理想と現実
「くそったれが!!」
怨嗟の声が密林のジャングルにこだまする。
確かにこの間の休暇で京都に行って引いたおみくじは凶だった。
最近愛車が壊れた。
今朝靴紐が切れかけてた。
最近教会に行ってない。
懺悔する事も溜まってたのに・・・・。
ともかくその出足は、運落としと不幸な予感としか言いようが無い見事なロケーションといえるだろう。
そしてその極め付けがこの状況だ。
さっきから自分の小隊を追っかけまわしている敵共は、こっちが少数だと言うこと知ってか、随分派手な物音を立てながら追ってくる。
こちとら撤退中にブービートラップを仕掛ける暇も無いほどのご盛況ぶりだ。
何よりもこの状況を作り出した張本人が味方だと言うのが腹が立つ。
回り込んできた敵に、5.56ミリ弾を叩き込みながら、悪態をつき続ける事だけは止めはしなかった。
こんな時に皆何を考えるものやら非常に興味があったのだが、それも今日限りだ。
はっきり言えばこんな時には余計なことは考えたくも無い。
早いところLZ(ランディングゾーン)まで撤退し、味方にピックアップしてもらいたいところだ。

現在思い出せる限りで、現状を把握してみると以下の如し。
私が今戦っている戦場は、密林のジャングルだというのは先ほど述べた。
任務は新兵器の実験及び爆撃機の爆撃支援及び、その戦果確認を行うロードランナー。
現在、新機材の実地テストで、機材がとんでもない動作不良を起こしたばかりか、これが原因で敵に位置を知られ、周囲を敵に包囲されつつあり、必死の撤退中だ。
今回の任務では自分のチームのみで戦場に来ており、現在自分を含めて3名。
擦り傷切り傷さえ考えなければ負傷者はおらず、戦闘も可能だ。
しかし現在わかっているだけでも常時20ないし30人前後の敵に追いまわされている。
もともと新規機材のテストも兼ねていた訳だから、いつもより荷物がかさばる。
自分達がそれまで背負っていた通常の荷物はM72ロケットランチャーやクレイモア地雷、予備弾薬や地図等足跡として残りそうなものを除き既に放棄。
放棄した荷物は何とか地面に埋めたが、発見される可能性は100パーセントにもう100パーセント足してやってもお釣りが来るだろう。
まぁそのお釣り分は、荷物の中のちょっと細工した手榴弾及びC4が応えてくれると思う。
無線手は先程からFACに現状を報告し、味方の支援を要請中だ。
騎兵隊が到着するには今しばらくかかるだろう。

以上だ。
その間、ともかく逃げ切らなくてはならない。
無線手がFACに確認した情報によると、この先に小高い丘があるということだ。
そこまで逃げ切ればピックアップ可能な地形になるらしい。
但しそこまでは騎兵隊も誤爆の可能性があるとかで、航空支援は行われないそうだ。
それでも構わないとは言ったものの、どうやら上層部か技術屋連中は機材に御執心らしく、壊す可能性がある要因はすべて排除したいらしい。
そんなものはこっちが生き残ったら考えて欲しいものだ。
ここで我々が全滅してしまえばその新機材とやら言うものも永遠に失われることにまるで気付いていないらしい。
FACで確認したという丘に登り始める。
割と急な丘で、岩肌が剥き出しの状態だが逆に敵が上ってくるのを発見しやすく、限られた装備を有効に使えそうだ。
敵もそんな状況に気付いたのだろうか、それとも空中で旋回しているFACのブロンコに気付いたのだろうか。
航空攻撃を避ける為に、ジャングルに身を隠しているらしい。
小隊全員が、はぁっと息を吐く。
私はふとこのくそ忌々しい新機材のスペックを誇らしげに語る技術屋の話をふと思い出した。

従来までの機材に比べ優秀。
これまでの実験は順調に消化され、実戦データを収集するのみで、信頼性は折り紙つきだ。

細かい自慢話は忘れたが、この作戦から帰ったらあの技術屋、絶対に吊るし上げてやる。
一体どこで信頼性なんかテストしたんだ?
実験室の鳥篭か?
あんなお綺麗な所で実験して故障しないなんてのは当たり前だ、屋外実験はしたのか?
こっちが聞き及んだ話では、まともに動作しなかったと聞いたぞ。
屋外試験の代わりに、いきなり実戦に持ってきたんじゃないだろうな?
ハナから動作に不安のある物がそちらの理想通りに動く訳無いだろうが!現実はこっちが殺されそうな状況だぞ!
こんな試験は俺達じゃなくて、他所でやってくれ。
バックアップもサポートも受け易い一般部隊なら、すぐデータの吸い上げも出来るってもんだ。
こっちはタイトな時間制限、おまけに大きな失敗一つやらかせば、チーム全体が即MIAになるか戦死広報に名を連ねることになるんだ。
ああ、戦死広報に名前が載るならまだマシだ。
少なくとも誰かが死体を見つけてくれたということだからな。

突如、空から風を切る音が響いてくる。
「全員伏せろ、攻撃だ!!」
聞くが早いか部下は地面に身を投げ出した。
爆発と爆風が届いてくる。
奴らいつの間に迫撃砲まで用意したんだ?
とにかくまだ耳鳴りの止まない頭を起こすと、下側から敵が登り始めている姿が見て取れた。
「総員戦闘準備!」
そして本格的な戦闘の火蓋は切って落とされた。
現在の兵力では明らかに敵を追い返すことは出来ないと思われる。
FACからやっと航空支援が来るという連絡が入った。
FACも弾があるうちは戦闘に参加してくれるらしい。
果たして騎兵隊到着まで我々が耐えられるか、こればかりは神のみぞ知るというやつか・・・・。

という話が書ける位、安定してないです。
リプレース後のネットワーク。



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