中国の昔 < 紀元前11世紀 > 周 秦 漢 唐という時代、2000年間長安と呼ばれる都があった。 シルクロードの出発点でもあり歴史と文化の発祥地でもある。 唐の滅亡と共に破壊され、明代に再建、今は西安と呼ばれている。 夢枕獏氏の著書「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」発行を待ち望んで巻ノ四刊、完読。 僧空海が遣唐使船で都に渡り活躍した物語。そんな長安の街に憧れを抱き、いつしか幻想の世界に浸る。 空海の存在は、エネルギッシュな行動力と発想力に、魅力ある人物として興味を抱いていた。その空海が 闊歩した地、長安の都。今世紀は西安。何時かは訪れたいと願った地に降り立った。 10月22日 上海経由国内便に乗り換え、西安咸陽空港上空 重い厚い雲 思いのほか激しい揺れの後、 現地時間16時20分到着。 降り立った西安は雨 シルクロード起点群像も夕暮れの底に沈む。 花博の名残の花々が微かに彩を灯していた。 かつての都 長安の香りを探す旅の始まり・・・ 2日目の朝も雨 兵馬俑抗博物館へ かの夢枕氏の著書の中では、地中より土の兵が動き出し、おどろおどろしき躍動感の世界。はたして・・・ 一号館そこは大工場のような空間。その広がりの中、整然と並べられた無数の兵馬俑。空虚さと無言の連なり。 無表情だけど一つとして同じ顔、同じ姿のないの灰色の存在感。反対に神経をざわめかす多くの観光客の蠢き、 通過するだけの観光客の存在の希薄さ。三号館 二号館と回るうち自分の存在をも薄れていく様・・・何故か頭の 片隅に残る、ほっそりと造られた馬車を操る人。体重制限だって、意識もきめ細かい。 次に訪れた半坡博物館 新石器時代の遺跡で、6000年前の竪穴式住居後から土器や人骨など発見された。中国で初めて建てられた 博物館らしいが、今は人気もなくなり、灰色の世界は荒涼として寒々しい。その灰色の台地の凹凸や窪みのあち こちに割れた壺が数点かためて置いてある。すべて子供の骨壺だとか・・大人は離れた墓所に葬るが、子供の 骨は生活圏身近に置かれている。母系民族共同体であったとされる当時の、その悲しみが伝わってくるように思う。 市内に移動し西安博物院で特別見学。 細い通路をたどり小さな部屋へ。白い手袋を付けさせられ、3000年以上前の骨董品を手に取る。青銅器、鏡、 金、仏像・・長い年月を経た品々、持つ手に自ずと力が入る。何時誰が手にしたものか・・・これも出会いの不思議、 小さな仏像の感触が今も残る。 院を出て、ほっと息を・・・いつしか雨も止み、歩いて薦福寺<小雁塔>へ。煉瓦造りの塔の上部は地震の為崩れた とか、時代の重みをひしと感じながらしばし散策。 夕暮れ少し前、西の城門近くに移動。絶え間ない車の往来。かつてそこに奈良の平城京が模したという長安の都 があったという。朱雀大通りは何処に? シルクロードの起点である国際都市のイメージは?なかなか見つからない。 もう、夢、幻の世界なのだろうか? 3日目も西安滞在 雨も上がり曇り空の中 華厳寺へ 華厳寺前の道路でバスを下され、山の中腹にある寺まで歩く。昨日までの雨でぬかるみ、泥んこ修行。やっとたどり 着くも、がけ崩れで建物が埋まっていたり、今にも崩れてきそうな山肌にヒヤリとしたり、靴底にへばりつく赤土、 かつてない経験にとなえた般若心経にもやたらと力が入る。帰りは近道と、途中梯子を下りたり、お転婆をがぜん 発揮。やっと戻ってきたところで、出会った現地の人いわく、「華厳寺には行かない方がいいよ。危ないよ。」って・・・ すでにもう遅し。 