新版「北へ。」
「でね、その弟君の修学旅行って北海道なんだって。」
ほほう、ほう。
電話の向こうから聞こえてきた声に私は相槌を打つ。
「私の時は九州だったし、雲仙は噴火してたし、ハウステンボスは開園一年前だし、あんまり見所なかったなぁ。」
元々同じ高校時代の後輩であるところの相手は電話口で自分の修学旅行を振り返っている。
「そういえば、城司兄(にぃ)の時って韓国だったでしょ、いいなぁ。」
そうなのだ。
私の高校時代の修学旅行は、我が母校で一回だけ実施された外遊だったのだ。
その後の後輩達の修学旅行で外遊したと言う話は、今のところ聞いた事が無い。
後にそれを聞いた私は、色々憶測を並べてみたのだが、考えられるところは一つだけである。
交流会として、現地の高校に訪問すると言う予定があったのだが、向こうは男子校だったのである。
そして我が校は共学校にありながら、その男女比が約3対1という、男余りな学校である。
野郎が野郎に話し掛ける可能性は非常に低い反面、数少ない女生徒に人気が集中してしまい、交流と言うより国際ねるとん状態になったためと睨んでいる。
ああ、何故あの時気転を利かせて、
「おおっとぉ、まさにぃ、だ〜いどんでん返し!」
とか、
「ちょっと待ったコールだぁ!」
とか、何故ナイスなトーキンをかませなかったのか、自分の当時の笑いのセンスの未成熟さに猛省をしてしまう今日この頃な訳である。
まぁ、この辺の話はいずれどこかで機会を設けてネタにしようと思うのだが、今回の話の趣旨はそうではないので、ばっさりと割愛させて頂く。
「でね、その旅行のしおりを見せてもらって、もらったんだけど、弟君とは別の班で"ラベンダー畑で青春"って書いてあったんだよー。」
・・・・・・・・、らべんだぁばたけでせいしゅん?
聞けばその子の高校は男子校である。
男子校生徒が(恐らく)富良野のラベンダー畑で青春すると言うのだ。
さて、その光景を想像してみよう。

其の壱、花も恥らう男子高生が、ラベンダー畑で花を摘み、学友達とシートを敷いて語らう姿。

・・・・・・・、駄目だ。

其の弐、練習に励む男子高生がランニングしながらやってくる、目標は秋の大会だ(何の?)、そして教師が草原に広がるラベンダー畑を指差しながら、こう言うのである。
「れっつ、びぎん!!」

・・・・・・・、いつの時代の青春ドラマだ、それは。

其の参、練習に励む男子高生がランニングしながらやってくる、目標は花園ラグビー場、そしてチーム全員が草原に広がるラベンダーに向かい、今はもう亡き友人の名を叫ぶのだ。
「いそっぷー!!」

ああ、懐かしいなぁ・・・・・。
当然、電話の向こうにいる話し相手に、私のそんな思考が伝わる訳も無い。
私は瞬時に思い浮かんだ数々の"ラベンダー畑で青春"する、男子高生を早々に放棄し、こう答えた。
「多分、現地で知り合った女子高生とかナンパして、青春の一ページに刻み込もうと言うことだろう。」
おお、無難だ。
結構普通のことも考えられるではないか、俺。
で、なんでこんなある意味無茶なコース選択とタイトルが決定したかと言えば、何でも三泊四日の殆どが自由行動となっている為らしい。
「他にどんなところに行くって?」
私はふと気になって聞いてみることにした。
こう見えても行った事が無いくせに、妙に北海道観光系には明るい私である。
「えーと、オルゴール博物館に行くって言ってたよ。」
・・・・・、鮎攻略時だな。←攻略って?
「するってーと、小樽運河にガラス工藝館なんかも入ってるんではなかろうな?」
・・・・・・金デコさんおるし。←居ません
「あ、そういえばあった。他にもススキノとか、ラーメン横丁とかもあったよ。」
・・・・・、潰れそうなラーメン屋には、やさぐれ気味な眼帯少女が・・・・・。←お気に入りDEATH
ま、まさか北海道大学を探そうなんて豪気なことは、流石に言わんだろうな。
とか一瞬不安に襲われるが、摩周湖やらなんやらには行かないと言う話だ。
ほっ。←なぜ安堵する。
但しここまで話を聞いて確認しない手は無いだろう。

「まさかさ、」

「ハイ?」

「その学友達の中に、DCで"北へ。"をやってるヤツは居らんだろうな?」

「そこまでは訊いてないけど。」

「あ、いや別に気にするこたぁない。」

その弟君たちの友人一同にはどんな青春を送ったか是非とも話を聞いて貰いたい訳だが、まさか帰りのお土産はロイズの生チョコじゃないだろうなと、一抹の不安を拭いきれない自分が、ちょっとだけ可笑しい今日この頃である。



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