二十年前

時は1980年、彼は軽自動車の運転席にいた。
今日はこれから路上販売に出かけるのだ。
これから行く先で、どんどん販売しなくてはならない。
軽トラックの後ろには商品が整然と並んでいる。

「昨日はさんさんたるものだったけど、今日こそは!」

と、心に誓う。
これから出かける所では、便利な機械が大量に普及しているので、
彼が売ろうと思っている商品は、いまいちウケが悪い。
そう、いまや「古きよき時代」の遺産になりつつあり、これは自然の恵みが大切なのだ。
車に搭載されたカセットテープとスピーカの調子を確認する。

「準備はいいですか?」

スタッフがそんなことを聞いてくる。
この間観た映画の影響があるせいか、彼は親指をぐっと上に向けて見せた。

「あ、それ僕もこの前見ましたよ、かっこいいですよねぇ」
「君も見てきたんだ?」
「ええ、あ?もう時間だ。そろそろポジションに移動してください。」
「了解。」

彼は車をポジションまで移動させる。

「じゃ、今日も頑張ってください。」
「今日こそは頑張るよ。」

こうして彼は旅立っていったのだった・・・・。

「物干し竿の移動販売です。二本で千円、二本で千円、20年前と同じお値段です。10年に一度の、特別販売です。」

彼が現在居るのは西暦2000年、田舎の片隅。
彼は軽トラックのスピーカからお馴染みの音を鳴らし、
物干し竿を売っていた。

とまぁ、今朝久しぶりに物干し竿売りが近所を通ったのだが、
「二十年前と同じ値段」
っていうフレーズ、毎度聞くけど、気になるんですよね。
昔っからこのフレーズだし、10年に一度と言われても、
去年おんなじ声でおんなじフレーズ聞いたばかりだし・・・・・・。
ひょっとして本当に彼らは二十年前からやって来てたりして。

2000年1月17日

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