笑う女

女が笑っていた。
理由は今もってわからない。
ともかく笑っていた。

事の発端は愛用の地下鉄に乗り込む時に、ちょうど発車寸前だったので、
最後尾の車両に乗り込んだことに端を発する。
いつもなら、降りる駅でエスカレータに近い乗り場から乗車するのが常だが、
この日はちょっといつもと違う行動をしていた事になる。
さて、一駅目を無事出発し、次の駅に電車が滑り込んだときである。
女が一人乗ってきたのだった・・・・。
なにか一瞬目が合った気がする。
私の思い違いだろうか?
それにしても、口元が緩んでいるのは気のせいだろうか?
なんか人と目が合った直後から笑ってるような気がするのは、気のせいだろうか?
っつーか、一緒に乗って来たおっさんも、
なぜ笑っているのか理由が分からなくて、はっきり言って不審げにこっちを見ている。
やめろおっさん、私は何にもやってない・・・・・・、と思う。

この女は一瞬にして私をパニックに陥れた。
なんか私やったのか?
どーして私を笑いながら盗み見るような行為を繰り返すのだ?
言っておくが、私は自分の格好がそんなにおかしいとは思えないぞ?
いつもと違うところがあるとすれば、最近散髪に行ったので、頭の両サイドの髪が、
一度寝癖がつくと、一日中直らないから、頭にタオルを巻くぐらいだ。
結果としてオールバックになってしまい、
おっさん臭さに磨きがかかることぐらいだと思うぞ。
それとも愛用のヘッドフォンがそんなにおかしいのか?
それとも他になんかあるのか?
人目をはばかりながら、ズボンのチャックまで確認しようとしたが、
考えてみればコートを着ているのである。
チャックが見えよう訳が無い。
俺本人が通常の規格から外れているのか?
そりゃ、
一般人で〜す!
なんて、口が裂けたら言えないし、
つい先日Y女史に
終わってる君
などと呼ばれるし、あまつさえ、
ツラの皮の厚さお腹の脂肪と一緒
とまで言われたのは記憶に新しいところであるが、
なんだ?
一体何なんだ?
私が何かやったのか?
本当に私は何かやってしまったのか?
分からないまま、電車は目的地に到着してしまった。
しかも降りる駅は一緒だったらしい。
私が先行して降りたのだが、その脇を見向きもしないで突撃していく姿が見えた。

ぜひ私は聞いてみたかった、
なぜあなたは笑っていらっしゃるんですか?と。
二度と会う事もあるまいて、
人生はこうした小さな疑問をたくさん抱えたまま、
きっと墓場まで行かねばならないのだろう。
・・・・・・・・・・。

処で私ってやっぱり何処か変ですか?

2000年3月10日

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