Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『DATE or ALIVE』 4th Action -Amusement park-


 − Amusement park 祐巳 −


 「もう、祐巳さま。瞳子だって、ご挨拶を失敗したらどうしようって、凄く緊張していたんですから」
 「あはは、ごめん」

 瞳子ちゃんが頬を膨らましてポカポカと祐巳の肩を叩いてくる。
 祐巳の両親への挨拶の時のことを「さすが瞳子ちゃん」等といって褒めてあげたのだけれど「舞台
 度胸があるからいいね」なんて口走ってしまったものだから、瞳子ちゃんは拗ねてしまった。
 それはそれで可愛くて好きなんだけどね。

 「瞳子お嬢様。もう、間もなく到着いたします」
 「わかりました」

 家を出て、約1時間。
 道路は行き交う車も多くは無く、流れるように車は遊園地に到着した。

 「ごゆっくり、お楽しみください」
 「有難うございます」

 運転手さんがドアを開けてくれて、祐巳は瞳子ちゃんと一緒に車を降りた。
 秋も終わりに近づいた、朝の冷たい空気がとても心地よかった。

 「行こうか、瞳子」
 「はい」

 祐巳がチケットの自動販売機の前に行こうとすると「祐巳さま」と瞳子ちゃんが呼ぶので、立ち止
 まって振り向く。
 すると、瞳子ちゃんはバッグからテレフォンカードのような物を二枚取り出した。

 「こちらのフリーパスです」
 「え……じゃあ、代金を払わないと」

 用意の良い瞳子ちゃんに感謝しつつ、祐巳はお財布を取り出そうとしたのだけれど、瞳子ちゃんに
 止められる。

 「いえ、代金なんて構いませんわ。祐巳さま」
 「でも」
 「お父様から頂いたものですので、結構ですのよ」
 「そうなんだ、でも、こう言う事は」
 「もう、祐巳さまは強情なんだから。じゃあ、お昼ご飯は祐巳さまが出して頂くと言う事にいたし
  ませんか」

 なおもお財布を取り出そうとする祐巳に、瞳子ちゃんは呆れるように折衷案を出してくる。
 いつまでも入場ゲート前で押し問答しているのも、時間が勿体無いような気がしたので、祐巳はそ
 の提案を受け入れた。
 瞳子ちゃんも祐巳の扱いが上手くなってきたような気がする……。
 祥子さまも、こんな風に祐巳の事思っているのかな、なんて考えていたら。

 「祐巳さま、今、祥子さまの事考えませんでしたか?」
 「え、どうして解ったの!?」
 「祐巳さまは、すぐお顔にでるから」

 うー、相変わらず百面相していたのか。

 「さ、参りましょう。祐巳さま」
 「そうだね」

 瞳子ちゃんに先導される形で、祐巳は入場ゲートをくぐった。
 最初はどこからいこうかな。
 巨大迷路、ホラーハウス、ジェットコースターに観覧車。
 あ、観覧車はやっぱり最後の方がいいかな、だったらデート定番のコーヒーカップがいいかも。
 一杯あって迷っちゃう。
 まあ、でも折角オープン時間調度に来たんだから、周れるだけ周ろう。うん。


 − Amusement park 志摩子 −


 「志摩子さんは何から乗りたい?」
 「乃梨子が行きたいところで構わないわよ」
 「じゃあ、メ……あ、やっぱりいい」

 乃梨子が、言いかけた言葉を慌てて取り消す。
 遊園地に入場する前から続いていたこの話題をようやくの事、解決できるものと思っていた志摩子
 は苦笑して、乃梨子に続きを促す。

 「言いかけた事はちゃんと言って頂戴」
 「で、でも……」

 なんとか、乃梨子に言って貰いたいけど、なかなか素直には答えてくれない。
 志摩子にはその場所が解って居たけれど。
 出来れば乃梨子に言って欲しかった。

 「ね、乃梨子」
 「あー、うー」

 このままでは何時までたっても終わりそうに無いので、志摩子は乃梨子の耳元に顔を寄せて、小さ
 く囁いた。志摩子が顔を近づけるだけで乃梨子の顔は赤くなったけれど、囁いた言葉によって更に
 紅くなって行った。

 「メリーゴーランド。でしょう?」
 「え、なんで、どうして」
 「少し前に祥子さまと祐巳さんの遊園地デートのお話が出たとき、乃梨子が乗りたいって言ってい
  たもの」
 「そ、そんな前のこと……」

 大切な乃梨子のことだもの。どんな小さな事でも志摩子に刻み込まれるのだから。
 もちろん、志摩子のほんの些細な事を乃梨子がしっかりと刻み付けている事を、志摩子も知ってい
 る。お姉さまである、聖さまとの関係のように近過ぎず、遠過ぎず、ただお互いの存在を確認して
 いければよかった関係ではなくて、乃梨子とはお互いを深く理解するために歩み寄っていく。
 そんな今の関係がとても新鮮で、好きだったから。

 「行きましょう、乃梨子」
 「うん……」

 乃梨子はすこし、目を細めて照れ隠しのように微笑みながら志摩子の手を取って歩き出した。
 メリーゴーランドに乗った乃梨子が目に浮かぶようだった。
 今さっきのように、照れ隠しに微笑みながら。けれど、とても楽しそうにしている乃梨子が。
 多分、自分も同じような顔をしていそうな気がして、志摩子は可笑しくなった。


