Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『DATE or ALIVE』 3rd Action -Good Luck!- scene 3


 − Good Luck! 蓉子 −


 午前8時45分。
 水野蓉子はM駅改札前の売店の前にいた。
 相変わらず、几帳面だと思う。
 約束時間のきっちり15分前。
 相手の二人はまだどちらも来ていない。
 遅すぎず、早すぎず。
 大学に進学して、多少はいろいろ遊んだりすることも増えたけど、相変わらずの優等生ぶり。
 いつのまにか、仮面も素肌と同じようになってしまって、どこからがオリジナルの蓉子で、どこか
 らが優等生の水野蓉子か解らなくなってしまった。
 もしかしたら最初から、仮面なんて被っていなかったのかも知れない。最近はそう想う様になって
 しまっていた。

 「どうせ、聖はぎりぎりだろうし」

 親友以上恋人未満、そう思いたい相手の名前を口にする。
 けれど、そんなものでは最早なくなっているのは解っているけれど。
 もう、聖とは離れられないところまで来てしまった気がする。

 「それにしても、江利子は同じくらいの時間に来ると思っていたのに」

 遊びに来たときくらい、重い考えはよそうと、発案者の親友のことを考える。
 普段、何を考えているのか掴みきれない所のある親友。
 少し前、驚くべき告白をしてくれた江利子。
 あの時の事は思い返しても恥ずかしい。

 「今日も、何か企みがあるんでしょうね……きっと」

 江利子が自分から何かを企画するときはかならず何かある。
 しかも、今回はメンバーがメンバーだけに、蓉子自身もそのターゲットなんだろうとは思うけれど
 聖と蓉子、どちらが本命の獲物なのか解らない。
 嘘。本当は解っている。恐らく江利子が自分を標的に据えている事は。出来る事なら思い過ごしで
 あってくれればと思うけれど、恐らくそれは儚い願いで終わる事だろう。

 「聖が助けてくれればいいけど……無理かな」

 溜息一つ。

 「お待たせ、蓉子」
 「おはよう、江利子」

 現れた江利子のにこやかな笑顔をさらっと見た後、腕時計を確認する。
 8時51分。
 ほぼ、予想通りの登場だった。

 「楽しみねぇ、遊園地」
 「そうね、でもどうして遊園地なの?」
 「あら、こんな事でもしないと、蓉子ってば遊園地なんて行かないだろうと思ったのよ」

 江利子は江利子で、蓉子のことをお見通しなのか。と、納得する。

 「やあ、蓉子ちゃん」
 「あら、お兄様。おはようございます。今日はいかがされまして?」

 江利子の兄の一人が少し遅れて現れた。
 彼が一緒なんて聞いてなかったけれど。

 「歯科医師なんて、日曜は殆ど休みだからね。江利ちゃんの運転手だよ」
 「そうよ、折角大きい車持っているんですもの。こんな時くらい美少女乗せたって罰はあたらない
  わ」
 「きついなあ、江利ちゃんは」
 「あら、そうですの。有難うございます」

 確かに、目的の遊園地には電車を乗り継いでいくより、車の方が楽だけれど。
 江利子に彼氏ができても、やっぱり江利子しかいないのね……。なんて目の前の歳の離れた兄妹を
 見比べた。

 「聖はまだ?」
 「ええ、少なくとも、わたしが来たときにはまだ居なかったわ」
 「そう」

 江利子は何事か考えるようなそぶりをした後、再び口を開いた。

 「じゃあ、蓉子は先に車に乗っていて頂戴。聖はわたしが待っているから」
 「一緒にいればいいじゃない」
 「あら、兄さん一人で車の番なんて可哀想じゃない、話し相手にでもなってやってよ」

 なら自分がいけば良いじゃない。聖は私が待っているから。と、言おうかどうしようか迷っている
 うちに、江利子は蓉子の背中を押して歩き始めた。

 「江利子?」
 「さ、さ、蓉子」
 「蓉子ちゃんに会うのも久しぶりだからね」

 お兄さんがのほほんと言ってくる。
 怪しい。全く持って怪しい。江利子は一体何を企んでいるのだろう。
 露骨な抵抗が出来ないでいる蓉子をいい事に、半ば連行するような形で江利子は車に押し込んだ。
 ドアを閉めると、江利子はさっさと待ち合わせ場所に戻る。
 蓉子は江利子を追いかけようと、後部座席のドアのレバーに手を掛ける。

