[ホームページへ戻る]

おめでたき日々

(2002年5月)


2002年5月25日

●いよいよサッカーワールドカップが来週開催される。「武者組」的にはもう少し韓国との文化交流があると思っていたが、参加国やらキャンプ地に気をとられて残念ながらそこまで至っていない。朝鮮芸術を日本に紹介した浅川伯教・巧兄弟や柳宗悦が注目されると思っていたのだが。
●『朝鮮の土となった日本人』で浅川巧について書いた高崎宗司氏が、岩波新書の新刊『植民地朝鮮の日本人』を出す(6月20日発売)。どんな内容かちょっと注目。
●韓国発の検索エンジン「ネイバー・ジャパン」では、韓国のホームページを日本語で検索して、結果を日本語に翻訳して表示するサービスをテスト公開中である。テスト版のため表示がおかしいところもあるが、試されるとおもしろいと思う。

●2002年5月18日付け産経新聞によると、鳥取県大山町で計画されていた「志賀直哉記念館」が計画見直しとなったそうだ。「暗夜行路」の舞台となった大山中腹の蓮浄院は傷みが激しくなったため、町が「志賀直哉記念館」として整備を計画していた。しかし記念碑の類は遺言で禁じられているため、遺族から申し入れがあり、「ゆかりの地」という表示をすることのみ了解を得たという記事である(「ichimy」で「文学」をクリッピング)。
2001年10月20日の「おめでたき日々」で「蓮浄院の整備を検討中」と書いており、そのときも他の場所(城崎・奈良・尾道・我孫子)が観光地化してしまっていることに触れたが、私も遺言について形骸化したと思ったのか見過ごしていた。
●「直哉の記念館が存在しないことを不思議に思いながら、その理由を確かめなかったのが原因」とあるが、そんな状態で4,700万円の予算を組むのであるから、先行きは不安である。
●ちなみに、志賀直哉のファンがホームページをつくるのは遺言で禁じられていないはずであるから、どなたか始めてみる方はないだろうか。

●2002年1月20日の「おめでたき日々」で書いた実篤記念館近くのマンション建設だが、「ゼファー仙川 丘の上プロジェクト」として売り出しが始まった。反対派が理由にしていた国分寺崖線の保護を、「豊かな環境」と宣伝するなどさすがにたくましい。最多価格帯が5,000〜6,000万円というのだから、超高嶺の花である。
●案内図を見ると実篤記念館からは少し南に離れた、若葉小学校に隣接する大きな民家を売却して建てられるもののようだ。何度かその屋敷の塀沿いの坂道を歩いたことがある。実篤の家は今では高級住宅街の中にあるのだ。

「芸術新潮」(新潮社)の展覧会情報を毎月見ているが、5月号では実篤記念館の特別展もリストに出ていた(一時、6月号と書きましたが、5月号の誤り)。美術に関する展示だからだろう。5月号には「名宝は茶器のみにあらず 細川護立の迷いなき収集」、4月号には「大正教養主義の目 哲学者・谷川徹三の古美術癖」という記事があったので、要チェック。なお、「芸術新潮」目次情報という公式メールマガジンもある

●今週月曜日に山手線に乗ると、源 吉兆庵銀座店「武者小路実篤展」の中吊り広告が目に飛び込んできた。そこで先日銀座に行く機会があったので、ちょっとのぞいてきた。
●実篤記念館と新しき村美術館が資料を提供しているので、ものとしてはしっかりしている。いい資料が出ている(複製が多いが)ので、実篤の活動を駆け足で見ることはできる。吉兆庵美術館蔵の絵画も3点出品している。2点はよくある色紙だが、「油絵自宅風景」は初見だった。三鷹ではないかと思うが(仙川ではないと思う)自宅と庭の木を描いたものだ。
●「近くに行ったなら寄ってみる」「期間限定に弱い方」「銀座がホームグラウンドの人」向けの催しだろう。わざわざ行かれるのならば、調布まで少し足を伸ばされて実篤記念館まで来られることをおすすめする。
●1、2階が和菓子店、3階が喫茶、4、5階が懐石料理と敷居が高い(展示は6階多目的室)。メインの記念菓子だが、私にはぜいたくすぎるので買ってこなかった。上の階からエレベータで降りてきた紳士が「先行ってて。……“実篤”2つとあと何がいいかな……」と買い求める姿は、「チシアンの絵が鶴巻町に買い物に出るのです」という一節をなぜか突然思い起こさせた。

