−Approaching 紅薔薇 −
「ごきげんよう、お姉さま」
「ごきげんよう。瞳子」
放課後、何時もの様に瞳子は薔薇の館の2階の、ビスケットの扉をくぐった。
そこには山百合会幹部の大部分と、2人ほどの見知らぬ生徒が居た。
「それでは、失礼します。紅薔薇さまのつぼみ」
「はい、ごきげんよう。またいらっしゃいね」
「有難うございます」
その生徒達。(見た感じ自分と同じ1年生だったけど)は大好きなお姉さまである福沢祐巳さまに
挨拶をすると、くるりと踵を返して部屋を出て行った。
最近、祐巳さまに会いに一般の生徒達が時々、薔薇の館にやってくるようになった。
もちろん、仕事がない時に限ってだけれど。
それは2年生だったり、1年生だったり、時には3年生が来る事もあった。
「祐巳さんは人気者だねぇ」
「いいじゃない、由乃。薔薇の館が生徒で賑わうのは先代の薔薇さまたちの悲願だったんだから」
「そうね、蓉子さまと江利子さまは特に強く願ってらしたから」
「うん」
由乃さまと令さま、祥子さまが相次いで仰った。
聞いた事がある。
瞳子たちが、高等部に進学する前の薔薇さまたちが、生徒で賑わう薔薇の館を見て感動されていた
事を。
「人気者……うーん」
祐巳さまが首を捻って考え込まれる。
人気者ですよ、お姉さまは。だから瞳子はいつもやきもきするんです。
と、それどころではなかったんだわ。
「お姉さま、今度の日曜日に瞳子と遊園地にいきましょう!」
「え?」
「な!」
祐巳さまと祥子さまが同時に声を返してくる。
もちろん、祥子さまの反応は折込済みだけど。
「何か、予定がおありですの?お姉さま」
「え、ううん、ないけど」
「だったら決まりです」
瞳子の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「お待ちなさい、瞳子ちゃん!」
「あら、祥子さまは確かその日、お約束があったのでは無かったですか?」
「そんなもの……」
祥子さまは顔を青くして口を閉じた。
そう、今度の日曜日、祥子さまはお祖父さまとお約束が有るのだから。
瞳子は親戚の立場を遺憾なく利用して、祥子さまの予定が塞がっているときをわざと狙ったのだか
ら。
誰にも邪魔される事無く、祐巳さまと二人っきりでデートする為に。
「お、お姉さま……」
「『二人っきり』で楽しみましょうね、お姉さま」
「きー」
祥子さまは、持っていたハンカチを怒りをぶつける様に、力いっぱいきつく絞っていた。
−勝った!
−Approaching 前薔薇さま方 −
−プルルルル……カチャ
「もしもし、水野ですが」
「あ、蓉子?」
「江利子?どうしたの」
待っていたわ、その声を。
蓉子……
「今度の日曜日、遊園地に行かない?」
「遊園地?」
すこし、訝しがる様な口調。
さすがね、でも抜かりは無いわよ。
「ええ、聖と私と、蓉子の3人で」
「行くわ」
即決。さすが、聖の名前は蓉子を嵌めるには絶大な威力を発揮する。
この間、ようやく蓉子の唇を頂戴したけど、その一回だけなんて納得できるものじゃない。
だから、今度はデート。
もちろん、二人っきりで……ふふふ。
「本当に聖も来るの?江利子」
「急用でも出来ない限り、来るでしょう」
「そう、じゃあ待ち合わせは何処かしら」
オッケー。
掛かったわね、蓉子ちゃん。
その日、聖は急用が出来る予定なのよ。そう、急用が……
「じゃあ、M駅に9時ということで」
「わかったわ」
「遅れないでね、マイ・ハニー」
「ま、マイ・ハニー!?」
「こっちの事よ、じゃあねぇ」
「ちょっ!江利……」
−カチャ
「ふふふ……」
待っててね、蓉子ちゃん。
江利子の顔に、妖しげな笑みが浮かぶ。
あら、いけない。
聖の急用を準備しないと。
江利子は再び受話器をあげ、電話のボタンを軽やかに押していった。
「もしもし。支倉さまのお宅でしょうか?夜分遅くに失礼いたします。わたくし、鳥居江利子と……
あら、令?そう。江利子だけれど……」
囲みは閉じられた。
−Approaching 白薔薇 −
カラカラカラ……コロン。
出た。色は……緑色。
乃梨子は、菫子さんに頼まれた晩御飯の材料を買いに、商店街に来ていた。
そこで、おつりと一緒に貰ったのが、福引の補助券。
頼まれたものを買い終えると、それは6枚になった。
補助券5枚で福引1回。
「お、出たね。ちょっと待っててな。お嬢ちゃん」
福引台の向こうで、見かけは品の良さそうな小父さんが振り返る。
その先には賞品の等級と色を示す、大きな看板が有った。