 「え、開かない!?」

 レバーを何度引いても、ドアは開かなかった。

 「チャイルドロックが入っているから、中からは開かないよ?」
 「なんですって?」

 お兄さんがサラっと、とんでもない事を言う。

 「どういう事なんです!」
 「ぼ、僕は何も知らないよ。ただ江利ちゃんがそうしてくれって言ったから」
 「江利子め……」
 「ま、まあ落ち着いてよ蓉子ちゃん。みんなが揃うまでは出発しないから」

 お兄さんを睨みつけるが、 嘘は言っていない様子なので仕方なく後部座席に座りなおす。
 全く、江利子は何を企んでいるのかしら。
 いらいらと再び腕時計を確認する。9時7分。
 待ち合わせ時刻は、過ぎていた。


 − Good Luck! 蔦子 −


 「OO駅〜。OO駅〜。XX線はお乗換えです」

 目的地まで向かう電車の中で、蔦子は思わぬ人物と出合った。
 ここは、幾つかのJR線と私鉄が連絡する駅で、蔦子の乗る電車もそれなりに人の乗り降りが有っ
 たのだけれど。
 その人物は一瞬、蔦子の前を通り過ぎたあと、慌てて戻ってきた。

 「つ、蔦子さん?」
 「ごきげんよう、真美さん」

 そう、その人物とは新聞部のエース、校内新聞「リリアン瓦版」の現編集長。山口真美さん、その
 人だった。

 「こんな時間にこんな所で蔦子さんに会うなんて」
 「同感。わたしもまさか真美さんに会うとは思わなかったわ」

 真美さんは、蔦子の隣に腰を降ろすと早速事情を確認してきた。
 蔦子は、手に持ったカメラの電池の残量と、ポケットにある2CR5の予備の電池を感覚で確かめ
 たあと、真美さんに振り返った。

 「蔦子さんは今日はどちらに?」
 「遊園地へ」
 「奇遇ね、わたしも遊園地なのよ」
 「真美さん一人で?」
 「蔦子さんこそ」

 二人は顔を見合わせて、へへへっとにやついた笑みを交し合った。
 どうやら、掴んだ情報は同じ物だったらしい。

 「紅薔薇さまのつぼみと、その妹の初デート」

 真美さんに向かって、確認するように言う。
 ところが、真美さんの反応は予想とは違って、驚いたような表情が返ってきた。

 「わ、わたしは白薔薇姉妹のデートだったのだけれど……」

 志摩子さんと乃梨子さん?
 首を捻る。蔦子が掴んだ情報は、祐巳さんと、瞳子さんの初デートだったのだけれど。
 この情報を掴んだ後は、それ以外、あまり注意を払っていなかったから。

 「と言う事は、同じ遊園地で二色の薔薇姉妹のデートが……」
 「の、ようね」

 これはついている。
 運がよければ白と紅の両方をカメラに収める事が出来るかもしれない。蔦子は自分の幸運をマリア
 様に感謝しつつ、真美と協定について相談し始めた。

 「じゃあ、お互いが情報を共有すると言う事で」
 「そうね、真美さんがどちらかを発見した場合は私に、私が発見した場合は真美さんに」
 「了解」

 お互いの携帯電話の番号を確認しあう。
 M駅で待ち合わせ。という予想をあっさり裏切られて祐巳さん達を尾行すると言う初期の計画がご
 破算になった時点で二人を確実に捕捉する事は叶わなくなってしまった。
 広い遊園地。ある程度の目標は立てているけれど、重複しないように計画して二人で当たった方が
 より確実に目標に到達できる。
 やはり、今日は付いている。
 真美さんなら、彼女の姉の三奈子さまと違って、おかしなターゲットの待ち方をしたりする事は無
 いだろうから。

 −三奈子さまには悪いけれど、真美さんのほうが信用できる。

 もうすぐ、目的地に到着する。
 真美さんが右手を差し出す。

 「お互いの健闘を祈って」
 「頑張りましょう」

 蔦子も差し出された右手を固く握って、真美さんに答える。
 この時はまだ、蔦子も真美さんも、遊園地で待ち受ける山百合会幹部の阿鼻叫喚に巻き込まれる事
 など、全く想像すら出来無かった。

 −To Be Next ACTION−


ごきげんよう。
ようやく、次回から遊園地に到着の予定です。
まだまだ先は長いなぁ……。
チャイルドロック。まさかこのネタを使う事になるとは思いませんでした。
本当にあれは子供用ですね。間違って入れてしまった時はかなり邪魔です。
思い出すまでは、ビックリしますよ。本当。
それではまた近いうちに。


Back | NovelTop | Next