Martinギターはその構造材質によって型番が付けられている。
序文でも述べたが、分類大綱の一つは型番最初部分のアルファベットなどで表されるボディサイズ。
そしてもう一つは型番に表示された数字部分である。
型番に“18”と称されるモデルは、伝統的Martinギターにおいてのベーシックモデルであり、装飾などが殆ど施されないモデルである。
材質は表板はスプルース。ネックとボディは基本的にマホガニー製となっている。
現在ではマホガニー・ギターの代表としてみられるこのStyle18も、1917年以前はローズウッド、当時はブラジリアン(ハカランダ)が使われていた。
それ以前には、メープルボディのStyle18も作られたことがあるらしい。
つまり、Style18の確立は1917年以降、と言っても良いであろう。
そして、1922年にMartinギターは、製品をそれまでのガット弦仕様からスチール弦仕様への切替を開始し、ここに現代アコースティック・ギターは黎明を迎えるのである。
現代Style18の標準的な仕様をまとめると
等が挙げられる。
- 表板はスプルース。
- ネックとボディはマホガニー製。
- ダイヤモンドボリュートと呼ばれる三角形の瘤をペグヘッド裏に持たない。
- ドット・ポジションマーク以外のインレイを持たない。
- 象牙やアイボロイドなどの白色のボディバインディングを持たない。
(ローズウッドなどの木製、あるいは黒や鼈甲柄の樹脂)- シンプルな子持ち線のみで構成されたボディトリムとサウンドホールロゼット
Style28以上に存在するダイヤモンドボリュート(上)
かつてペグヘッドは、ネックとヘッド部分を接合して作っていた。
その接合部を補強するために継ぎ目の部分に装飾を兼ねた瘤を取付けたのが始まり。
今ではネックはヘッドからヒールまで一本の材から一体で削り出されるため(安価な物では継ぎ合わせてから削られて物もある)ダイヤモンドボリュートはその構造的意味を失ってしまった。
しかしながら、この瘤がデザイン的に好きだという方は多い。
大きな型番でも例外的にStyle35など比較的新しいシリーズには、このダイヤモンドボリュートを持たない機種もある。
Martin Style18は装飾が殆どなくシンプルで、価格的にもMartinギターラインナップ中で下位のグループに属する。そんな理由から、「貧乏くさい廉価モデル」と見る方もいらっしゃるようだが、決してそうではない。
シンプルな中にも歴史を含んだ、基本的な重要モデル。いわばアコースティック・ギターのリファレンスとも言えるのだ。
長い歴史を持つStyle18にはその仕様にかなりの変遷があり、謎も多い。
ゆっくりとした歩みながら、その流れを探っていきたいと思う。