役回り

第一章、京葉線通勤快速とは
諸兄もご存知かと思うが、
(この際知らない人はいい機会なので覚えておきませう)
京葉線通勤快速電車という電車が走っている。
この電車の主たる目的は、千葉県内から東京へ出勤する人々の足となるべく運転されている車両だ。
そのため、通常の快速電車で事足りるような京葉線沿線利用者の事は考慮されておらず、東京、八丁堀を除けば、京葉線内で停車する駅は始発駅蘇我駅のみの停車となる。
この電車は外房側と内房側それぞれから発車していて、私が利用しているのは内房側の通勤快速である。
内房線側の始発駅、君津駅を始発駅として構えており、内房線快速電車停車駅、
木更津、
長浦、
姉ヶ崎、
五井、
八幡宿、
蘇我まで停車した後で、京葉線の線路へ合流している。
蘇我から一歩京葉線内に入ってしまえば、残る停車駅は、
八丁堀、
東京だけである。
この路線は観光スポットに良く停まる事でも有名である。
舞浜駅を一歩降りれば目の前はアメリカネズミのテーマパーク(今は違う呼び方だっけ?)を構え、海浜幕張駅を一歩降りれば、幕張メッセがあるのである。
もう少し南へ下れば稲毛海岸。
こうした各駅を無視して一路東京を目指す訳だから、"通勤快速"と言う名前はやはり伊達ではないと言う事である。
さて、この通勤快速電車。
当然一日の労働を終え、夕方になると再び下り線にて運行される。
今度は京葉線内各駅をすっ飛ばして、蘇我まで止まる事は無い。
こんな時に不幸は突然やってくる事があるのだ。
しかもこの不幸を告げるのは、大抵持ちまわりくさく、今回は私にその役回りがまわってきてしまったようである。
時は6月も終わろうと言う時期、私はいつもより早く職場を離れ、帰宅の途についた。
この電車は18:22に運行されている京葉線経由外房線、勝浦行きである。
内房線利用者たる私には、外房行きは電車を間違えているように思えるが、蘇我で内房線各駅停車、館山行きとの連結がある為、結構重宝するのだ。
電車に乗り込むと、私はドア付近の壁に寄りかかり、蘇我までの到着を待つ事となった。
私を取り囲むように5人の女の子が立って、仲良く話していたが、彼女達が今回の悲劇のキャロラインヒロインになろうとは、この時まだ予想し得なかったのである。
定刻通り電車は八丁堀駅を出て行く。
次の停車駅は・・・・・蘇我。

第二章、悲劇のヒロイン達
電車は進む、どんどん進む、彼女達も話に華が咲く、それを横目に私も、
「今日は楽しい事があったんだろうなぁ」
とか、ちょっと羨ましい気分になる。
普段の快速ならば停まる駅たる新木場を通過した。
普通の快速ならば次は舞浜である。
が、前述の通り、通勤快速電車はその特異な電車である。
京葉線内は殆ど無視、仏恥義理(ぶっちぎり)である。
舞浜駅を通過した頃になり、俄かに周囲が賑やかになってきた。
私は何事だろうとそれまで耳につけていたヘッドフォンを片耳だけ外す。
聞こえてきたのは先程の女の子達の声。

「ねぇ、舞浜通過しちゃったよ」
「次ってどこに停まるのかなぁ」

とまぁ、こんな台詞である。
キュッピ〜ン☆
ああ、何度この光景を見てきた事だろう。
そして多くの不幸を見てきた事だろう。
古くは小学生の女の子。
あるときは遊びに来たと思われるおねーさん。
とある時はおっさん。
数々の人々の悲劇を見てきた私に、とうとう死刑にも近い宣告をしなければならない日がやってきてしまったようである。
いつの日かと恐れていた。
いつの日かと夢見ていた。
(中略)
さらば愛しき日々よ、もう戻れない、もう帰れない
(いい加減しつこいので削除)
私は彼女達に衝撃を与えまいと、なるたけ笑顔で一言言った。

「この電車、蘇我まで止まりませんよ」
「「「「えぇっ?!!!」」」」

そうなのだ、
彼女達はアメリカの国民的ネズミパラパラダンスを見んが為、中央線沿線のとあるところから出てきたようなのである。
この催しは、6月一杯まで行われていたのだが、もうすぐ終わると言う訳で急いで見に来たようである。
この時の18:30である。
私は脳内回路に多大な負荷をかけながら、憔悴とも、いっちゃってる精神状態でナチュラルハイになってしまい、更に賑やかになっちゃった彼女達を横目で見つつ、実際に彼女達がアメリカネズミのテーマパークに到着するまでの時間を試算してみた。

八丁堀発車が18:22である。
この電車は約30分で蘇我に到着する。
この時点で蘇我着は大抵18:50だ。
そこからホームを一つ移動して再び京葉線上り電車に乗車する。
快速だった場合これまた再び30分程だ。
駅で電車待ちをして、舞浜駅からテーマパーク入り口に到着するまでのもろもろの時間を考慮すると、19:30到着であろう。
イベントそのものが何時まで行われているのか、更々興味の無い私としてはあまり関係ないのだが、結構微妙な時間っぽいよね?
既に始まってるかもしれないし、開園が何時までかも知らないし。

中でも一番残念でならなかったのは女の子と話が盛り上がらなかった事だろう。
普段ならば、こうした女の子と話をするのは、この役回りに携わった者の特権だと言うのに・・・。
そりゃ何故かって?
花も恥らう乙女の事は、相手が花だけに言わぬが華って言うでしょ(笑)。

2000年7月27日



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