福引なんてどうでも良かったんだけれど、乃梨子の手にある券の枚数を鋭く見つけたこの小父さん
が余りにも熱心に誘うので、つい、やって見たのだけれど。
末等の石鹸くらいが関の山のような気がした。
正直、くじ運はあまり良い方では無かったから。
「お、お、やったねぇ。お嬢ちゃん」
「はあ」
「おめでとう!2等だけど、遊園地のフリーパス。ペアーでだよ!」
ほらね、やっぱり……って、ええ、2等!。
遊園地。ペア。
ペアと言う事は、二人って事だから……
遊園地のフリーパスと、ペアを交互に思い返しながら、乃梨子は何時の間にかマンションに帰り着
いていた。
「お帰り、リコ」
「ただいま」
乃梨子は買い物の入ったバッグを菫子さんに渡すと、そのまま自分の部屋に直行する。
自室の前で立ち止まる。
二人って事は、乃梨子ともう一人、相手がいるわけで。
「やっぱり志摩子さんしか居ないよなぁ」
乃梨子は回れ右をして、電話に向かう。
「菫子さん、電話借りるねー」
「リコの家なんだから、いちいち断らなくてもいいよ」
ソファに座ってテレビを見ている菫子さんに断りを入れる。
答えてくれた、菫子さんの言葉が嬉しい。
「もしもし。私、リリアン女学園、1年の二条と申しますが志摩子さんはご在宅でしょうか?」
今度の日曜がいいかな、日曜……?。
なんだかつい最近、同じような事を聞いた気がするけど。
「もしもし、乃梨子?」
「あ、志摩子さん。実は今日、商店街の福引で……」
その、同じような事。が、実はとっても大切だったのだけれど。
そのときは、志摩子さんとのデートって事でうきうきしちゃって気が付かなかったんだ。
−Approaching 黄薔薇 −
「どいうことよ!令ちゃん!!」
「だ、だから、お姉さまが、どうしてもって」
ついさっき、お姉さまである、鳥居江利子さまから掛かってきた電話の内容を盗み聞きしていた由
乃は、電話が終わると同時に噛み付いてきた。
「令ちゃんは由乃との約束より、江利子さまの命令の方を優先するわけ!」
「め、命令って、お姉さまはわたしに……」
「も、も、もういい!!」
「よ、由乃ぉ……」
由乃は、どんどんと地鳴りのような足音を響かせながら、島津家へと戻っていった。
ああ、どうしよう。お姉さまのお願いを無視するわけにはいかないし、由乃をこのまま放っておく
わけにもいかないし。
ああ、マリア様。令はなにか悪い事でもしたんでしょうか。
と、とにかく、由乃を追いかけないと。
昨日、祐巳ちゃんをデートに誘った瞳子ちゃんに触発されてか、珍しく由乃が普通にデートしよう
なんて言い出して「何処に行くの」って聞くと、「遊園地!」っていう答えが返ってきた。
久しぶりに遊園地に行くなんて約束をしたのに。それが原因で由乃に嫌われるなんて!
「待って、由乃!」
令は島津、支倉両家を繋ぐ裏庭に向かう廊下を、足元を滑らせながら走り出した。
お姉さまからのお願いが頭の中にリフレインする。
−今度の日曜日、M駅に来る聖を足止めして頂戴。時間は9時前。M駅の改札前でお願い。
−足止め、ですか?
−そう。理由は何でも良いわ。由乃ちゃんが怒って逃げたから一緒に探してくれとでも、なんとで
も言って。
−そ、そんな無茶な。
−無茶でも、なんでもいいから。
−で、でも。
−ご褒美に日を改めてデートしてあげる。キスもしてあげるから。
−やります!
−ふふふ、お願いね。好きよ、令。
「ああ、久しぶりだったからお姉さまの甘い声に……」
それどころじゃない、とにかく由乃をなんとかしないと。
とりあえず、聖さまの足止めに協力して貰って、それから遊園地に向かっても良いし。
由乃が望むなら、お弁当でも、デザートでもなんでも作ってあげるから。
どうしてもっていうなら、キスだってなんだって!
だからお願い、由乃ぉ。機嫌直してよぉ!
役者は揃った。
−To Be Next ACTION−
ごきげんよう。
まさかこんなに早く、1万HIT超えるとは思いませんでした。
9000過ぎから慌てて書き出したもので、まだあんまり進んでません。
折角なのでALLキャストで行こうと思ったのが運のつき。
もはやSSとは言えないくらい長くなりそうで……。
可能な限り早く、完結させたいと思います。
2万HITはCGにしようと思う黄山でした。(爆
(それ以前に、2万までに終わるだろうか……)
それではまた近いうちに。
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