Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『DATE or ALIVE』 6th Action - Wonderful -


 「え……?」

 瞳子ちゃんの希望でミラーハウスに行った後、今度は祐巳のリクエストということでその目的地に
 ついた途端、瞳子ちゃんは足を止めてのけぞりそうになっていた。

 「どうしたの?」
 「ゆ、祐巳さま、こ……ここぉわ……」

 一体どうしたのだろうか、瞳子ちゃんは話し方までおかしくなってしまっている。

 「うん、ホラーハウスだけど」
 「で、ですよね」

 口の端をすこし吊り上げて、ひくひくさせている。もしかして、瞳子ちゃんってばこういうところ
 苦手なのかな。

 「瞳子、もしかして……怖い?」
 「怖い?」

 瞳子ちゃんが急に普通の顔に戻って祐巳を見据える。

 「そんなこと有る筈がありませんわ!」
 「でも」

 腰をかがめて、瞳子ちゃんの顔の高さに目線を合わせる。
 すると、急に「さ、参りましょう」と言うやいなや祐巳の腕を掴んでずんずんと入り口に向かって
 いく。
 だ、大丈夫なのかな瞳子ちゃん。
 祐巳の心配を他所に瞳子ちゃんは歩を緩める事無く突き進んでいった。

 「ぎ……やあぁぁぁぁぁぁ!」

 ホラーハウスに入ってほんの1、2分後。鼓膜が破れそうなほどの悲鳴が祐巳の隣から聞こえた。
 左腕は鬱血しているんじゃないだろうかと思えるほど固く巻き締められていた。
 もちろん、瞳子ちゃんに。

 「と、瞳子」
 「ひぃ、いやぁ……うっく」

 悲鳴と共に、何時の間にか嗚咽まで聞こえてくるようになった。
 さすがに、ここに来たのは失敗だったと思えてきた。ここまで瞳子ちゃんが怖がるとは予想もして
 なかった。

 「ゆ、祐巳さ、ま」
 「大丈夫だから。ちゃんとわたしは瞳子の側にいるから」

 このまま奥へ進んでいくのは拙いかな。そう思って祐巳は、瞳子ちゃんと少し通路の端に寄った。
 必死にしがみついて、肩口に顔を沈めている瞳子ちゃん。いつもは勝気なのにこういう所にこれほ
 ど弱いなんて初めて知った。

 「大丈夫」

 瞳子ちゃんを祐巳の前に来るように誘って、腕を回す。

 「ゆ、祐巳さま!?」
 「わたしがいるから」

 そのまま瞳子ちゃんを抱きしめる。
 冬も近づいているのに、館内はすこし冷房が掛かっていて肌寒い。瞳子ちゃんの服の上からも温もり
 が感じられる。祐巳の温もりも、瞳子ちゃんに伝わっているかな。

 「あ、暖かいです」
 「もう、怖くない。でしょ」
 「はい」

 もう少し、このまま。
 そうしたら、一目散に出口に向かおう。
 折角の楽しいデートなんだから、瞳子ちゃんに悲しい思いをさせたくなかったから。


 − Wonderful 乃梨子 −


 乃梨子が歩く。
 志摩子さんがとてとてと付いてくる。

 「また分岐ね」
 「どっち行こうか?」
 「そうねぇ」

 志摩子さんが「右にしましょう」と言ったので、その通りに進んで行く。
 次の角は左にしか曲がれなかったので道なりに曲がる。

 「あ!」
 「どうしたの?きゃ!」

 曲がった先は袋小路になっていて、そこには先客が居たのだけれど、アベックの。
 そのアベックは、あろう事か見えないことを良い事に抱き合ってキスしていた。
 志摩子さんの手を取って慌ててもと来た道を戻る。
 乃梨子も志摩子さんも、真っ赤になっていた。

 「とんでもないバカップル……」
 「そ、そんなこと言う物ではないわ。乃梨子」
 「だって、まだお昼前なのに」

 けれども「バカップル」なんて言葉は、周囲の状況も考えずに己の都合だけで他を憚らないような
 馬鹿みたいな事をするのを指すのでは無いだろうか。
 多分、志摩子さんは言葉は知っていても、それがそういう人間の蔑称であることは知らないのかも
 しれない。

 「さっさとこの迷路を抜けちゃおう、志摩子さん」
 「ええ」

 再び前進を開始する。
 この巨大迷路に入ってから結構時間も経ってしまっているし。
 二人並んでとてとてと迷路を進んでく。
 すると、志摩子さんが突然に乃梨子の手を握ってきた。志摩子さんを振り返ると「嫌?」と聞いて
 きたので、ぶんぶんと首を振って否定する。何度も手を繋いでいるけど未だに少し恥ずかしい。

 「あ、出口」
 「やったわね、乃梨子」
 「うん」

 志摩子さんと顔を見合わせて喜ぶ。
 出口を出て直ぐのところにある機械に、入り口で貰ったカードを差し込むとガチャンと音がして、
 カードに今日の日付と今の時間が打ち付けられる。
 入り口でも同じ機械で開始時間を打ち込んであるそのカードを志摩子さんに差し出す。

 「じゃあ、わたしのはこれ」

 そういって志摩子さんも自分のカードを乃梨子に差し出す。
 同じ日付、同じ時間の刻まれたカード。
 それは、乃梨子と志摩子さんが同じ時間を共有したという小さな想い出の一つ。大切にしなくちゃ。
 心の中で誓う。

 「乃梨子」
 「なに?志摩子さん」

 カードをポシェットに大事に仕舞いこんでいた乃梨子は志摩子さんの呼びかけに顔を上げた。
 すると、突然唇を押し付けられる。
 いつものように、触れるだけのキス。乃梨子は嬉しさを感じる前に、驚きと恥ずかしさでブワっと
 顔を離した。

 「し、し、し、し」
 「志摩子さん?」

 こくこくこくこく。
 信じられない。こんな、何時誰に見られるとも解らない所で志摩子さんがキスしてくるなんて。
 一体全体どうしてしまったというのか。

 「わたし、乃梨子となら『バカップル』と呼ばれても構わないから」

 何を言うのだろう。乃梨子だって、志摩子さんとなら……って、もしかしてからかわれている!?

 「可愛いかったわよ、乃梨子」
 「志摩子さぁん……」
 「ふふふ」

 志摩子さんには一生勝てない。
 乃梨子はそう思った。

 −To Be Next ACTION−


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