第一章「姉さん、事件です」
朝、いつも通りに車に乗り込み、キーを捻った私はついでに自分の首も捻ることになる。
「あれ?」
そうなのだ。
車のセルモーターが回転しようとして挫折するのだ。
二度三度、そしてこれが五回を越えた辺りで不安は一気にピークに達する。
いわゆる一つの
「駄目だこりゃ!」
である。
親にブーストさせてもらったり何だりしたのだが、結局目を覚ます事無く106は沈黙するのである。
そしてこの事件は、後に大事件に発展する序章になったのであった。
第二章「じっちゃんの名にかけて!」
さて車のバッテリーはどうやら本格的に死亡したことが判明した。
私は会社からディーラーに電話をかけ、バッテリ交換を頼んだ訳だが、
「忙しくて人がまわせない、バッテリ使える状態にして渡すから自分でやって」
と言う反応。
まぁ電池を積み替えるだけの話なのでそれほど心配はしていなかった事と、私にとって車と言う移動手段は欠くことのできないアイテムである為、一刻も早い対処が必要だったのだ。
そんな訳で夜、帰宅後にバッテリを積み替える。
さて、積みおわったところでキーを捻ると・・・・・・・、
沈黙したままである。
しかもそれまで点いていたルームランプを始め、ホーンや集中ロックシステムが完全に沈黙し、それまでの状態から更にひどい状況になる。
何だ?
一体何なんだ?!
俺が一体何をしたぁ?!!
(何もしてないからこうなったと言うのはこの際却下です)
ともかくヒューズ等の最低限のチェックは行ってみたのだが、にんともかんともいかず、この謎はきっと解いてやると心に誓ったものの目には見えない電装系。
解決されずに終わるのは既に自明の理といっても差し支えはなかろうて・・・・・・。
第三章「非常に・・・キビシー!」
その後、四方手を尽くすが車は以前沈黙したまま復活の狼煙を上げられず、結局ディーラーに回収してもらい、修理と相成った。
修理に引き取られていった車を心配し、病状を確認するが、今もって原因は不明のまま。
時間ばかりが無常に過ぎ去るのを指先を咥えてみているしかない自分を、果たしてどんな気持ちで見つめていいやら悩みつづける私であった。
この時点で既に丸一週間親に送り迎えをしてもらっている私は、良心の呵責に耐え切れなくなりつつある。
車が治ってくれるなら悪魔に寿命の5年も差し上げてよろしいかと思ったのだが、悪魔もそれほど暇ではなかったらしく、その姿を現すことは無かったのである。
何よりも車のハンドルを握れないこの不満には、あまり長い事耐えられそうには無かったというのも事実である。
第四章「悪魔が来たりて・・・・」
そんなある日のことである。
夜勤をしている化けから電話がかかってきた。
今回の一件でずいぶん迷惑をかけていることもあって、ずいぶん感謝しているというのはここだけの秘密にしておこう。
そして化けはこう云った。
「新しい車を買わんか」
ええっ?!
「だって思い入れとかは抜きにして、純粋に考えれば今後の維持費ってかなりかかるとみていいだろう。
だったら素直に買い換えたほうがかえって維持費も安いし(豆知識=Peugeotは新車だと二年の無償保証が付く)、今使ってる車もいい加減ガタが来てるのは否めんだろ。
しかも現在歴史的な価値がある訳でもないんだし、元車屋としてはこれまでの航続距離と考え合わせて今の車に乗り続けるのは得策ではないぞ。
なぁ、もう"はちまんきろ"も走ってるんだし、充分じゃないか。今だったらまだ下取りも高いし、ここらでいっちょ買い換えてみんか?
いいぞぅ、今度は完全な新車から馴らしまでできるんだぞ。」
と、一気にまくられる。
ヤバイ、云ってる事は客観的には正論だし、こっちは逆に反論の余地が無い・・・。
「どうだ、この際もう一台106を買ってみちゃあ」
「ぶぅわっか野郎!どっからそんな金が出るんだ!!」
「だって106って下取り結構高いらしいぞ。
今残ってるローンを一括返済しても多分車両本体価格だけでローンが組めるぞ。
しかも審査はちょっと厳しいが、銀行に金を借りれば他のオートローンより利率は安いし、まぁ後ちょっとローンが伸びるだけじゃないか。
しかも銀行で金を借りれば、ディーラーには一括払いだし、これでどんなメリットがあると思う?
車検証の名前がディーラーの名前じゃなくて、自分の名前が入るんだぞ。
これは実に気持ちが良いぞ?
一体何を迷う必要がある。ついでに言っておくが206にシェアを喰われてるから、ブルーライオンでも106の正規輸入は止めるらしいぞ。さぁどうする?」
い、一気にまくしたてないでくれぇ・・・・。
「思い切って206ってのはどうだ?」
「それだけは、イヤ!」
「じゃ306」
「お前さんとTAZO氏で既に二人も居るじゃないか」
「じゃ406セダン」
※500万円超えます
「シメるぞテメェ」
「じゃ君今度ルノーなんかどう?メガーヌとか」
「は?」
「え〜、ちょっと待てよ・・・、あ、メガーヌってオートマしか無いじゃん」
「却下」←(既にペースにはまっていることに気が付いてない)
「じゃプント」
「アネキが乗ってるし、箱型嫌い」
「じゃ何に乗りたいの?」
「ルノーだったらバルケッタ」
「300万するぞ」
「えう、きゃ、却下」
「じゃやっぱり106だな」
「だってルシファーレッドってもう無いんだもん」
「やかんしい、だったら黄色なんてどうだ?小型で身が引き締まってるとかっこいいぞ」
「だったら黒かブルーでぇ・・・」
「ブルー?随分無難な色を選ぶな、お前」
「だって黒って絶対ケンカ売られるし、俺はそんな世知辛い状況はイヤだぞ」
「まぁ、今度ディーラーに相談しに行こう。
買った店で買い替えだったら、下取りもイロが付くしな」
「う゜〜、判った」
そんなこんなで見積もってもらいに行くことが半ば確定してしまった私。
耳元で囁きつづけた悪魔(化け)。
心が弱くなった人間はここまで堕ちてしまいやすい物なのだろうか。
これを読んでいる皆様、決して悪魔に負けてはいけません。
落ち込んだときこそ強い心を持ちましょう。
ところで今注文すると納車は何時だ?