年度末
既に3月も終わろうかという季節がやってきた。
このシーズンは何かと大変だ。
毎年この季節がやってくると、頭の中では、

「春が来たなぁ・・・・」

と、のんびり思う事になるのである。
日の本では、新年度は4月と共にやってくる。
ネットワーク管理をやっている私が、春を一番実感できるのは、ネットワークの新規ユーザ登録を行っているときだ。
その殆どが4月1日からの利用開始で、ほぼ300人から400人近いユーザを登録することになる。
この他移動、退職、昇進(中にはひょっとすると左遷も含めて)、ユーザ情報の更新や削除等も含めると、相当な作業量になるのである。
ともかく周囲も含めて、全体的に忙しくなるのは、年度末たる3月の宿命であるともいえよう。
ざっと目の届く範囲を眺めてみても、今年はサーバも含むネットワーク機器の全面リプレースと被ってしまっており、ヘルプで来て貰った新人クンにも相当な負荷がかかっているし、機器導入に関連してグループのリーダーはそっちにかかりきりになっている。
おかげでリーダーが行っていた作業は、私に皺寄せがきてしまい、みんながみんな大忙しなのである。
お客からの相談、クライアントマシンのサポート、週次の運用報告、月次の運用月報作成など、予備知識無しにいきなり作れといわれても困ってしまうのも事実である。

そんな時である。
週末に予定している、削除ユーザの中に彼女の名前を見つけた。

「あれ?」

思わずそんな声が出てしまい、ふとため息も漏れる。
彼女とはここで出会った。
当時私は新人のひよっこであり、この職場のネットワーク環境もまだ把握しきれてはいなかった。
故に主だった対応はユーザのクライアントPCの障害の中でも、Windowsまわりの問題に関わることが多く、結果として職場を上や下へと動き回る日々だったものである。
ユーザと直接やり取りをしながら仕事をこなしていた訳だが、彼女の居た部署では、クライアントの障害は彼女経由で送られてくる為、必然的に顔見知りとなった。
初めて出会った時、彼女はパソコンについては全くの素人であり、私も訪ねる度に、

「もっとパソコンに詳しい人が運用担当者になれば、今の負荷の半分になるだろうに・・・」

と、散々愚痴をこぼしていたものだ。
一般の会社でLANなど組んだときは、大抵面倒を避けんが為、新人にその仕事を押し付ける傾向があり、ここの職場もご多分に漏れず当時新人だった彼女に全てを押し付けた形になったのだろうと思われる。
とにかく彼女は私達、運用管理の人間に、障害の連絡をしてきた時は恐縮しまくっていた覚えがある。
彼女自身の中では恐らく

「何で私がこんな目に・・・・」

とか思うことも多かったのではないかと思う。
しかし、その恐縮する姿を見て、時々現れる横柄なユーザと見比べて、ずっと好感を持ったのは偽りようの無い事実である。

会話をするようになったきっかけは、やはり障害の対応中のことだった。
知ってる人は知ってるかと思うが、私はともかく話し好きなのが災いし、会話の無い状況というのが苦手なのだ。
最初はほんのくだらない話だったと思う。
どんな話だったか覚えていないくらいだ。
そうしてお互いの話をするようになって、お互い新人であり、共に頑張ろうみたいな話を話をする頃には、一種の連帯感みたいなものが生まれていた。
そうこうしている内に食事に誘ったり、語り合ったりと、一見カップルのように見える関係になっていた。
だが・・・・、なのである。
これだけ近い仲になっても、私はたった一言が言えずに、過ごしていた。
ひょっとしたら、その最後の確認が怖かったのかもしれない。
心地良い環境に、このままでも良いかもしれない・・・・、とか考えていたのも事実だろう。
そのままの関係で居続けたバチは、その後きちんと回ってきた。
彼女の結婚である。
その頃には私も直接ユーザのもとに行く機会が減り、二人で会う機会も自動的に減った。
今では電話でサポートすれば終わるような事以外では、彼女と話をすることは無くなった。
そして彼女はこの職場から去る。
こういう感情に不慣れな私は何も言う勇気は無く、それに翻弄されつつそのままここに残る。
仕事は日増しに忙しくなり、こういった感傷に浸る余裕も無く、それを救いに日々を送る。
そして様々な想いを巻き込みながら、嵐と桜前線と共に春はやってくるのだ。



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