夏休み企画「人間萬歳」


 毎年夏休みに開かれている実篤入門編。今回は最終日の夕方に、駆け足で見た。毎年開かれているから平凡な展示かというとそんなことはない。今年もいろいろと発見があった。

 展示室入ってすぐに、今も出ている文庫本として『愛と死』と『友情』が展示されていた。また『友情』は新潮文庫の中でロングセラーの第4位ということが、書店で配布されている小冊子を使って紹介されるなど、身近に感じさせる工夫が見られた。文学館というと古くてほこりをかぶった初版本ばかりが展示されるが、そうではない見せ方を新鮮に感じた。
 今回は旧実篤邸が修復工事中のためか、いつもは和室に飾ってあった「馬鹿一の夢」の舞台装置模型が展示されていた。同様に、仕事部屋に置かれていた実篤愛用の眼鏡と万年筆がガラスケースに陳列されていて、間近に見ることができた。こういうちょっとした配慮がうれしい。
 日記も『稲住日記』の昭和20年8月16日の部分が開いて展示されていた。当時実篤は秋田県の稲住温泉に疎開していたが、終戦を8月16日の新聞で知った様子が描かれていた。何もする気が起きなくて、文章も書けず絵も描かないということが書かれていたが、これを8月という太平洋戦争を思い起こす月に読むというのは、年齢に応じていろいろと考えることができ、また実篤を生きた存在としてより身近に感じることができると思う。そういう点でよく考えられた展示だと思った。

 絵画などはやや点数が少なめだが、洋画、淡彩、書とその活動を概観でき、ぎゅうぎゅうに詰めるよりもゆったりと鑑賞できるかもしれない。生い立ちや「白樺」、新しき村の様子を示す写真も何点か展示されていたが、入村当時の安子夫人(大正11年ごろ)は髪が長く色白でお姫様のようだった。
 戦後につくった雑誌「心」の紹介では、今回は「白樺」の逆、つまり「無名な若者」ばかりでつくった「白樺」とは反対に、「有名な老人」ばかりで雑誌をつくろうと思うという実篤の文章が引かれていた。この辺は彼一流のユーモアというか、諧謔がよく出ていると思う。決して人のいいおじいさんだけでは終わっていない。

 閲覧室の方では、「実篤に挑戦!」で描かれた絵が今年も展示されている。私はいつも小さい子どもが描いた絵を楽しみにしている。無造作に絵の具をまっすぐに使って描かれたトマトときゅうりは、絵の具のにじみ具合といい、とてもよく野菜のかたちと存在をとらえているように見える。今年も3歳の子が描いた絵ともう1点素敵な絵があった。私は童心至上主義者ではないはずだが、これらの絵を見るとかなわないと思ってしまう。

(2002年9月1日見学)

(2002年9月7日:記)
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