GBのアームチェアCinema見ist:イノセンス:INNOCENCE

イノセンス

イノセンス:INNOCENCE

監  督 押井守
音  楽 川井憲次
主  演 大塚明夫
助  演 田中敦子
製 作 年 2004
シナリオ 押井守
原  作 士郎正宗


国内封切り時には特定ファン層(要するにヲタク)を除いてさほどではなかったが、海外で異常なまでの評価を受けた“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”の続編。
原作は士郎正宗によるコミックス。監督はこの手の世界観を描かせたら恐らく世界一級であると言っても過言ではない押井守。
攻殻機動隊:Ghost in The Shell”の感想で、

2004年には本作では助演だったサイボーグ刑事バトーを主人公とした作品が、なんとあのジブリ作品として公開されるらしい。

と書いた。プロデューサーにあの鈴木敏夫が名を連ねているが、スタジオ・ジブリ作品ではなく、ジブリは製作協力という位置になっているようだ。

のっけから異様とも思える映像の奇異さに目を奪われる。
恐らく手書き背景のデジタライズと伝統的セルアニメーション(とは言え、今はセル・アニメもコンピュータ上で制作されているらしい)の合成なのだろうが、俗に言うCGの無機質なリアルさではない変に現実的で生々しい、しかし実際の世界の何処にもない風景が目前の展開して観客を一気に物語り世界に引きずり込む手法は見事である。

押井の攻殻シリーズ前作:Ghost in The Shellでも、その斬新な作画・作劇手法に目を奪われたが、それから10年、確実に映像表現は進歩している。
この手の手書き風3D CGの背景を最初に意識して見た記憶は確か、ジブリの「耳をすませば(1995)」の図書館内部の風景だったと思うが、その時はその3D背景のみが妙に浮いて違和感があった。
本作の場合はあまりのリアルさに奇異は感じたが、全体像としての違和感はなかった。こういうことを進歩と言うのだと思う。

さて、作品である。本作も又、原作どおり、異様に情報量が多い。
登場人物の台詞なども無意味なほど観念的哲学的で、比喩暗喩だらけ。

こんな作品がヲタク以外の一般人に受け入れられるのだろうか?
そんな感想を持つのだが、意外にも劇場は女性客やカップルばかりであった。
水曜日は女性サービスデーで、入館料が安いというのもあるのか?
しかし、単に安いだけでこの映画を選んだのだろうか??
私が行くのはいつものシネマコンプレクッス。
同一館内で他に幾らでも女性が好みそうなプログラムが同時上映されているのだ。

バトーは生きた人形(サイボーグ)である.腕も脚も,その身体のすべてが造り物.残されているのはわずかな脳と,一人の女性,素子(もとこ)の記憶だけ.

イノセンス それは,いのち.
予告編に流れるキャッチである。
ラブシーンなど一切無いがこれはある意味“恋愛映画”とも言えなくはない。
更に言えば、これほどプラトニックでストイックなラブストーリーもない。
何故なら登場人物達には一部を除いて、肉欲とその執着の対象となる固定的な肉体は不要、あるいは肉体を所有することすら放棄してしまっている形而上的存在なのだから。
故に、このストーリーは、極めてロマンチックと言えば言えるのではあるが…

本作の具体的唯物的題材は血飛沫上がる銃撃戦と、観念の渦にある電脳戦、そして、永遠のフェティズム対象である愛玩用“球体関節人形”。
メタフィジック(形而上的)の対極をなす理想的人型を具現した“少女型愛玩人形”がテーマというのは何とも暗喩に満ちている気もする。
私的には好みの世界であるが、普通はこういうのは変態の属性を与えられる範疇である。
本当に受けているのかなぁ…ワカランナァ…

Ghost in The Shell そもそも、本作は前作の“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”、あるいは士郎正宗の原作を知らないと何の事やらさっぱり分らないはずなのである。
前作“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”は、最近廉価版のDVDが発売されたので、もしこの映画をご覧になる向きでまだ前作をご存じない方は(余りいないと思うが…)こちらを先にお奨めする。

オマケ

Ghost in The Shell 攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL PREMIUM PHOTO-CD

“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”公開時にはこんなものも発売された。
内容は、士郎正宗直筆カラー原画、アニメーション素材、 銃器設計図など、画像約100点を米国イーストマン・コダック社の発表したPHOTO-CD規格で収録…

Photo-CDと言うのが流石に10年の歳月を感じさせる。いまならDVDの動画だろうなぁ…。
「発売された」と書いたが、実はパッケージには[Not For Sale]と書かれている。
実は前売り券と抱き合わせで販売された物なのだ。
(これを所蔵するアタシって、一体…)

原作コミックについて

本作、“イノセンス”は押井守のオリジナルシナリオで、映画のエピソードは原作にはない。

Ghost in The Shell 攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL

映画“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”人形使いの話はこの原作に含まれるエピソード。

MANMACHINE INTERFACE 攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE

原作の第二巻。
初版限定で、ちょっと可愛いマウスパッドが付いていたのがかなり嬉しい…


攻殻機動隊1.5 攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER

上記単行本未収録でGhost in The Shell以降の物語を集めたもの。

付録に本編のコミックをe-manga形式で収録したCD-ROM(Win/Macハイブリッド)が付属するので、少々お高い…

(これを全部所蔵するアタシって、一体…)

イノセンス 原作の士郎正宗は可愛く色っぽい女を描く作家である。
しかし、この映画にはそう言うキャラクターは一人も出てこない。
主題となる“球体関節人形”も、どちらかというと不気味な姿で描かれる。
その他の女性登場人物は、死体フェチを感じさせる検死官のオバハンと少なくとも少しも可愛くない少女。
そして、主人公はゴツイオッサンなのである。これが本当に一般受けするのだろうか…

唯一可愛い(?)キャラクターは、バトーの飼い犬、バセット・ハウンドなのだが。

音楽は“攻殻機動隊:Ghost in The Shell”のイメージをそのまま継承しており、なかなか雰囲気を醸しているが、今回はエンディングテーマ付である。
主題歌扱いのエンディングテーマはジャズ・シンガー、伊藤君子による“Follow me”。
ロドリーゴの“アランフェス協奏曲”に英語詞を付けた物である。
悪くない…

イノセンスの情景

INNOCENCE Animated Clips イノセンスの情景

企画・監修:押井守
音楽:川井憲次
歌:伊藤君子
演出:西久保瑞穂


こんなものも発売されている。
本編の美術背景をバックに、川井憲次の音楽と伊藤君子の歌を収録したミュージッククリップDVD。
言ってみれば、キャラクターのいない予告編集を金を出して買うようなものであるが…
悪くないんだな、これが…

収録曲は
映像はミョーにテツガク的ではあるが、余り気にせず、BGVとして使うのがよろしかろう…

追記

このDVDには“シークレット・トラック”なるものが仕掛けられている。
要するにメニュー操作では再生できない隠しデータなのだが…
曲目は、“Dog Box”(バセット・ハウンドのオルゴール)、“Follow me/Inst. Ver.”(まさにカラオケですな…) シークレットトラックを再生する方法
DOG BOX:再生開始時のProduction I.Gロゴで、プレイヤーの「決定」キーを押す。
もしくは本編再生終了後、メニュー画面で暫く放置する。
Follow Me(Instrumental Version):「DOG BOX」、犬の顔を手で引っ張るシーンでプレイヤーの「再生」キーを押す。
全部見てくれたお客様に対するお礼とでも言うつもりなのか…
お遊びとしては面白くないとは言えないのだが…何だかね。


return目次へ戻る