●「文学界」6月号、関川夏央氏「白樺たちの大正八年」最終回“ものみな「歴史」となる”を読んだ。日向の村の水没、東の村設立、白樺同人の死、杉山正雄・房子の死、そして昨年12月の平林英子の死で文章を閉じている。最後の一文はこうだ。

平林英子を最後に、ひとつの時代精神が八十幾年か前に試みさせた実験の当事者は、すべて鬼籍に入った。かくして「白樺」たちの大正八年は、歴史と化した。

●だが、新しき村には実篤の謦咳に親しく接した渡辺貫二さんがいるし、村も活動を続けている。また平林さんは離村が早く、別に「村」を象徴する存在ではない。源吉兆庵の実篤展で、新しき村が発行している雑誌「新しき村」5月号を買ってきたが(300円)、そこでもいろいろな村の問題点が指摘されている。私はそのような活動体として、今後も「村」を見ていきたい。

「これまでの展覧会」の古いほうのレイアウトを、最近のものに合わせた。
「文庫・新書で読む白樺派」に、「ちくま文庫解説目録2002」の情報を反映した。尾崎喜八/ジョルジュ・デュアメル『わが庭の寓話』がなくなり、ゴーギャン『ノアノア』を追加した。今回も冊子体の目録を参照したが、検索システムにない漫然と書名に目をさらす愉しみがあった。

2002年5月19日

●おととい実篤記念館の特別展「描くということ」を見学してきた。また、昨日講演会も聴講してきた。まずは見学レポートを掲載したので、ご参照いただきたい。講演会のレポートも追って書いてみたい。

東京藝術大学大学美術館では、<洋画>の青春群像 油画の卒業制作と自画像展が開催中だ(4月26日(金)〜6月30日(金))。どんな作品が出ているかホームページを見てみたら、黒田清輝、青木繁からすごい面々がならんでいる。南薫造(1907)や山脇信徳(1910)、柳宗理(1940)や清宮質文(1942)もいる。ホームページでは21点サムネール形式を見ることができるが、柳もその中で見ることができる。どの絵も興味深いが、中でも晩年「仙人」と言われた熊谷守一のキリッとした自画像が印象に残った。この人も実篤と同じで晩年のイメージが強い画家だけに、若い頃の姿はインパクトがある。

●先週の日曜日5月12日には、記念館そばの調布市東部公民館で実篤の「生誕祭」が行われたようだ。今年は誕生日がちょうど日曜日になった。「新しき村」のホームページ(辻田克己さん作成)に載っていた。

●ゲストブックに書き込みもあったが、5月は実篤のうまれ月ということで、「源 吉兆庵」(みなもと きっちょうあん)という和菓子店では実篤にちなんだ和菓子を5月1か月間販売しているそうだ。いくつか店舗があり、現在「武者小路実篤展」を開催している鎌倉文学館の近くにもあるようなので、見学された方は立ち寄られるのも良いかと思う。
●去年は「きんつば」「蒸しまんじゅう」「麦こがしまんじゅう」の詰め合わせと私のメールニュースではなっているが、今年は「麦こがしまんじゅう」と「くず餅」の詰め合わせのようだ。
●また、同店の銀座店6階ギャラリーでは、生誕記念菓子企画展「武者小路実篤展」が開かれいてるそうだ(入場無料)。こちらも5月1ヶ月間の開催で、10時から19時(最終日は16時)まで。

●鎌倉文学館といえば、実篤展を見学した方が感想を書かれたwebページを見かけたが、「かっこいいよね。若い頃とか、同じクラスだったら惚れてたね。」とあったのにはちょっとびっくりした。そうか。かっこいいか>若実篤。(「微炭酸ニッキ」キューさん。2002年05月04日(土)の項参照)(2015年7月6日追記:今見たら、書いているのは山崎ナオコーラさんだった!)

