新・闘わないプログラマ No.476

引っ越す


「いったいなんでこんなに費用がかかるんだ?」
「『なんで』と言われましても」
「什器といっしょにパソコンをちょっと近くのビルまで移動させるだけだろ? たったそれだけで1千万以上もかかるわけないだろ?」
「『パソコン』というか、あれはサーバ機なんですが。その上で例のシステムが動いているんですが」
「パソコンはパソコンだろうが」
「機器の移転を三連休あたりでやって、その間、システムを停止していいのならば、もっと安くすることもできるのですけど」
「そりゃ、ダメだ。止められるのはせいぜい土曜の深夜から日曜の明け方くらいまでだな。その間に運べばいいだろ?」
「そう簡単にはいかないですよ。運ぶ前にはデータのバックアップも取っておかないといけないですし、システム停止して、解体を行って、運んで、また組み立てて、なんてやっていたら2日くらいは絶対に必要です。何かあったときのための予備日も必要ですし」
「そこをなんとかするのがお前らの仕事だろ」
「ですから、移転先で新規にサーバを立てて、回線なんかもとりあえず別に引いておいて、向こうでもシステムを稼動できる状態にしておいて、ある時点で切り替えるしか、システムの停止時間を短くできないわけです。ですから、どうしても費用的にも……」
「ダメだ。パソコンの運送にかかる費用くらししか出せん。せいぜい数十万だな」
「いくらなんでもその費用では何もできません。だいたい、移転先の電源や回線やLANの工事はどうするんですか?」
「そんなもん、おまえらでやればタダでできるだろ?」
「いや、我々でやったからってタダってわけじゃないですし、だいたいにしてそれは無理です。LAN工事はともかく、電源や回線の工事には資格が必要です」
「んなもん、こっそりやればバレないだろうが」

「そもそも、なんで移転しないといけないんですか? ここに機器を設置するときに念を押しましたよね? 『本当にここを機械室にしていいんですか?』『後で、やっぱり移転するから、と言われても多額の費用がかかりますよ』って」
「うるせー、そんな話は忘れた」
「そもそも、なんでこんな場所を機械室に指定したんですか?」
「あー、忘れた忘れた」
「A専務が退任したあと、いくら空いているからって、元A専務室を機械室に使わなくたってよかったんじゃないですか」
「……」
「それを、役員が増えたからって急に『立ち退け』とか言われても」
「んなこと言ったって、仕方ねーだろ。こんど副社長として来るBさんが『あの部屋、見晴らしもよさそうだし、あそこを副社長室にしたい』って聞かないんだからさ」

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