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■帰ってきた■


静かな世界を書いたあとに思い出して、いっしょに書いておけばよかったなと思った感覚に「家に帰ってきた感覚」というのがありました。初めてそれを感じたのは、大学時代に住んでいたアパートの近くにあったコンビニに買物に行ったときです。

少し余談になりますが、その後は何度も体験して当たり前のようになる感覚であっても、それを初めて体験したときのことはとても印象に残っているものです。そして、それをどんな状況で、どんな場所で体験したのかということをはっきりと覚えていることがよくあります。この文章の中でも、そんなふうに、場所と関連づけられた記憶がこれからいくつが出て来ると思います。

さて、なーんだそうだったの?に書いた体験のあと、なんとか大学に戻りはしたものの、毎日一回研究室に顔を出すのが精一杯だったころのことです。非常に気分が落ち込こんで、誰にも会いたくない、外に出たくない、という感じになることがよくありました。そんな感覚がピークに達したのか、3、4日か、あるいは1週間近くだったかもしれません、アパートの部屋から一歩も外に出なかったことがありました。部屋にある食べ物を少しずつ食べながら、それもなくなってくると、水を飲んでトイレに行く以外はほとんど布団にもぐっているような状態でした。

でも、ある日、ふと思ったのです。「このままでは死ぬ」と。

そう思ったときに、やっと布団から起き出して近くのコンビニに弁当を買いに出かけることができました。コンビニの照明がいつもよりやけに明るく感じるのと同時に、「家に帰ってきた」「自分のいるべき場所に帰ってきた」そんな不思議な感じがしたのです。アパートを出て、コンビニにやって来たときにですよ。

この感覚は今でもときどき、ふっとやってくることがあります。それは、自分の部屋にいるときのこともあるし、道を歩いているときのこともあるし、自分の身体がどこにいるか、とは関係ないようです。

この感覚も、心のおしゃべりが止まることと関係が深いような気がします。

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Written by Shinsaku Nakano <shinsaku@mahoroba.ne.jp>
Last Update: 2005/11/27