新・闘わないプログラマ No.411

Acrobat


今を去ること数年前、確かあれは前世紀も終わろうとしているある日のことだったと思います。

「なあ、メールってさあ、送れる情報って文字ばかりじゃん。もうちょっといろんな情報を書式化して送れないかな、と思ってるんだよね」
「まあねえ、HTMLメールなんてのもあるけど、そういうのを嫌う人もいるからね。何か、そういうのを送りたいわけ?」
「そう、ワープロソフトや表計算ソフトで作った文書をそのまま送りたいんだよね」
「だったら、それらのソフトで作ったファイルをメールに添付すれば?」
「いや、それだと、そのソフトを持っている人しか見れないじゃん。それに、そういうファイルって、ソフトを持っている人は偽造や変造がやり放題だから、そういうのは避けたいんだよね」
「それで?」
「それで、新しくソフトを作ろうかと思ってるんだよね。新しいファイルフォーマットを決めて、そのフォーマットの文書を作れるのは有料のソフトだけにして、閲覧用のソフトは無料で配れば、すごい商売になりそう」
「ふうん?」
「でねでね、ファイルフォーマットを秘密にしておけば作成用ソフトは他に作れないわけだから、誰もがいやでもうちのソフトを使わないといけなくなって、うはうは」
「うはうは……ってねえ。それって、つまりPDFもどき?」
「PDF? なにそれ?」
「え? PDFを知らないの? だいたい君が言ったような話だよ。もうすでにそういうのがあるんだよね。ただ違いがあるとすれば、PDFは仕様が公開されていることかな」

まだPDFの知名度がそれほど高くなかった時代とは言え、PDF対抗馬を作るには遅すぎたような気がしなくもありませんでした。だいたいPDFのことすら知らないで、そんなものを作り始めようとしたのは無謀としか言いようがありません。
聞くところによれば、某社にて、数名のチームで開発を始めたそうですが、1年ほどで挫折したそうです。

私自身、PDFが絡む仕事というのも、何年も前からやっています。しかし、PDFの内部に踏み込むような仕事はしていませんので、いまだに謎が多いのも事実です。いやまあ、単に調べるのをサボっているだけで、現実には仕様は公開されているし、情報だってあちこちに転がっているわけですから、別に「謎」でもなんでも無いわけですが。
そんなおり、「自在眼」などのソフトで有名なアンテナハウスの社長さんによる、「PDF千夜一夜」はたいへん勉強になります。もう、このまま本にもできそうなクオリティです。毎朝更新されているようで、ここのところ、出社したら真っ先に読むのが習慣になってしまっています。
これを読むと、本当にPDFは奥が深いですね。PostScriptとも関係があって、となると印刷や出版の世界とも関係があって、そっち方面はよくわからない私としては、大変タメになります。本の原稿を書いたところで、こっちとしてはテキストファイルに原稿を書くだけで、あとは「よろしくおねがいします」の世界ですから、印刷のことなど素人同然な私です。

さて、話は変わりますが、何か原稿を書いて、それの校正を行うためのゲラをPDFでもらうことが多くなりました。PDFをメールなりなんなりでもらって、それに注釈を書き入れて送り返す、という感じです。
で、こういうふうにPDF上で校正をするためには、Acrobat Reader (Adobe Reader)のようなフリーのPDF閲覧ソフトではダメで、それなりの有料ソフトウェアを買わないといけません。しかも、単にPDFを作成するためだけならば、Adobe Acrobat Elementのような安いソフト(数千円)でもできるのですが、校正をするためには、Acrobat Standard (3万数千円)のようなソフトが必要になります。
仕方が無いので買いました、Acrobat Standard。Adobe(のプロ用)の製品って、どれでも結構いいお値段がするわけで、Acrobatも高いですよね。そんなに機能がなさそうなのに。
まあ、私としても、ゲラを紙でもらうよりは、PDFのほうが、

なんていう利点があるわけで、あまり文句を言う筋合いではないのかも知れません。
しかし、そんな利点があるわりには、いつも「正誤表」なんてのにお世話になったりもしているわけで、まあなんと言いますか……。

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