーもあり、志賀という側面から光を当てた武者小路像というのは、初めて来館した人にはわかりやすかったかもしれない。志賀が庭の木を手ずから削って作った友情の杖で病後の武者小路は散歩を再開したというエピソードは、どこか少年のような匂いがあり80歳の頃の話とは思えない。

 8月23日(土)には「 聞いて・見て・楽しむ会」という子供向けの催しが行われた。チラシ等を見ると、荒涼とした時代だからこそ実篤のような考え方にふれてほしいという記念館の方々の思いがこめられていて、これまでにない社会的なメッセージを感じた。対象は小学校高学年〜中学生だったのでどういう内容だったかはわからないが、今の子供たちは実篤をどう受け止めただろうか。彼ら彼女らのものの見方に一つ引き出しを加えるものになればと思う。

 外に出ると公園は夏真っ盛り。緑はいよいよ濃く、蝉時雨は力強く頭上より降り注ぐ。下の池に落ちる水の音もさわやかだ。この季節はやぶ蚊に注意。

(1997年8月8日見学)

1998年の「人間萬歳」展のレポートを見る >

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