Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『DATE or ALIVE』 3rd Action -Good Luck!- scene 2


 − Good Luck! 志摩子 −


 「ごきげんよう、志摩子さん!」
 「ごきげんよう、乃梨子。でも、学校ではないのだから」
 「あ!」

 そう言って、乃梨子は照れ笑いする。
 二人が出会った頃は「ごきげんよう」という挨拶すらぎこちなかったと言うのに、何時の間にか
 乃梨子も十二分にリリアンに溶け込んでいる。

 「遊園地、楽しみね」
 「うん、なんだか今からどきどきしちゃって」
 「乃梨子ったら」

 乃梨子と出会って随分経つ。
 二人で出かけることは、もう当たり前になりつつある。

 「志摩子さん、何か苦手な物ってある?」
 「遊園地の乗り物でかしら」
 「うん」
 「そうね、ジェットコースターは……遠慮したいわ」
 「わかった」

 遊園地。
 まだ小学生だったころ、家族と行ったことが有ったけれど、記憶に残っているのは子供の自分より
 はしゃいでいる父の笑顔だった。
 昨日も、遊園地に行くと言う話をしたときも「羨ましい」といって残念がっている様子だった。
 志摩子は、過ぎた茶目っ気を出す時の父には閉口する時もしばしばだったけれど、そういう子供っ
 ぽい顔をする父は好きだった。

 「そういえば、祐巳さんと瞳子さんも、今日は遊園地に行っているのではなかったかしら」
 「あ!!」
 「乃梨子?」
 「しまった、そうだった……」

 なんだか、乃梨子は急に不安そうに頭を抱えて俯いた。
 もしかして、覚えていなかったのかしら。
 もし、祐巳さん達に会う事があったとして、何か問題があるのかしら?

 「祐巳さん達に出会ったら、一緒に回りましょうか」

 志摩子が、さわやかな笑顔でそう言うと、乃梨子は「志摩子さん……鈍いよ」といって呆れた様に
 苦い微笑を返してきた。
 鈍い?一体何のことかしら。
 遊園地って皆で遊んだ方が楽しいと思うのだけれど。乃梨子は二人きりの方が良いのかしら。
 小さく溜息をついている乃梨子の左手にそっと右手を重ねる。
 乃梨子は「はっ」として志摩この方に振り返る。

 「乃梨子が望むなら、二人っきりで回りましょう」
 「う、うん」

 乃梨子は、そう小さく返事して、今度は耳を紅くして俯いた。
 その白い肌が、紅潮して、薄紅色のように染まるのを見て、志摩子はこころが暖かくなるのを感じ
 ていた。
 今日も、楽しい一日になりそうね、乃梨子。


 − Good Luck! 由乃 −


 「いい?令ちゃん。10時までだからね!10時には何があっても出発だからね!」
 「うんうん、解ってる。だから由乃、お願いね」

 へらへらと答える令ちゃん。
 気に入らない、気に入らない、気に入らない。
 折角、令ちゃんとデートらしいデートが出来るのに、由乃の心は煮えくり返る怒りと、情けなさで
 パンクしそうだった。

 「今、8時5分か、お姉さまは多分ぎりぎりだろうって言っていたけど……」

 さっきから、由乃の顔色を窺うか、時計を確認するかばかりの令ちゃん。
 一体、何が悲しくて令ちゃんの浮気の手助けをしなければならないのか。
 先日、令ちゃんの家に掛かってきた鳥居江利子さまの電話の内容(もちろん、盗み聞きした)を思
 い返しただけでも、怒りの炎にガソリンが注ぎ込まれる。
 ガソリンは良く燃える。
 日を改めて、デートだと?あまつさえ、キスしてあげる。だと!?
 そんな事を令ちゃんにさせるために由乃はこの茶番劇に協力させられているのだ。
 これで不愉快にならない方がおかしい。

 「本当に、佐藤聖さまはここに来るの?」
 「待ち合わせがあそこの売店だから、間違いないよ」

 令ちゃんが指を指す方を見る。
 日曜日だから、売店は閉まっている。朝、早い時間だから人通りもまばらだった。
 土下座までして、許しと協力を申し出た令ちゃん。
 電話の後、三度、ロザリオを突き返しそうになったけど、どうにか堪える事ができた。
 あまりにも悲壮な令ちゃんの顔と、遊園地での予算全部持ち、それとプリンと出汁巻き卵に由乃は
 渋々ながら、本っ当に渋々ながら、それをOKした。

 「来た!」

 令ちゃんが小さく叫ぶ。
 由乃も釣られて改札に目を向ける。
 果たしてそこには、佐藤聖さまがいた。
 さぁっとあたりを見回した後、自動販売機で何かを買っている。

 「由乃、お願いね」
 「わかってるわよ」

 両手を合わせて拝み倒してくる令ちゃんを尻目に、由乃は計画通りに歩き始めた。
 聖さまを視界の隅に捕らえながら、コンコースを横断していく。
 肩を怒らして、どすんどすんと床を踏みしめるように。
 ああ、滑稽すぎて涙が出そう。
 学園祭の舞台劇ですら、こんな情けない気持ちにはならなかったのに。
 目的地は、駅の反対側のアーケードのコーヒーショップ。
 令ちゃんは遠回りして、40分後くらいにそこに到着する予定だった。聖さまを引き摺りまわして。

 「早く来なさいよ、令ちゃん」

 口の中で呟く。
 計画が成功しようが、失敗しようが由乃には関係ない。
 返って失敗して、江利子さまと令ちゃんのデートが無くなった方が嬉しい位だった。

 −To Be Next ACTION−


ごきげんよう。
ようやく、道半ばって感じでございます。
書けば書くほど長くなっていくような…
こういうのを「泥沼」って言うんでしょうねぇ…
書きかけの祐・瞳が!由・令が!
頑張ります。はい。
それではまた近いうちに。


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