 − Amusement park 令 −


 お姉さまの言われたとおり、上手く聖さまを足止めすることが出来た。
 コーヒーショップで再会した途端に、由乃の機嫌も直ったようだし。
 遊園地のフリーパス、二人分は結構痛い出費だったけれど由乃が笑顔でいてくれるのだから、そ
 れだけでもその価値はあったと思う。

 「令ちゃん、先ずは新作のアトラクション!」
 「どういうの?」
 「サムライ・ブレード・クロニクル」
 「さむらい、ぶれーど?」

 聞きなれない言葉を由乃は力を込めて言ってきた。
 サムライ・ブレードだから、日本刀かなにか関係有るのかしら。

 「要はチャンバラよ、チャンバラ」
 「ちゃ、ちゃんばら……」

 その響きを、いかにも由乃が好きそうだなぁと思いつつ、令は由乃の後について行った。
 ゲート前から続くメインストリートを暫く歩くと、その建物は見えてきた。
 大きな看板に「サムライ・ブレード・クロニクル」の文字と、なんだかSFチックな人物が日本刀
 を袈裟懸けに振り下ろしている絵が描かれていた。

 「これをする為にここに来たんだから」
 「そう……」

 由乃は今日もイケイケ青信号のようだった。
 入り口でフリーパスを見せ、中に入る。
 インストラクターの女の人が道具を着せた人形の前で色々と説明してくれる。

 「……この、ブレードは風船になっていて、当たっても殆ど痛くはありません。ですが、念のため
  こちらのモデル人形のように、皆様にはプロテクターとヘルメットをつけて頂きます。また、こ
  のプロテクターとヘルメットにはセンサーが内蔵されおり、ブレードの部分が当たると胸のラン
  プが一つずつ点灯するようになっていまして……」

 内容は10対10に分かれて行う陣取りゲームで、風船の刀で敵方を斬って行きながら相手の陣地
 にあるボタンを先に押した方が勝ち。
 刀で4回斬られたプレイヤーは以降の戦闘が不可能になり、例えボタンを押しても反応しないとい
 う事だった。
 防具をつける時点で敵味方に分かれる分岐に差し掛かると、由乃は令から離れて反対側の通路に駆
 け出した。

 「よ、由乃!」
 「ふっふっふっ。令ちゃん、覚悟していてね」

 どうやら由乃は最初から令と戦うつもりだったようだ。
 由乃がそのつもりなら仕方がない。

 「後悔しても知らないよ」

 そう言って由乃を見送り、令も装備を身に付けていった。

 内部はクッションの良く効いた柱が何本も立っていて、真っ直ぐには突き進めないようになってい
 た。しかも、スモークが炊かれていて視界も良くは無い。辛うじて反対側の壁が見通せる位の視界
 しかなかった。
 とても低い声のアナウンスで、ゲームのスタートが告げられる。
 一斉に駆け出す味方のプレイヤー。その直後、令は見てしまった。
 剣道の型などでは無い、父も幾つか型を知っているというだけだった古い実戦用の剣術。
 腰を低くして、刀を下段に構える甲冑剣術。一般には「柳生芯陰流」が良く知られる剣術を。
 どこで覚えたのか、その剣を持って鬼神のように味方を切り倒していく愛する人の姿を……。


 − Amusement park 江利子 −


 「それで?聖を置いて来た上に、誘拐じみた事までした理由はなんなの」
 「誘拐だなんて、酷い言われようね」
 「車から降りられないようにしたくせに……」

 結局あの後、8時30分になった時点で無理やり車を発進させた。
 聖を待たずに出発した事に、兄も蓉子も随分いろんな事を言ってくれたけれど、右から左へ聞き流した。

 「しょうがないじゃない。約束の時間を30分待っても来なかった聖が悪いのよ」
 「だからって!」
 「聖に電話でもしてみれば良いじゃない」

 蓉子は遊園地に着くなり、聖の家には電話をした。
 聖のお母様が言うには随分早くに家を出たと言う事だったそうだけど、遅刻の理由は誰も知らなかった。
 勿論、江利子と、その指示で聖を足止めした令達以外には、だけれど。

 「聖は、持っていないもの。携帯電話……」

 蓉子が呟くように、言う。

 「だから、聖が遅れて来ても良いようにここで待っているんじゃない」
 「それはそうだけど」

 入場ゲートのすぐ側にある、休憩スペース。幾つかの椅子と、小さなテーブルが置かれたこの場所は
 まだ開園して間もないと言うのに大半が埋まっていた。
 ここからだとゲートから入ってくる人が良く見える。

 「あと15分待って来なければ、二人で周りましょう」
 「でも、江利子」
 「折角、ここまで来たのに何も遊ばないで帰るつもり?」

 なおも食い下がろうとする蓉子を牽制する。
 さすがに、入場料を払っているのだから、理由も解らない遅刻をしている聖の為に江利子まで巻き込むの
 は蓉子の性格上難しいだろうから。
 けれど、あと15分もすれば聖も追いつくだろう。
 「遊園地」には。
 しかし、このゲートは「絶対」に通らない。
 なぜならこのゲートは駅からの通路の真裏にあたるゲートだから。その為にわざわざ兄の車を使ったんだ
 もの。焦っている聖は間違いなく、駅側のゲートから入場するだろう。

 「わかったわ……」
 「そう、良かった。わたしも入場料無駄にしなくて助かるわ」

 蓉子は仕方ない。といった感じで、ようやく頷いた。

 −To Be Next ACTION−


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