脚本ができるまで.その3


事前交渉
 前項で「仕事の依頼はプロデューサーからの電話で」と書きましたが、これはあくまでも「形の上では」ということ。
 いや実際に「プロデューサーからの電話」が仕事の始まり、ということもあるんですが、半分ぐらい(かな?人によって違うと思うけど…)は前触れというか伏線というか……要するに「事前交渉」みたいなのがあったりします。
 具体的にどういうものがあるか書いてみましょう。

 一番多いのは「脚本家仲間からの電話」ではないかと思います。
 知り合いの脚本家から、
「今度、○○という作品をやるんだけど、手伝ってくれない?」
 という電話がかかってくるわけです。
 この場合、たいてい電話をかけてきた人がシリーズ構成です。
 自分がシリーズ構成を担当する番組に、一ライターとして参加してくれ、ということなのです。
 ここで、
「うん、いいよ」
 と答えると、シリーズ構成氏はプロデューサーに連絡し、改めて「正式な依頼の電話」がプロデューサーからかかってくるわけです。

 次によくあるのが、新番組が現行の番組とほとんど同じスタッフで作られる場合で、「前番組の打ち合わせの時に何気なく依頼される」というもの。
「次、こんな番組やるんだけど……大丈夫だよね?」
「はい」
 この場合は、改めて電話がかかってくることはないと思いますが……一人でも新番組に参加しない人がいる場合は、こっそりと打診があった後、正式に電話がかかってきますね。

 道(あるいは喫茶店とか駅とか)でばったり会って、その場で打診、というのも、珍しくないようです。
 私も少々、面白い(?)依頼のされ方を経験した事があります。

 その日、私は新宿某所でパソコン通信のオフに参加しておりました。
 そこに知り合いの脚本家が乱入(^^;)してきたのです。
「今度、こんな作品をやるんだけど」
 いきなりそんな所で仕事の打診(^^;)。
 正直、声をかけていただいた事は非常に嬉しかったです。
 仕事の中身も興味ひかれるもので、本来なら、
「やります!」
 と即答したかったところだったんですが……
 一つだけ、懸念がありました。
 当時私は、他にいくつかテレビシリーズを抱えていたのです。
 物理的に、その仕事をやる時間が取れるかどうかわからない、ということ。
 それが最大にして唯一の懸念でした。
『引き受けるべきか、断るべきか……でも断りたくない……ああどうしよう』
 私が迷っているうちに、オフはお開きの時間となりました。
 そして参加者の一部はそのまま徹夜麻雀へと雪崩れ込んだのです(^^;)。
 私とその脚本家も卓を囲むこととなりました。
 そして……私はボロ負けしたのです。
 夜明けのマクドナルドで、私はまた声をかけられました。
「この作品、やるよね?」
「……はい」
 これが私が『南海奇皇』を引き受けた瞬間でした。
 知り合いの脚本家の名前は會川昇氏。
 考えてみれば……。
 オフに参加して、徹マンをやってるぐらいだから、それほど忙しくなかった、
ということですよね(^^;)。
 悩むことはなかったのかも。

 新人がデビューする場合は、自分の師匠から打診があります。
「こういう番組があるんだが、やってみるか?」
 と電話なり、直接会った時なりに言われるわけです。
 そこで、
「やります!」
 と答えると、脚本家への道が開かれるわけです。
 ただ、その道をきちんと歩いていけるかどうかは、当人の努力次第ですね。(つづく)


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