「いらっしゃいませぇ！！」

スタンド特有のイントネーションで迎えられた。
私は案内で給油スペースまで車を移動させ、窓を開けながら、

「ハイオク満タン、現金で」

と車のキーと、現金会員カードをにーちゃんに渡した。
ここでマイカーを持つ人の一部は、きっと首を首を捻るだろう。
最近では大多数の車が、車内から給油口の外蓋が開けることができる為、鍵を渡すことが殆どありえないからだ。
未だに長距離に出掛けた時など、途中スタンドに寄った際、バイトのおねーちゃんが

「？」

みたいな顔をするばかりか実際給油口を開いた時に、おろおろする姿を見ることができる。
さて、何故おねーちゃんはおろおろしているのだろうか？
そういう意味では、私の車は非常に特殊なのかと首を捻ってしまうのだが、実は私の車の給油口は、内蓋と外装が一緒になっており、鍵を突っ込んで引っ張ると、給油口の蓋が外装と共に丸ごと外れるのである。
私が普段使っているこのスタンドでは既にそういった姿は昼勤のおねーちゃん位でしかお目にかかれなくなったなったばかりか、Peugeot106に乗ってる人間が私の知ってる限り木更津君津界隈で私一人しかいないという事実を踏まえ、スタンドのにーちゃん方には私の面を含めて分かってるらしい。
慌てる姿を殆ど見なくなったのは少々寂しい限りであるが、これはこれで安心感もあったりする。
やはり、車を分かってくれている人間に任せるのは良いものである。

給油中行われる活動には、
灰皿清掃
窓拭き
の二種類が実施する店舗が多い。
ここで車を給油している私にも、そのサービスは等しく行われる。
綺麗になった灰皿を返してもらうと、にーちゃんは窓の清掃に入った。
この時、一人はどうやら新人だったらしく、いまいち動きにメリハリが無い。
そして最近私の車のワイパーには、ブレードのゴムを直接ガラスに貼り付けないようにする為、足が付けてあるのである。
外車乗りの御仁なら知ってる人も多かろうが、向こう製のワイパーのブレードは、ゴムが硬い所為かそれとも質の問題か、非常に短命である。
例年ならほぼ毎年ゴムの張替えを行うというくらいだ。
まぁ、純正ならば一本500円程度でリアも合わせて計3本なので、1500円ちょいの出費で新品になるのだからあまり気にはならないはずだが、化けが黄色い帽子にてそんなアイテムを探していたのに付き合った挙句、結局アームの肉厚が厚すぎて付けられなかった所為で、私のところに転がり込んできてしまったのが原因で、現在私の車に取り付けてあるのだ。
そんなオプションに少々戸惑いを隠せない、新人クン。
なんとかフロントの窓を拭き終わり、サイドを拭いてリアに回ったときである。

「センパ〜イ！」

この日のスタンドは丁度私しか給油に入っておらず、新人とその先輩の二人がかりで給油が行われていたのである。
この呼びかけに反応し、その先輩とやらがリアにまわっていくと、私もルームミラーで状況の確認を始めた。
新人クンは、私のリアのワイパーを指差し、

「こっちに（ワイパーを浮かせてる）部品が無いみたいなんですけど・・・・」

という声とワイパーを指差す様子が目に入った。
当然である。
私も取り付けた覚えが無い。
するとどうであろう、その先輩といわれていたにーちゃんは、事も無げに言ったのである。

「外車には、こういったのも有るんだよ」

・・・・・・・・・・・・。
えﾞ〜〜〜〜〜〜っ！！？
俺、それ、知らんかったんとってんちんとんしゃん！！
いや、ともかく落ち着け、俺！！
新人のにーちゃんは、

「そうなんですかぁ」

と納得したご様子である。
いや、そこで納得されてもオイラの混乱は増すばかりなんだけど・・・・・・。
かくして新人のにーちゃんは、今後、

外車にはワイパーに足が付いているものがあり、リアにそれが無いときがある。

という誤った知識をもつことになったと思われる。
スタンドのにーちゃんはえてして車好きが多いし、化けがこのワイパーの足を買った黄色い帽子は、このスタンドから直線距離100メートル以内だ。
この新人のにーちゃんが、そこでこの部品を見つけてしまったとき、彼の心の中に一体どんな思いが流れることであろう。
私は彼の今後を心配して、三日ぐらいは止まないと思われる。

処で、先輩と言われたにーちゃん。
あなたは何処でその知識を仕入れてきたんでしょうか？
ひょっとしてオイラの方が間違ってるんだろうか？
な、なんか無性に気になってきた・・・・・・・。