鳥取県立図書館では、2F展示室で「柳宗悦の書と書籍」を開催中である(ホームページの「お知らせ」参照)。会期は5月16日(木)〜6月3日(月)。柳宗悦の書13点と書籍約150点を展示中とのこと。あわせて2Fギャラリーでは、「宗悦・とっとり・吉右衛門」と題して、柳に触発されて「型染」の世界に入った鳥取市出身の岡村吉右衛門の著書や資料を紹介している。

●最新の「サライ」6/6号(小学館)から2題。高村光雲展から作品がいくつか紹介されている。木彫に西洋彫刻の要素をとりいれたと言われるが、光太郎の酷評が頭に残っているせいか、どうしても良いとは思えない。カラー写真のせいだろうか。モノクロだと見え方が変わるのではないかとも思う。もう一つは特集「『柳宗悦の民芸』を旅する」。現在活動している工芸家たちの作品と、柳との関係などが書かれていた。

●「和楽」6月号(小学館)の特集は「ときめく!『李朝』」だ。予約販売の雑誌だが、店頭に見本誌が出ている。「日本民藝館の名品で学ぶ、『李朝』って何?」や同館学芸員の尾久氏によるQ&Aなどもある。民藝館で開催中の特別展へのリンクは控えめ。こういったものを買ったり使ったりというのには縁がないので、食指が動かないが。

「文學界」のwebページによると、関川夏央氏の「白樺たちの大正八年」が今号で完結したようだ。まだ実物は見ていないが、お知らせまで。

2002年5月11日

●今日の夕方開催なので間に合わないと思うが、情報だけ載せておく。
●日本民藝館では、記念演奏会「柳宗悦と日本民藝館」が5月11日(土)18:00〜19:30に行われる。講師は同館館長の柳宗理氏。定員は100名で入館料のみで聴講できるが要予約。

●この情報は、@niftyの「色のフォーラム」美術館情報から得た。このページは永青文庫の情報などもよく載っていて、ちょっと注目。

●展覧会情報を別ファイルに移動した。トップページが大きくなってしまったためだ。合わせて、昔の展覧会情報も少し整理した。網羅的にはできないが、古い情報も少しずつ補足していきたい。

●岡山市の吉備路文学館では「吉備路近代文学の流れ(1) 明治大正編」を開催中である(4月4日(木)〜7月7日(日))。岡山県にゆかりの文学者らが展示されているようだが、近松秋江、薄田泣菫、正宗白鳥というあたりで、まだ木下利玄は登場していない。「今後約1年半をかけ、文学者ら約100人を紹介する」(朝日新聞)そうだから、気長に待とう。
●そのかわり、岸田吟香(劉生の父)は今回登場。県内久米郡旭町の出身だそうだ。
●また、同館のホームページには「吉備路ゆかりの文学者」というページがあり、そこを見ると木下のほかに志賀直哉の名前もある。どういうゆかりだろうか。父・木堂の記念館もあるため、犬養健も当然登場する。このリストも増設中ということだが、それぞれ簡単な紹介と肖像写真などを見ることができる。
●新しいところでは、横溝正史、柴田錬三郎、岩井志麻子というところも入っている。

●岸田吟香をもう少し調べてみたが、出身地の旭町には「旭町文化会館(町立図書館)特別展示室」というのがあった。「『新聞の開祖:岸田吟香』の偉業を伝える」ということで常設されているそうだ。ホームページでもその所蔵品を見ることができる。劉生が育った薬局の看板などもあり興味深い。

●木下利玄では、その生家に関連して「史跡 足守藩主木下家屋形構跡」というページもあった。このあたりは一度整理しないといけないが、見つけたのでリンクだけ張っておく。