その後 香積寺 興教寺と訪れ読経。昼食後も慈恩寺<大雁塔>へ。そしていよいよ空海が密教を学んだ青龍寺へ 青龍寺のご住職(寛涛氏)がツアーに同行して下さり、見学、読経の後、懇談会。西国八十八か所第0番札所として 日本のツアーが大勢訪れるとの事。日本人向けに施設も整われ、日本人の寄付で支えられている様子。どんな 修行をとの問いに、修行の方法は空海が持って帰ったから何もしていないとの事。通訳が入るのでどこまで聞けた のかよくわからないが、土産物売り場にも、日本の流儀がかいま見られた。イメージの更新ははかなく崩れる。 夕食の餃子と唐歌舞ショー、これが中国の現実。 4日目早朝出発 敦煌へ 5:45ホテル出発 8:25敦煌航空 2時間半程で1800km離れた敦煌へ そこではやっと青い空が迎えてくれた。バスで市内へ。こじんまりとした街中、交通量も少なく、時も緩やかに流れて いるように感じる。 しばし休憩後、近くのスーパーマーケットを散策。赤いぽち袋を購入。そこには金色で「如意」と・・・
スケールの大きさに感激。見渡す限り大陸の大砂漠。砂山の稜線がなだらかな美しいラインを描く。 偉大な自然の造景は言いようのない感慨を深く心に刻み込む。砂と戯れながらの下山。子供の様にはしゃぎ ながら・・・集合時間ぎりぎり。
帰路はラクダに乗って出口まで。揺れに任せた体の動きは、自然にリズムを奏で初めてなのになぜか懐かしい 面持。心躍り前世の記憶かななどと幻想の世界。 包み込まれそうな砂の大地、夕暮れ、赤く染まりつつある自然の演出。振り向き振り向き、見飽きず、又振り向き ながら・・・マロニエの木々が秋の佇まい。 5日目 敦煌滞在 <世界遺産> 莫高窟 朝、川にはうっすらと氷、頬に冷たい風。それを忘れさせる程、青空が憧れの地に誘う。 初唐、盛唐、隋、西魏、北魏など陳列館を含め11窟ほど。通常の1.5倍の長さの見学。小さな窟、他の旅行者との 交錯などでゆっくり見る事もできない場面もあったが、その彩や造形は圧倒、異次元の世界。当時の空気感や息 遣いも感じられ、もっとその物語を知りたいと願った。 遺跡保護の為もう実物を見れなくなるやもしれないとの事。今この地を訪れ本物に出会えた喜びを心から嬉しく 思い、感謝の念。
7日目 西安 4:00 モーニングコール 荷物はスルーで関空へ 上海浦東空港10時 到着後バスで上海ヒルズへ 100階の展望はこれでもかと乱立する ビル群を足下に・・果てしなく曇り。 北京ダックの昼食の後、リニアモーターカーで空港へ。時速430km越え 8分間の乗車 なぜそんなに急ぐ? より高い事と速い事が進歩の証なのか? なぜか空虚に感じるのは私だけなのだろうか? 18:00 帰国の途に着く。 旅立つ前に文献などで想像していた世界と、現地の現実の違いに愕然とすることは多々あるが、その想像を 超える大きな感慨を得ることもある。 今回の旅も憧れと空想から始まり、私のちっぽけなイメージと絵空事の幻想は大きな自然に打ち砕かれ、人の 培ってきた歴史の重みにかき消された。そしてそこから実感を伴った新たな世界が又息づき始める。それが面 白くて又旅に焦がれる。 今まで経験した事のない大陸の風と大きさ、それに対峙して生きていた人の強さ。私も大きくおおらかな視野を 持ちたいと思う。今を生きる、現実の日常をこなしていく上で、憧れや幻想が今を支えていることもある。 これからも大いに空想し妄想し迷走し・・そしてしっかり瞑想し、生きる事にしよう。そもそも人生ってすべて錯覚 ではないだろうか。と思う今日この頃。 2011.12 kun 記 |