「スペースまほろば」のトップページ言葉の森

涙が出る


最近はブログでもいろいろな文章を書いています。「心の癒しと意識の目覚めのために」もご覧下さい。

理由もないのに涙が出ることがよくあって、どうしてなのかわからない、とおっしゃる方によくお目にかかります。涙というのは本当の自分と出会う旅を続けていく中でとても大切な意味を持っていますので、ホームページの中の「なーんだそうだったの〜実践ガイド」でも、ところどころで涙について書いていますが、私自身の涙の体験と、涙が出るときにどうしたらいいのか、ということを簡単にまとめてみましょう。

20年ほど前、初めてブレスワークを受けたとき、私は自分のどこにそんなエネルギーがあったのだろうと思うほど泣き続けました。それは一回だけではなく、少なくとも4、5回くらいのセラピーの中で、ただひたすら泣き続けるというプロセスが起こりました。

ブレスワークのときの体験はセラピーを受けている最中に起こるだけの体験だったのですが、その後、内的探究が深まっていくと、日常生活の中でも涙が出て来ることが増えてきました。

内的な旅の最初の頃は、とても辛そうな人を見るだけで、その人の感情が自分のことのように感じられて、悲しみとともに涙が出ることがよくありました。今でもそのときの風景とともにはっきりと覚えているのは、実家に近い福岡県の小倉駅の地下コンコースで、酔っぱらってコンクリートの地面に寝ていた中年男性を見たときです。それまで体験したことのないようなとてつもない悲しみの感情が込み上げ、それとともに涙が溢れてきて、いったい自分に何が起こったのかと、びっくりした記憶があります。

もう少しプロセスが進んで来た頃には、幸せそうなカップルを見ると、なぜだかわからないけれど、涙が溢れてきました。その頃の涙には、悲しみもあるけれど、同時に喜びもある、そんな感覚があったように思います。

最近でも、周期的に、よく涙が出る時期がやってきます。

数年前の父の死の前後から多くなってきたのは、自分や自分の周囲の身近な人の死ぬ場面を想像して、涙が出ること。

それから、これはテレビを見ているときなどに多いのですが、何かを一生懸命にやっている人の姿を見たときや、スポーツなどの決定的な場面、野球でファインプレーが生まれたとき、ホームランを打ったときなどに、突然涙が込み上げてきたりします。

ごく最近では、宇宙に滞在している宇宙飛行士のことを考えていたとき、その、死と隣り合わせの宇宙空間での生活を想像していると、突然涙が溢れてきました。

さて、この「涙」とはいったい何なのでしょうか?

悲しいときや寂しいときに涙が出るのはわかりやすいかもしれません。もっとも、私自身は、20年前に内的探究の道に踏み出す前は、「悲しい」「寂しい」という感情があることを知りませんでした。というよりも、「感情」というものがあることを知らなかった、といっても過言ではないかもしれません。感情を閉じ込めていると、理由もわからず生きることが苦しくなってきますから、癒しのプロセスの第一歩は閉じ込めてきた感情を意識することから始まります。私がブレスワークの中で最初に体験した涙は閉じ込められていた、子供の頃の悲しみや寂しさでした。

一方、子供の頃の悲しみや寂しさがずいぶん癒されてくると、もっと深い部分からやってくる悲しさ、寂しさのようなものがあることにも気づいてきました。それは、人間が人間として生きていることの根源からやってくる悲しさなのでしょう。どんなに幸せな生活を送っているとしても、人はみな独りで生まれてきて、最後には独りで死んでいきます。そういった、実存的な自分を感じとるとき、人は涙を流すのかもしれません。

しかし、その後の涙には、それほどの悲しさや寂しさをともなっていないものも増えています。喜びとともに流れる涙も増えてきました。私の体験の中でわかってきたことは、それが悲しさであれ、寂しさであれ、喜びであれ、それまで閉じ込められて身動き出来なくなっていたエネルギーが流れ始めたときに、涙が出て来る、ということです。それは、激しい涙のときもあれば、内的にはとても深い体験であっても、ただ一筋流れる涙、という感じのときもあります。

涙が流れるときには、それまでほったらかしにされていた自分の一部が自分のもとに戻ってきた、つまり、統合されたときなのだと思います。別の表現をすれば、苦しんでいた古い自分が死んで、新しい自分が生まれてきたとき、とも言えるでしょう。そして、その統合の作業、再生の作業が深まってきたときに、生と死に制限されている人間としての自分を超えた、大きな自分の存在に気づくプロセスが始まっていくように感じます。誰もが心の一番深いところで求め続けている「本当の自分」に気づき始めていくのです。

理屈はどうあれ、涙が出る時に一番大切なことは、それを出るまま、流れるままにしておく、ということです。そんなときには、つい、「どうして涙が出るんだろう」とか「悲しいわけでもないのに、自分はおかしいのではないのだろうか」とか、あれこれ考えて、理由を探そうとしたり、分析しようとしてしまいます。それでは、涙があなたに伝えようとしている大切なメッセージを逃してしまうかもしれません。ただ、ただ、泣くことを許してあげて下さい。状況が許すなら、大きな声をあげて泣いてみて下さい。あなたが癒され、統合され、生まれ変わるとき、宇宙全体が癒され、統合され、生まれ変わっているのです。

【まほろば通信】vol.132掲載2009/06/05)


言葉の森
トップページ
Written by Shinsaku Nakano <shinsaku@mahoroba.ne.jp>
Last Update: 2009/10/02