− Stand by READY? 瞳子 −
「この服がいいかしら、それとも……」
瞳子は、いろいろなドレスや、洋服などが散らかりまくった姿見の前で、最終候補の二着を代わる
代わる身体に当てて悩んでいた。
「祐巳さまと、初めてのデートなんですもの。失敗は許されないんだから」
服を持ったまま、拳を握り締めて決意を新たにする。
もしもし、瞳子さん、服に皺が寄っちゃいますよ。
「きゃあ!し、皺がよっちゃう」
言わんこっちゃない。
瞳子は握り締めた方の洋服を、逡巡した後で床に置き、残った方の洋服をもう一度身体に当てた。
「そうね、こっちのワンピースの方が可愛いから」
そう言って、手に残った洋服を、そっとクローゼットの扉にかけた。
「これだと……上着はあれね」
メインが決まると、残ったものは直ぐに頭に浮んでくる。
持っている洋服のリストを頭の中でモンタージュのように着せ替えをして、上着、靴下、そして
履物まで選び出してく。もう、瞳子の中では明日の衣装はばっちり出来上がっていた。
「祐巳さま、喜んでくれるといいな……」
− Stand by READY? 江利子 −
「さて、明日はいよいよお楽しみ」
江利子は、入浴時に念入りに身体を洗ってベッドに入った。
蓉子との初デート。
ただ、遊んで終わらせるつもりは……これっぽっちも無かった。
いける所までは行ってあげる。
そう心に決めている。
「ああ、蓉子……」
自分の腕の中で、か細く抵抗する蓉子。
その瞳にはうっすらと涙を浮かべ、拒否とも懇願とも取れない微妙な色を反射する。
微かに湿り、挑発するような紅い唇。
「蓉子、そんなに怖がらなくても良いじゃない」
聖と向かい合う時とは正反対な蓉子の態度が、更に江利子の欲情を昂ぶらせる。
逃げるように、顔を背ける蓉子に少しだけ、強引に江利子は自分の唇を……
「うふ、うふふふふ!待ってなさい、蓉子!」
明日、蓉子を落してみせる。必ず。
そして、次は……
もちろん、聖。あなたよ。
蓉子の好きな聖も含めて、まるごと蓉子を愛してあげるって決めたのだから。
「頼むわね、令」
それだけを呟いて、目を閉じる。
今夜、江利子の見る夢は?
− Stand by READY? 乃梨子 −
「それじゃ、おやすみなさい」
「お、もう寝るのかい?リコ」
「うん」
勿論、明日の志摩子さんとのデートに遅れるわけにはいかないからね。
着ていく服も、持っていく物も全部支度済み。
あとは明日、出かけるだけ。
「お姉さまと楽しんできな」
「もっちろん」
「おやすみ、リコ」
「おやすみなさい、菫子さん」
挨拶をしてから自室に戻る。
気合はそれなりに入っているけど、眠れない事はないだろう。
志摩子さんとのデートは別に初めてじゃないし。遊園地は初めてだったけれど。
「遊園地かぁ……久しぶりだなぁ」
中学校以来だったかな?
ふっと、少し前の過去を思い出してみる。
両親と、まだ小学生だった妹と一緒に行ったのが最後だったはず。
とりあえず、メリーゴーランドは外せないな、うん。
明日の事を考えながら、乃梨子は瞼を閉じた。
− Stand by READY? 令 −
「お弁当の下ごしらえはこんなものかな?」
唐揚げの鶏腿肉は醤油ベースの出汁に漬け込んだ。
これは明日の朝、油で揚げれば出来上がり。キッチンペーパーにしっかり油を吸い取らせるのを
忘れないようにしないと、お弁当箱の中に油が染み出ちゃう。
由乃のお気に入りの出汁巻き卵の出汁も冷蔵庫に準備した。火加減に注意して焦げを作らないよ
うにしなくちゃ。由乃に怒られちゃうから。
ポテトサラダは全部出来上がって、これも冷蔵庫の中。
デザートのプリンも、カラメルに少してこずったけれど、朝には程よく固まっているだろう。
保冷剤も冷凍庫に入れたし。
「うん、準備OK!。折角、由乃のご機嫌を取り直したんだから、お弁当は失敗できないもの」
明日のお弁当の下ごしらえの確認を終え、令は自分の部屋に戻っていった。
「由乃、美味しいって言ってくれるかなぁ」
明日のお昼時の由乃の反応を考えるとどきどきする。
いままで、令の手作りを「不味い」なんて言ったことはないから、そんなに心配する必要はないか
も知れない。けれども、明日、聖さまを足止めするから、それでまた不機嫌になったらどうしよう、
なんて思ってしまって、素直に安心できない。
「とにかく、由乃の機嫌だけは損ねないようにしなきゃ……」
−To Be Next ACTION−
Back | | | NovelTop | | | Next |