2002年5月6日

●実篤記念館で見かけたポスターだが、府中市美術館(東京都)で開かれている「戦前の洋画家たちーそのまなざしと表現」展に、梅原龍三郎の「台湾風景」(1933)が出ているようだ。北京の風景画のような色使いだった。他にも多くの画家の作品が出品されているが、その中に有島生馬の名前もあった。会期は、4月13日(土)〜5月19日(日)。

●実篤のお孫さんの武者小路知行氏はサッカーファンというお話。インターネットを検索していたら、えのきどいちろう公式ページ「ガガンボン日記」の2002年4月26日(金)分で、実篤の名前を見つけた。えのきどいちろうがパーソナリティをつとめるサッカー番組に知行氏がゲストとして登場し、そのときの話題が書かれている。
●知行氏は学生時代はゴールキーパーとしてプレーされ、その後もサッカー日本代表の応援を熱心にされているそうだ。1970年のワールドカップメキシコ大会も、決勝戦を含む3試合を観戦しに行かれているとのこと。そのときの旅費の一部を実篤も援助していたという話も出ていた。「いいおじいちゃんだったのだなぁ」と思いつつ、実篤じしんからは祖父の話題が出た記憶がないことを考えた。
●志賀直哉は祖父の大きな影響力の下で成人していくが、実篤は満2歳で父を亡くし、祖父もその前に亡くなっている。祖母は母をいじめる悪いやつのイメージが強く、甘えたという話もないのではないだろうか。姉も若くして亡くなり、彼が育った家庭というのは苦労ばかりで、あまり楽しい思い出というのも聞こえてこない。
●そんな中で自らがつくる家庭は楽しく、また子どもや孫にはできることはやってやりたい、そんな家庭観が育まれたのではないかと想像する。このあたりは実篤記念館の次の展示「 小説に見る『家族』」(6月15日〜)で見られるのではないかと期待している。志賀のようにたとい衝突するだけであっても、ぶつかるべき父親がいるだけでもありがたいのだと思う。
●なお、武者小路知行氏の観戦記は『サッカー』no.108(1970.8)に「ワールドカップ見学団報告」として載っているようだ。(日本サッカー・ブック・ガイド W杯関係邦文文献目録「第9回メキシコ大会(1970年)-2」による)

●以前「大調和展」のご案内をしたが、創立時には岸田劉生、木村荘八らも客員としてかかわった「春陽会」の公募展も、現在も活動を続けている。今まさに東京展の開催中(4月23日(火)〜5月7日(火)、東京都美術館)だが、その後、名古屋展(5月28日(火)〜6月9日(日))、大阪展(6月11日(火)〜6月16日(日))も予定されている。  創立会員として梅原龍三郎、小杉未醒、山本鼎らが名を連ねているが、その後岸田・梅原らは会を去っている。現在の活動に岸田・梅原のカラーを重ねて見るのは適当ではないが、なつかしい名前であることには変わりはない。活動の詳細や歴史などは、公式ホームページを参照されたい。

●尾崎一雄の「暢気眼鏡」が電子化された(新潮社、ドットブック形式、350円)。「電子文庫パブリ」の中の新潮社のページからたどられたし。

●少し前の話題だが、昨年2001年11月2日(金)広島県尾道市に「おのみち文庫・志賀直哉コーナー」が開設された。「暗夜行路」の初版本や研究書等が展示されていて、手にとって見ることができるそうだ。場所はおのみち文学の館の近くで、金曜、土曜、日曜、祝日のみの開館。情報源は、「ミュージアム・トピックス」2001年11月15日号(さらにそのソースは2001年10月30日付「中国新聞」)と、「尾道ニュース2001」(江戸のばか殿さん作成、「山陽日日新聞」からの転載)

●「早馬」ではご連絡したが、「武者組B」から「絶版になった実篤の文庫本」を「武者組」の「勉強勉強勉強」に移動した。「新潮文庫全作品目録 1914〜2000」というものが出るのは興味深いが、絶版は絶版である。


この年の「おめでたき日々」を読む
これより前の「おめでたき日々」を読む



ホームページへ戻る

(C) KONISHI Satoshi